報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「高飛び開始の斉藤家」

2021-12-26 11:20:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月25日06:57.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→東北新幹線3001B列車10号車内]

〔17番線に、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが17両編成で参ります。【中略】黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 帰省ラッシュ第一波で賑わう大宮駅。
 当然ながら、その中心地は新幹線乗り場である。
 その中でも長距離運用の“はやぶさ”は頗る賑わっていたが、斉藤家が並ぶ車両は空いていた。

 母親:「あなた、いくら何でも奮発しすぎじゃ……」
 斉藤秀樹:「仕方無いだろう。飛行機にしようとしたら、絵恋が、『リサさんから「高飛び」って言われたからヤダ!』って言うものだから……」
 母親:「娘に甘過ぎよ」
 斉藤絵恋:「だってぇ……」
 秀樹:「ま、悪いのは私だ。私が全て責任を取るさ」
 母親:「本当よ」

〔「17番線、ご注意ください。6時57分発、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが到着致します。黄色い点字ブロックまで、お下がりください。大宮を出ますと、次は仙台に止まります。また、自由席はございませんので、ご注意ください」〕

 赤い列車を先頭に、長大編成の列車が入線してきた。
 それはE6系“こまち”である。
 11号車のグリーン車以外の座席は、ほぼ埋まっているように見えた。
 しかし、その後ろの車両……。
 10号車のグランクラスは、ほんの数えるほどしか乗客が乗っていない。

〔「おはようございます。大宮ぁ、大宮です。6時57分発、東北新幹線“はやぶさ”1号と、秋田新幹線“こまち”1号です。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。次は仙台、仙台に止まります。前の方に続いて、ご乗車ください」〕

 斉藤家は1等車たるグランクラスに乗り込んだ。

 秀樹:「私はこっちに乗るから、キミ達はそっちに座りなさい」
 母親:「ええ」
 絵恋:「はぁい……」

 グランクラスは1列席と2列席が並んでいる。
 秀樹は1人席に腰かけ、絵恋と母親は2人席に座った。
 1等車ということもあり、2等車であるグリーン車よりも広い。
 すぐにホームから、発車ベルの音が鳴り響く。

〔17番線から、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが発車致します。次は、仙台に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「17番線、まもなくドアが閉まります。ご注意ください」〕

 そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り響いて、列車のドアが閉まる。
 大宮駅ではまだホームドアは設置されていないので、列車のドアが閉まり切ると、列車は動き出した。

 母親:「あなた、本当に大丈夫なの?」
 秀樹:「……心配無い。北海道には、私の友人がスキーペンションをやっている。絵恋が冬休みの間、そこに匿う……もとい、滞在させてくれるそうだ。スキーだけじゃなく、温泉もあるから、冬休みの間滞在するには最適だ」
 母親:「そうじゃなくて、会社よ」
 秀樹:「…………」

 秀樹は何も答えられなかった。

 アテンダント:「失礼致します。ご利用くださいまして、ありがとうございます。おしぼりをお持ち致しました」

 グランクラスでは専任のアテンダントがいて、車内サービスをしてくれる。
 かつてはグリーン車にもあったのだが、それは全廃されてしまった。

 母親:「ありがとう。……ほら、あなたも」
 秀樹:「うむ……」
 アテンダント:「軽食をお持ちしても宜しいでしょうか?」
 母親:「ええ、お願い」
 アテンダント:「かしこまりました」

 グランクラスではおしぼりサービスの他、軽食や飲み物の無料提供もある。
 国内線航空機のビジネスクラスへの対抗心が窺える。
 尚、あくまでも軽食なので、弁当形式の物が出るのだが、ボリュームは通常の駅弁より小さい。
 だが、大食のリサにはおやつ程度の量でも、少食の者にあっては十分な量なのではなかろうか。
 軽食を食べてから秀樹は……。

 秀樹:「悪い。着くまで、少し休ませてもらうよ。キミ達は気にせず、寛いでてくれ」
 母親:「ええ」

 秀樹は窓のブラインドを降ろし、座席のリクライニングを最大限まで倒し、レッグレストを出した。
 そして、ブランケットを掛けて、更にグランクラス専用のアメニティグッズの1つであるアイマスクを着用した。

 絵恋:「お父さん、どうしたの?昨夜から忙しそうだったけど……」
 母親:「ちょっと……会社の方でね、色々あったのよ。大丈夫。別に、潰れるわけじゃないから。ただ、社長として、色々ね……」
 絵恋:「ふーん……?」

 しかし絵恋も少女とはいえ、女。
 思春期真っ只中で、いわゆる『女の勘』が働く頃である。
 母親の言葉の中に、何となくウソを感じたのだった。
 しかし絵恋は、それ以上は追及しなかった。
 それよりも、気になることがあったからだ。

