[12月25日06:57.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→東北新幹線3001B列車10号車内]
〔17番線に、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが17両編成で参ります。【中略】黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
帰省ラッシュ第一波で賑わう大宮駅。
当然ながら、その中心地は新幹線乗り場である。
その中でも長距離運用の“はやぶさ”は頗る賑わっていたが、斉藤家が並ぶ車両は空いていた。
母親:「あなた、いくら何でも奮発しすぎじゃ……」
斉藤秀樹:「仕方無いだろう。飛行機にしようとしたら、絵恋が、『リサさんから「高飛び」って言われたからヤダ!』って言うものだから……」
母親:「娘に甘過ぎよ」
斉藤絵恋:「だってぇ……」
秀樹:「ま、悪いのは私だ。私が全て責任を取るさ」
母親:「本当よ」
〔「17番線、ご注意ください。6時57分発、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが到着致します。黄色い点字ブロックまで、お下がりください。大宮を出ますと、次は仙台に止まります。また、自由席はございませんので、ご注意ください」〕
赤い列車を先頭に、長大編成の列車が入線してきた。
それはE6系“こまち”である。
11号車のグリーン車以外の座席は、ほぼ埋まっているように見えた。
しかし、その後ろの車両……。
10号車のグランクラスは、ほんの数えるほどしか乗客が乗っていない。
〔「おはようございます。大宮ぁ、大宮です。6時57分発、東北新幹線“はやぶさ”1号と、秋田新幹線“こまち”1号です。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。次は仙台、仙台に止まります。前の方に続いて、ご乗車ください」〕
斉藤家は1等車たるグランクラスに乗り込んだ。
秀樹:「私はこっちに乗るから、キミ達はそっちに座りなさい」
母親:「ええ」
絵恋:「はぁい……」
グランクラスは1列席と2列席が並んでいる。
秀樹は1人席に腰かけ、絵恋と母親は2人席に座った。
1等車ということもあり、2等車であるグリーン車よりも広い。
すぐにホームから、発車ベルの音が鳴り響く。
〔17番線から、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが発車致します。次は、仙台に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「17番線、まもなくドアが閉まります。ご注意ください」〕
そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り響いて、列車のドアが閉まる。
大宮駅ではまだホームドアは設置されていないので、列車のドアが閉まり切ると、列車は動き出した。
母親:「あなた、本当に大丈夫なの?」
秀樹:「……心配無い。北海道には、私の友人がスキーペンションをやっている。絵恋が冬休みの間、そこに匿う……もとい、滞在させてくれるそうだ。スキーだけじゃなく、温泉もあるから、冬休みの間滞在するには最適だ」
母親:「そうじゃなくて、会社よ」
秀樹:「…………」
秀樹は何も答えられなかった。
アテンダント:「失礼致します。ご利用くださいまして、ありがとうございます。おしぼりをお持ち致しました」
グランクラスでは専任のアテンダントがいて、車内サービスをしてくれる。
かつてはグリーン車にもあったのだが、それは全廃されてしまった。
母親:「ありがとう。……ほら、あなたも」
秀樹:「うむ……」
アテンダント:「軽食をお持ちしても宜しいでしょうか?」
母親:「ええ、お願い」
アテンダント:「かしこまりました」
グランクラスではおしぼりサービスの他、軽食や飲み物の無料提供もある。
国内線航空機のビジネスクラスへの対抗心が窺える。
尚、あくまでも軽食なので、弁当形式の物が出るのだが、ボリュームは通常の駅弁より小さい。
だが、大食のリサにはおやつ程度の量でも、少食の者にあっては十分な量なのではなかろうか。
軽食を食べてから秀樹は……。
秀樹:「悪い。着くまで、少し休ませてもらうよ。キミ達は気にせず、寛いでてくれ」
母親:「ええ」
秀樹は窓のブラインドを降ろし、座席のリクライニングを最大限まで倒し、レッグレストを出した。
そして、ブランケットを掛けて、更にグランクラス専用のアメニティグッズの1つであるアイマスクを着用した。
絵恋:「お父さん、どうしたの?昨夜から忙しそうだったけど……」
母親:「ちょっと……会社の方でね、色々あったのよ。大丈夫。別に、潰れるわけじゃないから。ただ、社長として、色々ね……」
絵恋:「ふーん……?」
しかし絵恋も少女とはいえ、女。
思春期真っ只中で、いわゆる『女の勘』が働く頃である。
母親の言葉の中に、何となくウソを感じたのだった。
しかし絵恋は、それ以上は追及しなかった。
それよりも、気になることがあったからだ。
絵恋:「いくらLINEを送っても、リサさんが返信してくれないの。既読にすらならない。どうしよう……?嫌われちゃったよぅ……」
母親:「LINEの送信も程々にしないと嫌われるって何度も言ったでしょ?とにかく、既読が付くまで、あとはもう送信をやめなさい。愛原さんだって忙しいんだから、すぐにLINEを確認できない時だってあるでしょ」
絵恋:「でもォ……」
母親:「でもじゃない」
絵恋:「だってぇ……」
母親:「だってじゃない」
絵恋:「ぶー……」
母親:「むくれないの」
アテンダント:「失礼致します。お客様、お飲み物は何になさいますか?お茶菓子も御用意してございます」
母親:「ほら、飲み物だって。私はハーブティーを頂くわ。あ、それと、あちらの人は休んでるから、飲み物は結構よ。……ほら、絵恋は?」
絵恋:「アップルジュース……」
アテンダント:「かしこまりました」
飲み物と茶菓子も無料サービス。
……全てのサービスを受けられれば、もしかしたら、グリーン料金とグランクラス料金の差額分は取り戻せるかもしれない?
