報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「私鉄路を往く」

2020-11-15 20:08:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日15:11.天候:晴 栃木県日光市今市 東武鉄道下今市駅→東武鬼怒川線321電車先頭車内]

 

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 しばらく駅で過ごしていると、ようやく3番線に今日の目的地の町まで行く普通列車が入線してきた。
 案内の通り、2両編成の電車である。
 先ほどの東武日光行きが4両編成であるのとは違う。

 

 乗り込んでみると、ドア横の座席以外は全て4人用のボックスシートである。
 取りあえず前の車両の4人用ボックスシートを左右に2つ分確保しておいた。

 

 リサには窓側に座らせ、私はその隣に座る。
 高橋にはリサの向かい側に座らせておいた。

 

 東武の車両には折り畳みのテーブルも付いており、リサのおやつ……というか、もう1食分の駅弁の置き場になった。
 1時間に1本しか無く、しかも2両編成ともあれば乗客も少ないと思われた。
 しかし一応、地域輸送の面もあるのか、パラパラと乗って来る。
 乗客が急増したのは、東武日光行きの特急“けごん”が到着した時だった。
 東武日光まで行く乗客はそのまま乗っていればいいのだが、鬼怒川温泉方面へ行く場合は乗り換えないといけない。
 その乗客達がバタバタやってきたのだ。
 私はホームに降りて、その乗客達の中にいる善場主任達を出迎えた。

 愛原:「善場主任」
 善場:「愛原所長、お疲れさまです」
 愛原:「この電車でいいんですよね?」
 善場:「そうです」
 愛原:「席は確保しておきましたから、どうぞ」
 善場:「ありがとうございます。じゃ、乗ってください」
 栗原蓮華:「はい。……こんにちは」
 愛原:「あ、こんにちは」
 栗原愛里:「…………」

 栗原蓮華さんは一応といった感じで私に挨拶してきた。
 リサと同様、学校の制服を着ている。
 但し、高等部の制服なので、モスグリーンのブレザーはダブルである(中等部はシングル)。
 パンツスタイルの方が動き易く、左足の義足も隠せると思うのだが、蓮華さんはあえてそうしない。
 何でも、いつ自分の復讐相手(リサ・トレヴァー『1番』)に遭遇しても良いようにする為なのだそうだ。
 復讐相手に、自分の食い千切った左足の持ち主だと分からせる為に。
 対して妹の愛里さんは私服である。
 退学こそ免れたものの、無期限停学を言い渡されたのと、特に制服に拘りが無い為に私服なのだろう。
 こちらはリサを警戒してか、姉の後ろに隠れるようにして、私達の方を見ようともしなかった。
 リサ・トレヴァー日本版の少女達はセーラー服を着ている。
 彼女らにとっては制服であるから、それならこちらも、というのが共通しているうちのリサと蓮華さん。
 この辺な皮肉なものである。

 愛原:「この席でいいですか?」
 善場:「ありがとうございます。じゃあ、座って」
 蓮華:「はい。愛里はそっちね」
 愛里:「うん」

 愛里さんは進行方向窓側、善場主任はその隣、蓮華さんは妹の向かいに座った。
 荷物は網棚に置くものの、得物は足の間に挟んで、いつでも抜けるようにしている。
 もちろん、日本刀をそのまま持っているのではなく、一応白い麻袋に包んで、口の所を紐で縛っているのである。
 私達の銃と同様、特別に許可を受けたものだが、当然厳しい条件がある。
 即ち、あくまでもそれを使うのは、バイオハザード絡みのBOWやクリーチャー(生物兵器ウィルスに二次感染などして化け物となった者)相手に限られるというものだ。
 例え相手が犯罪者であっても、人間相手に使うことは許されない。
 正当防衛が認められればまた違うのかもしれないが、そもそもが銃刀法に違反しているわけだから、裁判所がおいそれと認めるとは思えない。
 正当防衛より遥かに認められやすい緊急避難(襲って来たのが人間ではなく、動物の場合。人間の場合は例え加害者でも人権侵害は認められないという考え方からだが、動物にはそもそも人権が無いから)についても同じだろう。
 因みに生物兵器ウィルスに感染してゾンビ化した元人間についてはどういう考えなのかというと、ちゃんと彼らに襲われた被害者の防衛行動が認められる。
 ゾンビ化した者は『医学的には死者同様』とされ、日本語では『活性死者』と呼ばれる。
 例え人間でも、遺体となった者には人権が消滅するからである(その為、葬儀屋の霊柩車など、遺体を搬送する車は法律上『旅客自動車』ではなく、『貨物自動車』である)。
 なので、被害者達は『正当防衛』ではなく、より認められやすい『緊急避難』となるのである。
 私達が遭遇した霧生市のバイオハザード、そこから命からがら脱出した者の殆どが、私達と同様、ゾンビなどに襲われ、中には殺してしまった者もいた。
 しかし政府は異例の発表をする。
 霧生市の件においてだけは、無条件で緊急避難並びに正当防衛を認めると。