 絵恋:「いくらLINEを送っても、リサさんが返信してくれないの。既読にすらならない。どうしよう……?嫌われちゃったよぅ……」
 母親:「LINEの送信も程々にしないと嫌われるって何度も言ったでしょ?とにかく、既読が付くまで、あとはもう送信をやめなさい。愛原さんだって忙しいんだから、すぐにLINEを確認できない時だってあるでしょ」
 絵恋:「でもォ……」
 母親:「でもじゃない」
 絵恋:「だってぇ……」
 母親:「だってじゃない」
 絵恋:「ぶー……」
 母親:「むくれないの」
 アテンダント:「失礼致します。お客様、お飲み物は何になさいますか?お茶菓子も御用意してございます」
 母親:「ほら、飲み物だって。私はハーブティーを頂くわ。あ、それと、あちらの人は休んでるから、飲み物は結構よ。……ほら、絵恋は?」
 絵恋:「アップルジュース……」
 アテンダント:「かしこまりました」

 飲み物と茶菓子も無料サービス。
 ……全てのサービスを受けられれば、もしかしたら、グリーン料金とグランクラス料金の差額分は取り戻せるかもしれない?
 そんな貧乏くさい考えをしている作者は、一生グランクラスには乗れないだろう(グリーン車は“えきねっと”の『トクだね割』を使えば安く乗れる)。

 絵恋:「むー……」

 絵恋は機嫌が直らないまま、ジュースを飲みながら、ふと車内のLED表示板を見た。
 そこでは、ニュースの文字放送が流れていた。

『◇◆◇参詣スポーツニュース◆◇◆ 雲羽百三氏、大宮駅東口にて女性とデート!?相手は同い年の無宗教の女性!雲羽氏の「寿退転宣言」は本当か!?』

 絵恋:(どーでもいいわ……)

『◆◇◆嫁入新聞ニュース◇◆◇ 昨夜21時頃、東京都墨田区菊川のマンションで、男性2人が意識不明の重体で発見された。2人はこのマンションに窃盗目的で侵入しており、エレベーターで逃走中に、持っていた拳銃が暴発したと見られる。尚、2人は「化け物が現れた」「化け物だ。助けてくれ」などと、意味不明の発言をしていたことが判明しており、警察では意識が回復次第、精神鑑定を進めるとしている』

 絵恋:「ブーッ!」

 絵恋、ジュースを噴き出す。

 絵恋:「ええーっ!?」

 絵恋はそれがリサのしわざであると、ニュースの文字放送だけで分かったのであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「愛原家のクリスマス」 2

2021-12-25 22:51:35 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日20:04.天候:晴 東京都墨田区江東橋 JR錦糸町駅南口→都営バス錦11系統車内]

 リサは本当に焼肉食べ放題で、注文できるメニューを全部コンプリートした。
 驚異的ではあるが、しかしこのように広く薄く注文することで、逆にそんなに目立たないということができる。
 それに、リサには思惑があるようだ。

 リサ:「ケーキの分、お腹を空けておかなきゃ」

 ということだ。
 同じくテルミナ内で購入したクリスマスケーキを手に、私達は帰りのバスの列に並ぶ。

 リサ:「♪~♪」

 リサは上機嫌であった。
 これなら、今の第0形態(人間形態)から変化することなく帰れそうだ。

 愛原:「うん、バスが来たな……」

 比較的時間通りにバスが来た。
 バスはこの停留所始発ではなく、亀戸駅前から来たバスである。
 なので、先客が数人乗っていた。
 数人程度で済んでいるのは、錦糸町駅前~亀戸駅前間の本数が少ないからである。
 本数が少ないということは、それだけ利用者が少ないというわけだ。

 愛原:「お前達、そっちな」

 1番後ろの席は先客達で塞がていたので、リサと高橋は空いている2人席に座ってもらい、私はその前の1人席に腰かけた。
 往路とは同じノンステップバスであったが、車種が違うので、座席配置も微妙に違う。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは乗客を全て乗せると、ようやく発車した。
 この時点で、ほぼ全ての座席が埋まっている。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは菊川駅前、浜町中の橋経由、築地駅前行きです。次は錦糸堀、錦糸堀でございます〕

 リサ:「♪~♪」
 愛原:「リサ、“エブリンのテーマ”を歌うんじゃない」
 リサ:「ん?」

 “バイオハザード7 レジデントイービル”のテーマ。

 愛原:「リサにはリサのテーマ(https://www.youtube.com/watch?v=BayW7aXI0zI 原曲:終焉の始まり)があるだろうが」
 リサ:「そうだった」

 リサはわざと自分の頭をコツンと叩いた。
 窓ガラスに映るリサの瞳は、今は人間と同様の黒であるが、それでも時折、金色に光ることがある。
 あくまでも時折なので、『光の反射や加減でそう見える』という言い訳ができる程度。

 愛原:「あまりリサは、鼻歌は歌わない方がいいかもな」
 リサ:「わたし、音痴?」
 愛原:「いや、そうじゃないんだが……」

 BOWのボスクラスの中には、何だか歌で手下のクリーチャーを操るヤツとかいなかったっけ?
 リサがそうなりそうで怖いのだ。
 もっとも、学校でも音楽の授業とかあるわけだから、リサの歌がどこまで危険なのかは分からない。

