とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

松岡圭祐『万能鑑定士Qの事件簿』

2010-06-08 19:37:28 | 読書
このところ、涼宮ハルヒシリーズや心霊探偵八雲シリーズを読み終えて次は何を読もうかと思っていたら、松岡圭祐の新刊が出ているのを本屋で見つけた。松岡圭祐といえば「催眠」や「千里眼シリーズ」で有名な作家である。しばらく前は、松岡圭祐にはまり全作品を読み終えていた。早く次回作を読みたいと思っていたので、つい嬉しくてⅠ~Ⅲまで3冊まとめ買いしてしまった。

今回の新作は、『万能鑑定士Qの事件簿』というシリーズ物で、6月にⅣ、8月にⅤが出ることまで決まっている。カバーのイラストもヒロインのイメージに近く魅力的に描かれている。ヒロインの名は凛田莉子(りんだりこ)23歳。彼女の事務所の看板に刻まれるのは「万能鑑定士Q」。喜怒哀楽を伴う記憶術で広範囲な知識を有す莉子は、その記憶と照らし合わせて瞬時に万物の真価・真贋・真相を見破るのだ。

ⅠとⅡで一つの事件が完結する。Ⅰでは東京23区を侵食していく不気味な“力士シール”の話で始まっていく。誰が、何のために貼ったのか?謎を追う若き週刊誌記者・小笠原は、猫のように鋭く魅惑的な瞳を持つ美女と出会う。凛田莉子、23歳―一瞬時に万物の真価・真贋・真相を見破る「万能鑑定士」だ。信じられないほどの天然キャラで劣等生だった莉子は、いつどこで広範な専門知識と観察眼を身につけたのかが、主な話となっている。力士シール事件は、実際に東京のいくつかのエリアで目撃され、2008年初頭ごろからインターネットで話題になったことがあるが、真相は現実世界では突き止められていないそうだ。松岡圭祐は、こういった旬の話題をうまく小説に取り込んでいる。

そして、Ⅱでは偽一万円札の出現により、日本全土がハイパーインフレとなり日本の国家存亡の危機にまで陥る。警察の科捜研でも見破ることが出来ないし、何でも真贋・真相を見破る「万能鑑定士」の凛田莉子でさえ、偽札を見破ることが出来ない。だが、あることから莉子は偽札の真相を見破ることが出来た。まさにそれは晴天の霹靂ともいうべき真相だった。判ってみれば、そんなことだったのかと思う真相だが、私は最後まで判らなかった。この辺りの謎解きは松岡圭祐らしい見事なまとめだった。

謎解きの大きなキーワードに「ファンデルワールス力」という言葉がある。これは学生時代、物理で習った言葉だ。まさか、小説読んでてこんな物理用語が出てくるとは思わなかった。言葉だけは覚えていたが、内容はまったく覚えていなかった。ファンデルワールス力(ファンデルワールスりょく)とは、電荷を持たない中性の原子、分子間などで主となって働く凝集力の総称。そのポテンシャルエネルギーは距離の6乗に反比例する。すなわち力の到達距離は短く且つ非常に弱い。これが重要なキーワードとなるのだ。

松岡圭祐という作家は、マニアックな専門知識を駆使して難局を次々に解決するのがうまい。とにかく、博学である。まさに、『万能鑑定士Qの事件簿』は、その博学を存分に駆使した内容になって行くだろうし、これからの代表作になるだろう。ⅠとⅡはあっという間に読んでしまった。Ⅴまでは出版が決まっているので、続編が楽しみである。ただ、「千里眼シリーズ」は当分出ないのかなー。