そんな貧乏くさい考えをしている作者は、一生グランクラスには乗れないだろう(グリーン車は“えきねっと”の『トクだね割』を使えば安く乗れる)。
絵恋:「むー……」
絵恋は機嫌が直らないまま、ジュースを飲みながら、ふと車内のLED表示板を見た。
そこでは、ニュースの文字放送が流れていた。
『◇◆◇参詣スポーツニュース◆◇◆ 雲羽百三氏、大宮駅東口にて女性とデート!?相手は同い年の無宗教の女性!雲羽氏の「寿退転宣言」は本当か!?』
絵恋:(どーでもいいわ……)
『◆◇◆嫁入新聞ニュース◇◆◇ 昨夜21時頃、東京都墨田区菊川のマンションで、男性2人が意識不明の重体で発見された。2人はこのマンションに窃盗目的で侵入しており、エレベーターで逃走中に、持っていた拳銃が暴発したと見られる。尚、2人は「化け物が現れた」「化け物だ。助けてくれ」などと、意味不明の発言をしていたことが判明しており、警察では意識が回復次第、精神鑑定を進めるとしている』
絵恋:「ブーッ!」
絵恋、ジュースを噴き出す。
絵恋:「ええーっ!?」
絵恋はそれがリサのしわざであると、ニュースの文字放送だけで分かったのであった。
〔17番線に、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが17両編成で参ります。【中略】黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
帰省ラッシュ第一波で賑わう大宮駅。
当然ながら、その中心地は新幹線乗り場である。
その中でも長距離運用の“はやぶさ”は頗る賑わっていたが、斉藤家が並ぶ車両は空いていた。
母親:「あなた、いくら何でも奮発しすぎじゃ……」
斉藤秀樹:「仕方無いだろう。飛行機にしようとしたら、絵恋が、『リサさんから「高飛び」って言われたからヤダ!』って言うものだから……」
母親:「娘に甘過ぎよ」
斉藤絵恋:「だってぇ……」
秀樹:「ま、悪いのは私だ。私が全て責任を取るさ」
母親:「本当よ」
〔「17番線、ご注意ください。6時57分発、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが到着致します。黄色い点字ブロックまで、お下がりください。大宮を出ますと、次は仙台に止まります。また、自由席はございませんので、ご注意ください」〕
赤い列車を先頭に、長大編成の列車が入線してきた。
それはE6系“こまち”である。
11号車のグリーン車以外の座席は、ほぼ埋まっているように見えた。
しかし、その後ろの車両……。
10号車のグランクラスは、ほんの数えるほどしか乗客が乗っていない。
〔「おはようございます。大宮ぁ、大宮です。6時57分発、東北新幹線“はやぶさ”1号と、秋田新幹線“こまち”1号です。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。次は仙台、仙台に止まります。前の方に続いて、ご乗車ください」〕
斉藤家は1等車たるグランクラスに乗り込んだ。
秀樹:「私はこっちに乗るから、キミ達はそっちに座りなさい」
母親:「ええ」
絵恋:「はぁい……」
グランクラスは1列席と2列席が並んでいる。
秀樹は1人席に腰かけ、絵恋と母親は2人席に座った。
1等車ということもあり、2等車であるグリーン車よりも広い。
すぐにホームから、発車ベルの音が鳴り響く。
〔17番線から、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが発車致します。次は、仙台に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「17番線、まもなくドアが閉まります。ご注意ください」〕
そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り響いて、列車のドアが閉まる。
大宮駅ではまだホームドアは設置されていないので、列車のドアが閉まり切ると、列車は動き出した。
母親:「あなた、本当に大丈夫なの?」