[同日20:12.天候:晴 東京都墨田区菊川 菊川一丁目バス停→斉藤絵恋のマンション]

〔「菊川一丁目です」〕

 バスは特に渋滞にはまることもなく、無事にバス停に到着した。
 中扉からバスを降りる。
 ここからマンションは、目と鼻の先である。
 そしてそれは、今の斉藤絵恋さんが住んでいるマンションも同じである。
 何しろ、新大橋通りを挟んだお向かいさんなのだから。

 リサ:「ん?」
 愛原:「どうした?」
 リサ:「サイトーの家……」
 愛原:「絵恋さんの家がどうした?」

 私が絵恋さんのマンションの方を向いた。

 リサ:「誰もいないはずなのに、電気が点いてる」
 愛原:「そうなの!?」

 絵恋さんの部屋は、確か7階だと聞いた。
 この辺りは地価のせいなのか、あまり高層マンションは建っていない。
 ましてや、タワマンにあっては【お察しください】。
 10階未満の高さのマンションが殆どである。
 そして、私のマンションみたいに5階建てというパターンも珍しくはない。
 7階を見ると、いくつかの部屋から明かりが漏れていた。
 しかし、どの部屋が絵恋さんの部屋なのかは分からない。

 リサ:「うん、点いてる。誰かいるみたい」
 愛原:「パールか?」
 高橋:「いや、そんなことないっスね。さっきからパールのヤツ、社長んち……つまり、絵恋の実家の写真を送って来てますから」
 愛原:「じゃあ、電気の消し忘れ?メイドさんらしくない」
 高橋:「案外あいつは、そういうのキッチリしてるタイプですよ。ストイックでサイコパスながら、メイドは務まるだろうとは思います」
 愛原:「ということは……」
 リサ:「侵入者!?」
 愛原:「ま、まさか……!」
 リサ:「ちょっと確認しに行こう」
 愛原:「確認しに行こうったって、向こうもオートロックだろう?どうやって入るんだよ?」
 リサ:「はい、カードキー!」

 リサは定期入れから、絵恋さんのマンションのカードキーを取り出した。

 愛原:「そんなもん、どうしてオマエが持ってるんだよ?」
 リサ:「サイトーがくれた。『これでいつでも遊びに来ていいからね』だって」
 愛原:「な、なるほど。じゃあ、まあ、行ってみよう。高橋、オマエは一応、パールに連絡しといてくれ。何かの間違いかもしれないからな」
 高橋:「了解っス」

 私達は絵恋さんのマンションに入った。
 エントランスのオートロックは、リサのカードキーで開錠する。
 それで中に入り、エレベーターに乗る。

〔上に、参ります。ドアが閉まります〕

 エレベーターで7階に上がった。
 エレベーターは途中階で止まることはなく、どんどん上に上がって行く。
 そして……。

〔ピーン♪ 7階です〕

 7階に着いて、エレベーターを降りた。
 そして、リサの先導で絵恋さんの部屋に向かう。

 リサ:「あっちあっち!」

 私達はリサの後を追った。

 リサ:「この部屋だよ」
 愛原:「分かった」

 私は、まずドアの向こうの様子を伺った。
 具体的には、ドアに耳を当て、向こうから物音がしないか確認したのである。

 リサ:「うん、何か聞こえる」

 リサは第1形態に戻り、長く尖った耳をドアに当てて聞いていた。

 愛原:「オマエ、こんな所で変化……」
 リサ:「ゴメン。この方が聞き取り易くて……」
 愛原:「いいから早く戻れ!」

 バンッ!(玄関のドアが思いっ切り開けられる音)

 泥棒A:「よし、今だ!ずらかるぞ!……って、何だオマエら!?」
 愛原:「しまった!」
 リサ:「ど、どろぼー!」
 泥棒A:「うるせっ!!」

 バーン!(泥棒A、手持ちの拳銃をリサに発砲する)

 泥棒B:「バカ!なに撃ってんだ!」
 泥棒A:「し、しかし……!」

 至近距離で頭を撃たれたリサ。
 普通の人間なら即死確定だろう。
 しかし、BOWたるリサが、たかが普通の拳銃程度で死ぬとは私は思っていなかった。
 とはいえ、さすがに至近距離で撃たれたことで、衝撃で尻もちをついた上、持っていたケーキを落としてしまった。

 泥棒B:「動くな!動くと撃つぞ!」
 泥棒A:「よし!そのまま動くな!……邪魔だっ!!」

 泥棒Aは、リサの落としたケーキの箱に足を引っかけた。
 そして、そのまま踏み潰した上に廊下の向こうに蹴っ飛ばしてしまった。

 愛原:「あ……オワタ……」

 2人組の泥棒はそのままエレベーターに乗って行ったが……。

 泥棒B:「Cが今、車で迎えに来たらしい。まさか、あのダイニチ(大日本製薬の通称)の御嬢様が暮らしているというマンションだから、金目の物が一杯あると思ったら、ドンピシャだったな」
 泥棒A:「あとは晴海埠頭から船で逃亡するだけだ」

 ズシン!