〔「ご案内致します。この電車は15時14分発、東武鬼怒川線、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きです。まもなく発車致します」〕

 特急からの乗り換え客が全員乗り込むと、2両編成の電車は一気に満席に近い様相を見せた。
 これなら先ほども東武日光行きみたいに4両編成でも良いのではないかと思うが、その心配は東武線内のみ有効である。
 後部から車掌の笛の音が聞こえてくると、エアの音がしてドアが閉まった。
 ドアチャイムなど無く、大きなドアエンジンの音がその代わりと揶揄されるのが東武電車の特徴だが、最近の新型車両にはそのような特徴は無くなっている。
 この電車も、そんな特徴を残したレトロ電車なのだろう。
 実際、行き先表示がLEDではなく、クルクルと回る幕式のままである。
 電車が走り出す。
 やっぱり徐行状態のまま発車して行くと、電車がガクンと大きく揺れて、床下から大きな車輪の軋み音が聞こえて来た。

〔「お待たせ致しました。本日も東武鉄道をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は15時14分発、東武鬼怒川線、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きです。これから先、大谷向(だいやむこう)、大桑、新高徳、小佐越、東武ワールドスクウェア、鬼怒川温泉、鬼怒川公園、新藤原の順に各駅に停車致します。電車は2両編成での運転です。お手洗いは前の車両の連結器前にございます。【中略】次は大谷向、大谷向てす」〕

 2両編成だとワンマン運転をしている列車が殆どだが、この電車はツーマン運転のようである。
 東武線内だけというわけではなく、全区間そうである。
 実際車内にはワンマン設備の典型である整理券発行機や運賃表、運賃箱が存在しない。
 東武鉄道でもワンマン運転をしている線区、区間は存在するが、それらを必要としない『都市型ワンマン』オンリーであり、地方型ワンマンは行われていない。
 しかしワンマン運転の区間そのものはジワジワと拡大しているし、乗り入れ先の会津鉄道では、ディーゼルカーにおいて地方型ワンマンを行っているので、この辺りもいつかはワンマン運転になるのかもしれない。

 愛原:「ここから2時間45分の旅か。長いな」
 高橋:「ガチで1日掛かりっスね。昔は高速バスで行けたのに」
 愛原:「まあな……」

 電車は悪い線形で車体を右に左にくねらせながら、北上を続けた。
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“私立探偵 愛原学” 「下今市駅にて」

2020-11-15 16:03:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日14:45.天候:晴 栃木県日光市今市 東武鉄道下今市駅]

〔「まもなく下今市、下今市です。2番線に入ります。お出口は、左側です。お乗り換えの御案内を申し上げます。上今市方面、各駅停車の東武日光行きは、向かい側1番線から14時55分発です。新藤原方面、野岩(やがん)鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きは、3番線から15時14分発です。お乗り換えの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください。下今市を出ますと、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に停車致します」〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 都内から鉄道で東北地方に行こうとすると、恐らく私達は一番マイナーなルートを進んでいる。
 ここへ来て、ようやく南端とはいえ東北地方の一地域である会津の名前が出てきた。
 関東地方のようで、東北地方のようでもある。
 東北地方のようで、関東地方かもしれない。
 私達がこれから行く霧生市は、そういう所にある。
 かつては高速バス一本で行けたあの町も、壊滅してからは運行されなくなり、その町の1番近くまで行く鉄道で今向かっている。

 愛原:「よし。ここで乗り換えだ」

 私達は荷棚から荷物を降ろした。
 他にも日光へ向かう乗客達が降りる準備をしている。
 そして、列車がホームに入線すると、確かに向かい側に4両編成の普通列車が停車していた。
 2ドアで、赤いモケットのボックスシートが並んでいるのが分かる。
 私達が乗り換える普通列車も、あれと同じタイプなのだろう。

〔「下今市、下今市です。東武日光行きは、1番線から発車致します。2番線の電車は14時46分発、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです」〕