秀樹:「……心配無い。北海道には、私の友人がスキーペンションをやっている。絵恋が冬休みの間、そこに匿う……もとい、滞在させてくれるそうだ。スキーだけじゃなく、温泉もあるから、冬休みの間滞在するには最適だ」
母親:「そうじゃなくて、会社よ」
秀樹:「…………」
秀樹は何も答えられなかった。
アテンダント:「失礼致します。ご利用くださいまして、ありがとうございます。おしぼりをお持ち致しました」
グランクラスでは専任のアテンダントがいて、車内サービスをしてくれる。
かつてはグリーン車にもあったのだが、それは全廃されてしまった。
母親:「ありがとう。……ほら、あなたも」
秀樹:「うむ……」
アテンダント:「軽食をお持ちしても宜しいでしょうか?」
母親:「ええ、お願い」
アテンダント:「かしこまりました」
グランクラスではおしぼりサービスの他、軽食や飲み物の無料提供もある。
国内線航空機のビジネスクラスへの対抗心が窺える。
尚、あくまでも軽食なので、弁当形式の物が出るのだが、ボリュームは通常の駅弁より小さい。
だが、大食のリサにはおやつ程度の量でも、少食の者にあっては十分な量なのではなかろうか。
軽食を食べてから秀樹は……。
秀樹:「悪い。着くまで、少し休ませてもらうよ。キミ達は気にせず、寛いでてくれ」
母親:「ええ」
秀樹は窓のブラインドを降ろし、座席のリクライニングを最大限まで倒し、レッグレストを出した。
そして、ブランケットを掛けて、更にグランクラス専用のアメニティグッズの1つであるアイマスクを着用した。
絵恋:「お父さん、どうしたの?昨夜から忙しそうだったけど……」
母親:「ちょっと……会社の方でね、色々あったのよ。大丈夫。別に、潰れるわけじゃないから。ただ、社長として、色々ね……」
絵恋:「ふーん……?」
しかし絵恋も少女とはいえ、女。
思春期真っ只中で、いわゆる『女の勘』が働く頃である。
母親の言葉の中に、何となくウソを感じたのだった。
しかし絵恋は、それ以上は追及しなかった。
それよりも、気になることがあったからだ。
絵恋:「いくらLINEを送っても、リサさんが返信してくれないの。既読にすらならない。どうしよう……?嫌われちゃったよぅ……」
母親:「LINEの送信も程々にしないと嫌われるって何度も言ったでしょ?とにかく、既読が付くまで、あとはもう送信をやめなさい。愛原さんだって忙しいんだから、すぐにLINEを確認できない時だってあるでしょ」
絵恋:「でもォ……」
母親:「でもじゃない」
絵恋:「だってぇ……」
母親:「だってじゃない」
絵恋:「ぶー……」
母親:「むくれないの」
アテンダント:「失礼致します。お客様、お飲み物は何になさいますか?お茶菓子も御用意してございます」
母親:「ほら、飲み物だって。私はハーブティーを頂くわ。あ、それと、あちらの人は休んでるから、飲み物は結構よ。……ほら、絵恋は?」
絵恋:「アップルジュース……」
アテンダント:「かしこまりました」
飲み物と茶菓子も無料サービス。
……全てのサービスを受けられれば、もしかしたら、グリーン料金とグランクラス料金の差額分は取り戻せるかもしれない?
そんな貧乏くさい考えをしている作者は、一生グランクラスには乗れないだろう(グリーン車は“えきねっと”の『トクだね割』を使えば安く乗れる)。
絵恋:「むー……」
絵恋は機嫌が直らないまま、ジュースを飲みながら、ふと車内のLED表示板を見た。
そこでは、ニュースの文字放送が流れていた。
『◇◆◇参詣スポーツニュース◆◇◆ 雲羽百三氏、大宮駅東口にて女性とデート!?相手は同い年の無宗教の女性!雲羽氏の「寿退転宣言」は本当か!?』
絵恋:(どーでもいいわ……)
『◆◇◆嫁入新聞ニュース◇◆◇ 昨夜21時頃、東京都墨田区菊川のマンションで、男性2人が意識不明の重体で発見された。2人はこのマンションに窃盗目的で侵入しており、エレベーターで逃走中に、持っていた拳銃が暴発したと見られる。尚、2人は「化け物が現れた」「化け物だ。助けてくれ」などと、意味不明の発言をしていたことが判明しており、警察では意識が回復次第、精神鑑定を進めるとしている』
絵恋:「ブーッ!」
絵恋、ジュースを噴き出す。
絵恋:「ええーっ!?」
絵恋はそれがリサのしわざであると、ニュースの文字放送だけで分かったのであった。