 泥棒A:「おわっ!?」

 エレベーター内に衝撃が走り、2階で停止してしまう。

 泥棒B:「な、何だ!?地震か?故障か!?」

 泥棒達はエレベーターに閉じ込められてしまった。
 が、その直後、天井の蓋がこじ開けられて、そこから第2形態まで変化したリサが現れた。
 具体的には第1形態よりも爪は鋭く長くなり(“エルム街の悪夢”のフレディみたいな感じ)、背中からは赤黒くて長い触手が数本生えている。

 リサ:「キサマらァァァッ!よくも私のケーキを!!楽しみにしてたのにィィィィッ!!」
 泥棒A:「ぎゃーーーーーー!!ばけものーーーーーーー!!!」
 泥棒B:「う、撃てっ!撃てっ!」

 泥棒Aは完全に失神。
 泥棒Bはそれでも果敢に拳銃を発砲するが、人間形態の第0形態でもその程度は屁でもないリサ。
 ましてや、最終形態の2つ前の状態ではもっと効くはずがなかった(第3形態や最終形態まで変化すると、理性を失う恐れがある為、変化を禁止されている)。

 愛原:「リサ、殺すなよ!殺しちゃダメだぞ!絶対だぞ!」

 私は非常階段で2階まで駆け下りると、エレベーターのドアをバンバン叩いてリサを注意した。
 そうこうしている間に、拳銃の発砲音を聞いた住人からの通報を受けて駆け付けた警察や、リサの暴走(の恐れ)を察知したBSAAが出動してきたりと、現場は大騒ぎとなったのであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「愛原家のクリスマス」

2021-12-25 15:33:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日17:08.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川一丁目停留所→錦11系統車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はクリスマス・イブということで、事務所を早めに閉めて、錦糸町に繰り出すことにした。
 夕食を食べに行くところだが、リサにクリスマスプレゼントを買ってやるというのもある。

 リサ:「お、バス来た」
 愛原:「そうか」

 今や都営バスは観光バス以外、全ての路線バスがノンステップバスになっている。
 私達の前で止まったバスは、グライドスライドドア式の前扉を開けた。
 リサが嬉々とした様子で、バスに乗り込む。
 かつては秘密の研究所の地下室に閉じ込められていたBOW(生物兵器)も、今や電車やバスに普通に乗れるようになった。
 資料映像を見せてもらったのだが、外国ではリサと見た目年齢が大して変わらない人間型BOWがいて、彼女も普通に路線バスに乗っていた。
 夕方ラッシュが始まる頃なので席は空いておらず、中扉を背にするようにして吊り革と手すりに摑まる。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが走り出す。
 尚、リサのBOWとしての身体能力では、電車よりも揺れるバス車内であっても、掴まらずに立つことができる。
 もっとも、私はちゃんと周りに合わせるように言っておいた。

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線、都営バス、とうきょうスカイツリー駅前、新橋、東京駅丸の内北口方面はお乗り換えです。次は、菊川駅前でございます〕

 リサはあまりファッションには拘りは無く、むしろゲームやヘッドホンなどを欲しがった。
 BOWには、まま見られる傾向だそうである。
 実際、ここにいる『2番』のリサ以外のリサ・トレヴァーの中にはジャージを着ている者もいたので、正にそうなのだろう。
 今のリサもクリーム色のジャンパーの下は、パーカーとデニムのショートパンツ姿である。
 BOWは暑さや寒さに強く、この冬でも厚着はしなくても良い。
 だがさすがに違和感が無いよう、出掛ける時は制服の時はコートを着させている。
 今は私服なので、ジャンパーである。

 愛原:「高橋も残念だったな」
 高橋:「何がですか?」
 愛原:「パールも一緒に出掛けちゃったんだろ?斉藤家の高飛び」
 高橋:「ああ。まあ、しょうがないっスね。俺も仕事が忙しいんで」
 愛原:「伯父さんの件以来はヒマだったけどなw」

 きっとこの分では、ヒマなまま年末年始に突入するのだろうな。
 はぁ~……。
 あ、そういえば……。

 愛原:「もしかしすると、栃木の上野さんの娘さん。こっちに来たら、彼女の監視も頼むって言われるかもな」
 リサ:「地方在住者は、基本的に寮に入ることになってるよ?」
 愛原:「学校にいる時は、リサが監視するんだよ、きっと」
 リサ:「監視されてる私が監視するの」
 愛原:「かもな。……1度、再び那須塩原に行く必要があるかもしれない」
 リサ:「おー!旅行!」
 高橋:「いいんスか?本来はあそこ、宗教施設らしいじゃないスか。のこのこ行って勧誘でもされたら、メンド臭いっスよ」
 愛原:「その時はその時だ」