 電車が到着してドアが開くと、私達はホームに降り立った。
 確かに、乗客の3分の1くらいは向かい側の普通列車に乗り換えて行く。
 リクライニングシートからボックスシートという、また違う旅情を味わいながら日光に向かうのも良いだろう。
 実際、鉄道で日光へ行こうとすると、どうしてもこの東武線利用の方がメジャーになってくる。
 東武日光線は比較的開けた場所を通っているのに対し、JR日光線は鬱蒼とした山林の中を走るのだという。

 高橋:「先生。やっぱ30分もあるせいか、向こうに電車いないっスよ」
 愛原:「だろうな。だけど、その無駄が旅心あるってものじゃないか」
 高橋:「さすが先生です。……おい、どうした、リサ?早く行くぞ」
 リサ:「ちょっと待って」

 リサが今まで乗って来た電車の中を覗き込むように見ている。
 東武線直通用の電車だから、珍しいのかな?
 デラックスさは同区間を走行する東武スペーシアと比べると、どうしても劣る感じはするのだが。

〔「2番線、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行き、まもなく発車致します」〕

 一番後ろの車両から、車掌が笛を吹く音が聞こえて来た。
 そして、すぐにドアが閉まる。
 電車が走り出すが、スーッと加速はしない。
 少し走り出すだけで、すぐ加速を止めてしまった。
 まるで、路面電車が出て行くみたいだ。
 それもそのはず。
 東武日光線の方が本線よろしく、緩やかな左カーブを描いているのに対し、東武鬼怒川線は支線であるかのように、急な右カーブを描いている。
 まるで東武浅草駅を出発した後のようだ。
 その為、厳しい速度制限が掛かっているのである。
 実際、出て行く時もやたら車輪がレールの急カーブに軋む音を響かせていた。
 電車が出て行く方を見ると、東武日光線がそのまま複線なのに対し、東武鬼怒川線は単線になっている。
 日光と鬼怒川、今やどちらも北関東のメジャーな観光地として双肩する場所に向かう鉄道だが、その路線は成り立ちの違いだけで、こうも格差が出るようである。

 愛原:「リサ、もういいか?早く行こう」
 リサ:「う、うん……」

 だが、リサは何故か緊張した顔になっていた。

 愛原:「どうした、リサ?」
 リサ:「ねえ、先生。“エブリン”って知ってる?」
 愛原:「エブリン?あれかな?2017年、アメリカのルイジアナ州で暴れた新型BOWのことか?」
 高橋:「先生、あれっスよ。あれのサンプルが群馬の田舎に何故かあって、それで俺達、痛い目見たじゃないですか」
 愛原:「真っ先にやられたのはオマエだけどな」
 高橋:「大変申し訳ありません!」
 リサ:「もしかしたらね、これからリサ・トレヴァーじゃなく、そのエブリンが襲ってくるかもしれないから気をつけて」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「群馬で先生がブッ殺してくれたんじゃなかったでしたっけ?」
 愛原:「そのはずだ。でも、アメリカのは10歳くらいの女の子の姿をしてたって話だぞ?」
 リサ:「うん。その姿をしてた……。さっきの電車の中……」
 愛原:「なにいっ!?」
 リサ:「出て行く時、乗ってないかどうか見てたんだけど、見えなかった」
 愛原:「じゃあ、気のせいじゃないのか?」
 リサ:「うん……」
 高橋:「後ろの車両に、家族連れとか、何か小学生の団体みたいなのが乗ってましたけどね」
 愛原:「遠足の帰りか何かだろう。とにかく、敵はリサ・トレヴァーだけという先入観は確かに危険だ。タイラントやネメシスなど、いきなり襲ってくるヤツもいるわけだからな。油断はしないに越したことはない」
 高橋:「了解です」

 私達は乗り換え先の電車が来る3番線に移動した。
 跨線橋に上がる。
 リサが先にパタパタと上がって行く。
 そういえばリサ、電車のトイレに行った時にスカートの裾を上げたらしい。
 何かあったのだろうか。

 
(旧・駅名板。写真はウィキペディアより)

 愛原:「乗り換え先の電車なんだけど、たった2両編成らしいぞ」
 高橋:「ますます田舎っぽいですね」
 愛原:「旅心満載だな」
 リサ:「善場さん達とは一緒に行くの?」
 愛原:「ああ。問題無いそうだ。先に俺達が乗って、席を確保しててあげよう」
 リサ:「分かった」
 高橋:「先生、ちょっと俺、便所行ってきます」
 愛原:「ああ。行ってこい」
 リサ:「先生、売店で駅弁売ってるって」
 愛原:「また食うのかよ」
 リサ:「これも『1番』に勝つ為だよ」
 愛原:「しょうがないな」

 私達は3番線・4番線ホームに、高橋は改札口近くのトイレに向かった。
 

 
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