![]() | みんなの少年探偵団 (一般書) |
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ポプラ社 |
江戸川乱歩・生誕120年記念プロジェクト事業として、ポプラ社から懐かしい少年探偵団と怪人20面相との対決を描いたオマージュ作品が続々と刊行されている。装丁も少年時代に読んだ江戸川乱歩シリーズとまったく同じで、懐かしさのあまり、児童向けの作品ではあるがどうしても読みたくて借りてしまった。この作品は第1弾で、以後3作まで刊行され、来月には第4作が出るようだ。
「みんなの少年探偵団」は、万城目学、湊かなえなど、5人の人気作家が怪人二十面相に挑む、傑作ぞろいのオマージュ・アンソロジーである。
『永遠』(万城目学) 両親が亡くなり、祖父と暮らすことになった双子の少年たちが主人公だ。しかし、祖父は少年たちの面倒をあまり見ようとはせず、自分たちで何とかせよとほったらかしだ。祖父が何をして生活費を稼いでいるのか気になって調べてみたら、祖父の正体はなんと泥棒だった。少年たちは、祖父が、大事件に関わっているのではないかと疑う。やがて、祖父が亡くなり、暗号が残される。その暗号に隠された意味を解き明かしていくと思いもよらない展開となっていく。怪人20面相と明智小五郎の誕生秘話が明かされる作品だ。
『少女探偵団』(湊かなえ) 体操の全国大会出場を逃し、落ち込んでいた少女が、夏休みに、母方の祖父母の家に遊びに行く。体操の事は言われたくないのに、そこでも言われ続けて不機嫌になってしまう。そんな彼女に、祖母が自分も体操選手だったと打ち明け、子供の頃に巻き込まれたある事件について語る。祖母は、子供時代に少年探偵団の小林少年と会っていたのだ。
『東京の探偵たち』(小路幸也) ある探偵事務所の依頼人が、まるで、吸血鬼に襲われたかのような状態で発見される。所長に頼まれて行った先は、なんと名探偵明智小五郎の「明智探偵事務所」だ。出てきたのは大人になった小林少年こと小林芳雄だ。明智小五郎は引退しているのかと思いきや、死ぬまで探偵を続けるとのことでずっと現役であるらしい。
『指数犬』(向井翔吾) 見知らぬ老人から、「魔法の犬」をもらった少年。その犬は、1日経つと2匹に、2日目で4匹にと、どんどん2倍に増えていくというのだ。本当に、その通りに増え続け、4日目で16匹になったところで、犬は全部逃げだしてしまう。その後、恐ろしい事態になってしまうというお話。見知らぬ老人の正体は、やはりあの人だった。
『解散二十面相』(藤谷治) 怪人二十面相が、怪人二十面相をやめると言い出し、不平不満をぶちまけるという意表を突いた作品だ。いろんな事件を引き起こし、日本中を驚かせてきた彼だが、明智や小林少年が真面目に自分を捕まえようとしていないと愚痴をこぼし、もうこれ以上人を驚かすことをやめると言い出す。それでも最後は、明智小五郎との対決となり、やはり怪人二十面相はいつまでも怪人二十面相でいるしかなかった。
どれも、江戸川乱歩シリーズを愛した作家たちの作品であり、懐かしくそして楽しく読むことができた。5作の中で一番気に入ったのは、万城目学の『永遠』だ。怪人二十面相と明智小五郎が誕生したのは、こういう理由だったのかと思わず納得してしまう新解釈の作品だ。さすが、万城目学らしい解釈に脱帽である。