 まあ、大丈夫だと思うけど。

[同日17:30.天候:晴 東京都墨田区江東橋 テルミナ内ヨドバシカメラ錦糸町]

 バスで錦糸町駅に到着した私達は、駅ビルに向かった。
 テルミナという名前のビルなのだが、そこのテナントにヨドバシカメラが入っている。
 そこでリサへのクリスマスプレゼントと、仕事で使う道具を購入することにした。

 愛原:「ゲームやヘッドホンについては、高橋に任せた」
 高橋:「うっス!任されました!」

 リサのヤツ、前にノートPC買ってあげたら、ゲームはPCゲームをやるようになった。

 リサ:「パソコンゲームの方が面白いソフト揃ってる」

 と、リサがチョイスしたのが……。

 愛原:「全部ホラーかい!」
 リサ:「わたし自身がホラーだから、どうやったら上手い演出ができるか、これで勉強する」
 愛原:「人間に戻りたいんなら、むしろ演出されて怖がる方にならないと……」
 リサ:「ムリ。お化け屋敷とか、全然怖くない」
 愛原:「あ、そう。あれは参考にならないの?」
 リサ:「なんないね」

 さすがは元ラスボス。
 で、ヘッドホンの方は……。

 高橋:「BOSEのヘッドホンなんか高品質だぞ」
 リサ:「ずーん……」
 高橋:「何だよ、その顔!?」
 リサ:「かわいくない……」
 高橋:「あぁっ!?」
 リサ:「もっとかわいいのがいい。キュートなの」
 愛原:「……と、仰ってますが?」
 高橋:「しょうがねぇなぁ!じゃあ、このピンク色のヤツはどうだ!?」
 リサ:「む!かわいい!これがいい!」
 愛原:「BOSEよりはだいぶ安くなったな……」

 リサ、どういう時にヘッドホンを使うのかというと、正にゲームをやる時である。
 リビングにある据え置きゲーム機の場合はそのままなのだが、部屋でパソコンゲームをやる時に使う。
 それと、コロナ対策で行われているリモート授業の時。

 店員:「ありがとうございまーす」
 愛原:「どうも」

 リサはPCゲームソフトとヘッドホンの入った箱を、大事そうにリュックの中にしまった。

 高橋:「先生、しっかり領収書切りましたね?」
 愛原:「シッ、黙ってろ。あくまでも、仕事で使うカメラとかライトとか……そのついでだ」
 リサ:「先生、この後は?」
 愛原:「夕飯にしよう。何がいい?」
 リサ:「肉!」
 高橋:「……言うと思ったぜ」
 愛原:「まあまあ、とにかく行こう。また焼肉になるかな?」

 焼肉なら食べ放題コースがあるので、それにすれば、私の財布はそんなに痛まない。
 だが、店側が想定外の在庫減に悩まされるという……。

 リサ:「ケーキは!?」
 愛原:「生ものだから、帰り際にするさ」

 そう言って私達はヨドバシカメラを出て、レストラン街のあるフロアへと向かった。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“愛原リサの日常” 「リサの終業式」

2021-12-24 21:07:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日11:30.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校→JR上野駅]

 リサの高校ではこの日、終業式が行われた。
 明日から1月10日まで、冬休みである。

 リサ:「明日から冬休み。あっという間」
 絵恋:「そうだね……」
 リサ:「サイトー、嬉しくないの?」
 絵恋:「だって!年明けまで、リサさんと会えないのよ!?寂しくて仕方無いわよ!」
 リサ:「あー……まあ、家の都合じゃしょうがない」

 リサは背伸びして、自分より身長の高い絵恋の頭を撫でてやった。

 絵恋:「しかも、クリスマスパーティーもできないなんて……」
 リサ:「……うん。まあ、しょうがないね」

 いつもは愛原家と斉藤家合同のクリスマスパーティーが行われていた(但し、緊急事態宣言中を除く)。
 今年は緊急事態宣言が出ていないのだからできそうなものだが、別にオミクロン株を警戒してのことではない。
 斉藤秀樹の不祥事(リサの体内寄生虫を勝手に採取し、新薬開発に使おうとしたことが政府機関にバレた。で、マスコミに公表されて大騒ぎ)により、年末年始は身を隠すように関東脱出を図るらしい。
 一時期は連日、斉藤絵恋の実家にマスコミが押し寄せたことがあった為。
 それだと国家機密レベルのリサのことは?という疑問が湧いて出るが、そこは政府機関も強かなもの。
 ちゃんと、情報操作をしていた。
 しかも、ウソにならないように。
 『かつて日本アンブレラ製薬が保持していた生物兵器ウィルス(に感染した寄生虫)を独自ルートで入手し、無断で新薬開発に使用した』といった感じ。
 恐らく、次の役員人事で斉藤秀樹は代表取締役社長の座から下ろされることだろう。
 今後は何の権限も持たない名誉職の会長または顧問になるか、或いは関連企業の役員になるかといったところと思われる。
 あくまでも、『新薬開発に使用しようとした』未遂行為である為、逮捕はされず、あくまでも書類送検であるので、そこまで厳しい処置ではないようだ。

 リサ:「それで外国に高飛びするんだ?」
 絵恋:「高飛びじゃないわよ!それに、外国に行くわけじゃないから」
 リサ:「うん、分かった。お土産よろしく」
 絵恋:「分かったわ。リサさんこそ、どこかへ行くの?愛原先生の御実家の仙台?」
 リサ:「いや、まだ分かんない。先生の伯父さんが大変なことになったから、気軽に帰省できないかもだって」
 絵恋:「あー……。テロ組織に協力しようとしたことね」
 リサ:「伯父さんは、『協力したフリ作戦じゃ』と言い張ってるらしいけど……」
 絵恋:「どこまで本当か分からないんだって?」
 リサ:「そう」

 確かに取引内容を映像に記録して提出しようとしていた割には、しっかり報酬も受け取っていたりと、まるでネズミ男のような立ち回りをしていたので、善場達、政府関係者も判断が付かないらしい。

 絵恋:「でも、どこか行きたいよね」
 リサ:「また、天長園でも行くかな」
 絵恋:「ええっ?」
 リサ:「知ってる?上野凛。もしかしたら、私の妹の娘かもしれないコ。あのコ、中学校卒業したら、うちの高校に入りたいってよ」
 絵恋:「ええーっ!?じ、人外が2人になるの?」
 リサ:「そういうことになるな。でもまあ、凛は半分人間だから。いわゆる、半妖ってヤツ」

 リサには人間だった頃の記憶は一切無い。
 しかし、栃木県の那須塩原には、リサの血縁者かもしれない中年女性がいた。
 しかも、リサと同じBOWである。
 そして、その女性には人間の男性との間に生まれた娘がいる。
 なので、半妖ということになるわけだ。

 リサ:「学校の成績は優秀だから、推薦入試受けるみたいだよ。で、うちは私立だから、専願ができるじゃない?」
 絵恋:「そうね」

 東京中央学園は中高一貫校であるが、完全なそれではなく、別の中学校から高等部に入学したりする、中途入学の例も見受けられる。
 逆に中等部卒業後、別の高校に転入するという例もある。
 いわゆる、連携型中高一貫校である。
 上野凛はその制度に依らず、高等部の欠員を募集する枠で受験するようだ(元々、高等部の方が定員を多く設定している為、仮に中等部の生徒が全員高等部に上がっても、欠員補充の入試は行われる)。

 リサ:「それで受けるみたいだから、ほぼ合格なんじゃない?」
 絵恋:「それにしても、どうして?」
 リサ:「私から何かを学びたいらしい。それと、やっぱりデイライトの思惑。私みたいなBOWを、1ヶ所に固めて管理したいというのもあるみたい」
 絵恋:「ということは、リサさんみたいな人が他にも入って来るかもしれないってこと?」
 リサ:「可能性はある。だけど、まだそれは聞いてない。今のところ、凛だけ」
 絵恋:「うーん……」
 リサ:「まあ、今のところ私が一番強いから、学校で変なマネはさせない」
 絵恋:「うん、そうだよね」

 絵恋はリサのその言葉がブーメランのような気がしたが、そのツッコミを喉元で何とか抑えた。
 そんなことを話しながら歩くと、上野駅に到着する。

 リサ:「今からもう実家に帰るの?」
 絵恋:「そう。それから準備して、明日出発よ」
 リサ:「そうか……。マスコミとかは?」
 絵恋:「さすがにもういないわ」
 リサ:「なるほど」

 リサはそのまま山手線や京浜東北線のホームに行こうした。
 しかし、何故か絵恋が付いてくる。

 リサ:「? どうした?大宮だから、宇都宮線とか高崎線でしょ?」
 絵恋:「リサさぁん……せめて送らせて……」
 リサ:「えぇ?」
 絵恋:「来年まで会えなくて寂しいからぁ……」
 リサ:「LINEはできるだろ?ていうか……」

 リサはどうしても、絵恋とは冬休み終了前に、どこかで会うような気がして仕方が無かった。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の電車は、11時48分発、快速、大船行きです。次は、秋葉原に止まります。京浜東北線の快速電車は、御徒町には停車致しません。山手線の電車を、ご利用ください〕

 絵恋:「快速に乗るなんて、さすがリサさんね」
 リサ:「何がだよ。私は早く帰って、愛原先生とクリスマスの準備をしたいの」
 絵恋:「家でクリスマスパーティーかぁ……」
 リサ:「いや、外で食べるみたいだよ?」
 絵恋:「え?じゃあ、クリスマスケーキは……」
 リサ:「帰り際に買ってくれるみたい」
 絵恋:「そうなんだ」
 リサ:「今から楽しみだよ」
 絵恋:「そうねぇ」

〔まもなく4番線に、快速、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。次は、秋葉原に止まります〕

 リサは最後尾の車両が来る辺りで電車を待っている。
 電車が高速度で進入してくると、2人の少女の髪が風に靡いた。

〔うえの、上野。ご乗車、ありがとうございます。次は、秋葉原に止まります〕

 リサ:「それじゃ」
 絵恋:「リサさん……必ず……LINEしてね……」
 リサ:「分かってる。サイトーこそ、お土産よろしくね」
 絵恋:「リサさんも」
 リサ:「分かった」

 ホームに発車ベルが鳴り響く。
 上野駅の通勤電車ホームと、新幹線ホームはメロディではなく、ベルが流れる。
 いわゆる、電子電鈴という物だ。

〔4番線の、京浜東北線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが同時に閉まる。
 上野駅では、通勤電車のホームだけホームドアが設置されている(車両規格や編成が終日固定されている為)。

 リサ:「全く……」

 電車が走り出すと、絵恋はブンブンと手を振った。
 それに対し、リサは軽く手を振るだけで答えた。

〔この電車は京浜東北線、快速、大船行きです。停車駅は秋葉原、神田、東京、浜松町、浜松町からの各駅です。次は秋葉原、秋葉原。お出口は、右側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄日比谷線と、つくばエクスプレス線はお乗り換えです〕

 で、リサのスマホに早速絵恋からのLINEが来た。

 リサ:(全然、お別れになってない)

 しばらく、既読スルーにしておくリサだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“愛原リサの日常” 「リサの終業式」

2021-12-24 21:07:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日11:30.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校→JR上野駅]

 リサの高校ではこの日、終業式が行われた。
 明日から1月10日まで、冬休みである。

 リサ:「明日から冬休み。あっという間」
 絵恋:「そうだね……」
 リサ:「サイトー、嬉しくないの?」
 絵恋:「だって!年明けまで、リサさんと会えないのよ!?寂しくて仕方無いわよ!」
 リサ:「あー……まあ、家の都合じゃしょうがない」

 リサは背伸びして、自分より身長の高い絵恋の頭を撫でてやった。

 絵恋:「しかも、クリスマスパーティーもできないなんて……」
 リサ:「……うん。まあ、しょうがないね」

 いつもは愛原家と斉藤家合同のクリスマスパーティーが行われていた(但し、緊急事態宣言中を除く)。
 今年は緊急事態宣言が出ていないのだからできそうなものだが、別にオミクロン株を警戒してのことではない。
 斉藤秀樹の不祥事(リサの体内寄生虫を勝手に採取し、新薬開発に使おうとしたことが政府機関にバレた。で、マスコミに公表されて大騒ぎ)により、年末年始は身を隠すように関東脱出を図るらしい。
 一時期は連日、斉藤絵恋の実家にマスコミが押し寄せたことがあった為。
 それだと国家機密レベルのリサのことは?という疑問が湧いて出るが、そこは政府機関も強かなもの。
 ちゃんと、情報操作をしていた。
 しかも、ウソにならないように。
 『かつて日本アンブレラ製薬が保持していた生物兵器ウィルス(に感染した寄生虫)を独自ルートで入手し、無断で新薬開発に使用した』といった感じ。
 恐らく、次の役員人事で斉藤秀樹は代表取締役社長の座から下ろされることだろう。
 今後は何の権限も持たない名誉職の会長または顧問になるか、或いは関連企業の役員になるかといったところと思われる。
 あくまでも、『新薬開発に使用しようとした』未遂行為である為、逮捕はされず、あくまでも書類送検であるので、そこまで厳しい処置ではないようだ。

 リサ:「それで外国に高飛びするんだ?」
 絵恋:「高飛びじゃないわよ!それに、外国に行くわけじゃないから」
 リサ:「うん、分かった。お土産よろしく」
 絵恋:「分かったわ。リサさんこそ、どこかへ行くの?愛原先生の御実家の仙台?」
 リサ:「いや、まだ分かんない。先生の伯父さんが大変なことになったから、気軽に帰省できないかもだって」
 絵恋:「あー……。テロ組織に協力しようとしたことね」
 リサ:「伯父さんは、『協力したフリ作戦じゃ』と言い張ってるらしいけど……」
 絵恋:「どこまで本当か分からないんだって?」
 リサ:「そう」

 確かに取引内容を映像に記録して提出しようとしていた割には、しっかり報酬も受け取っていたりと、まるでネズミ男のような立ち回りをしていたので、善場達、政府関係者も判断が付かないらしい。

 絵恋:「でも、どこか行きたいよね」
 リサ:「また、天長園でも行くかな」
 絵恋:「ええっ?」
 リサ:「知ってる?上野凛。もしかしたら、私の妹の娘かもしれないコ。あのコ、中学校卒業したら、うちの高校に入りたいってよ」
 絵恋:「ええーっ!?じ、人外が2人になるの?」
 リサ:「そういうことになるな。でもまあ、凛は半分人間だから。いわゆる、半妖ってヤツ」

 リサには人間だった頃の記憶は一切無い。
 しかし、栃木県の那須塩原には、リサの血縁者かもしれない中年女性がいた。
 しかも、リサと同じBOWである。
 そして、その女性には人間の男性との間に生まれた娘がいる。
 なので、半妖ということになるわけだ。

 リサ:「学校の成績は優秀だから、推薦入試受けるみたいだよ。で、うちは私立だから、専願ができるじゃない?」
 絵恋:「そうね」

 東京中央学園は中高一貫校であるが、完全なそれではなく、別の中学校から高等部に入学したりする、中途入学の例も見受けられる。
 逆に中等部卒業後、別の高校に転入するという例もある。
 いわゆる、連携型中高一貫校である。
 上野凛はその制度に依らず、高等部の欠員を募集する枠で受験するようだ(元々、高等部の方が定員を多く設定している為、仮に中等部の生徒が全員高等部に上がっても、欠員補充の入試は行われる)。

 リサ:「それで受けるみたいだから、ほぼ合格なんじゃない?」
 絵恋:「それにしても、どうして?」
 リサ:「私から何かを学びたいらしい。それと、やっぱりデイライトの思惑。私みたいなBOWを、1ヶ所に固めて管理したいというのもあるみたい」
 絵恋:「ということは、リサさんみたいな人が他にも入って来るかもしれないってこと?」
 リサ:「可能性はある。だけど、まだそれは聞いてない。今のところ、凛だけ」
 絵恋:「うーん……」
 リサ:「まあ、今のところ私が一番強いから、学校で変なマネはさせない」
 絵恋:「うん、そうだよね」

 絵恋はリサのその言葉がブーメランのような気がしたが、そのツッコミを喉元で何とか抑えた。
 そんなことを話しながら歩くと、上野駅に到着する。

 リサ:「今からもう実家に帰るの?」
 絵恋:「そう。それから準備して、明日出発よ」
 リサ:「そうか……。マスコミとかは?」
 絵恋:「さすがにもういないわ」
 リサ:「なるほど」

 リサはそのまま山手線や京浜東北線のホームに行こうした。
 しかし、何故か絵恋が付いてくる。

 リサ:「? どうした?大宮だから、宇都宮線とか高崎線でしょ?」
 絵恋:「リサさぁん……せめて送らせて……」
 リサ:「えぇ?」
 絵恋:「来年まで会えなくて寂しいからぁ……」
 リサ:「LINEはできるだろ?ていうか……」

 リサはどうしても、絵恋とは冬休み終了前に、どこかで会うような気がして仕方が無かった。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の電車は、11時48分発、快速、大船行きです。次は、秋葉原に止まります。京浜東北線の快速電車は、御徒町には停車致しません。山手線の電車を、ご利用ください〕

 絵恋:「快速に乗るなんて、さすがリサさんね」
 リサ:「何がだよ。私は早く帰って、愛原先生とクリスマスの準備をしたいの」
 絵恋:「家でクリスマスパーティーかぁ……」
 リサ:「いや、外で食べるみたいだよ?」
 絵恋:「え?じゃあ、クリスマスケーキは……」
 リサ:「帰り際に買ってくれるみたい」
 絵恋:「そうなんだ」
 リサ:「今から楽しみだよ」
 絵恋:「そうねぇ」

〔まもなく4番線に、快速、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。次は、秋葉原に止まります〕

 リサは最後尾の車両が来る辺りで電車を待っている。
 電車が高速度で進入してくると、2人の少女の髪が風に靡いた。

〔うえの、上野。ご乗車、ありがとうございます。次は、秋葉原に止まります〕

 リサ:「それじゃ」
 絵恋:「リサさん……必ず……LINEしてね……」
 リサ:「分かってる。サイトーこそ、お土産よろしくね」
 絵恋:「リサさんも」
 リサ:「分かった」

 ホームに発車ベルが鳴り響く。
 上野駅の通勤電車ホームと、新幹線ホームはメロディではなく、ベルが流れる。
 いわゆる、電子電鈴という物だ。

〔4番線の、京浜東北線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが同時に閉まる。
 上野駅では、通勤電車のホームだけホームドアが設置されている(車両規格や編成が終日固定されている為)。

 リサ:「全く……」

 電車が走り出すと、絵恋はブンブンと手を振った。
 それに対し、リサは軽く手を振るだけで答えた。

〔この電車は京浜東北線、快速、大船行きです。停車駅は秋葉原、神田、東京、浜松町、浜松町からの各駅です。次は秋葉原、秋葉原。お出口は、右側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄日比谷線と、つくばエクスプレス線はお乗り換えです〕

 で、リサのスマホに早速絵恋からのLINEが来た。

 リサ:(全然、お別れになってない)

 しばらく、既読スルーにしておくリサだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする