安易な言葉

前向きとか努力とか頑張るとかいう言葉が、昔から嫌いなので

街を歩いていて「頑張ろう」という張り紙を見るとげんなりする。

げんなりするくらい貼ってある。

ある種の心の病の人に向かって「頑張れ」は禁句だということはかなり広く知られていると思うのだが。

といって別にわたしは「頑張らなくていい」とか「そのままでいい」とかいう言葉が好きなわけではない。

わたしだって、これまでに頑張ったこともあれば努力したこともある。

なにが嫌って、人から言われるのが嫌なのだ。

頑張るのも頑張らないのも、自発的なものであって他人から誘われたくない。

「頑張ろう」じゃなくて「俺は頑張る」とか「自分は頑張る」という張り紙にしたらどうだ。

そんなことを思ってしまうわたしだが、一度だけ人から言われた「努力」という言葉に素直に従ったことがある。

高校時代、元々苦手だった数学は宇宙人と交信するよりも難しい科目になってしまい

今思えば、よく卒業できたものだ。

数学のテストが始まると、サービス問題の二問くらいを解いたあとは

もうすることがなくなって、長い試験時間を机に臥せって過ごした。

眠ってはいなかったと思うが、時間つぶしの休憩というところか。

そのときも机に顔を伏せて寝たふりをしていると、コツコツと監督教師の靴音が近づいてきた。

（なにか注意を受けるかな）

やや身構えたわたしの頭上から、小さく低い声で何やらつぶやくのが聞こえた。

はじめは何を言われたか分からなかった。

数秒後に「努力」と短く言われたことに気づいた。

その教師との関わりは、ほとんどなかったと思うが、叱りもせず無視もせず

意表をつかれたわたしは、起き上がってシャープペンを握った。

努力で数学の問題が解けたら苦労しない。

結局それから一問も解けなかった。

しかしわたしは、教師に敬意を表して努力する姿勢を見せたのだ。

不特定多数の人に向けた「頑張ろう」とか「頑張れ」なんて言葉は届くのだろうか。

何をどれだけ頑張ればいいかもわからないのに・・・

かけてくるぞと勇ましく？

先日、やっと美容院へ行った。

セミロングを「颯爽とした大人の女風ショート」にするつもりだったのだが

出来上がってみると「まったりしたこけし」だった。

思い通りにはいかないものだ。

一年ぶりに髪を切るので、いささか迷いが生じ、中途半端なショートにしてしまったせいだ。

それでも美容院から帰ってきたばかりのときは、ふんわりとして「こけし度」も低かったのだ。

髪を切るとき、どの美容師さんにも頼むのが「なるべく頭を大きく見せてくれ」ということ。

というのは、わたしの髪は細い上に腰がなく量も少ない。

とにかくボリュームがあるように見せたいので、「頭をでっかく」という注文になってしまう。

パーマをかければいいのだけれど。

停電断水のとき、パーマかけてた人はどうしたのかと尋ねたら

幸いパーマの人はいなかったが、カラーの人はいたそうで

完全に断水する前になんとか洗い流し、タオルを巻いて帰ってもらったという。

風邪引きそうだ。

結局、中途半端な長さの上に、美容院のブローが取れてしまうと「こけし度」が高まってしまった。

ただでさえ、のっぺりした顔立ちだというのに。

今のところ、なんとか頭をふくらませて出かけているが、毎日のブローは電気の無駄遣いじゃなかろうか。

やっぱりパーマかけるか。

水持参で。

タオル巻いて帰る覚悟で。

二人お七

勤務先の修理をしに職人さんたちがきた。

わたしと同僚女性は職人さんが好きなのでウキウキワクワクである。

無駄な動きをせずに着々と魔法のように補修してゆく。

どの人が好きとかカッコイイではなく、みんな素敵。

数日にわたった修理が終わって、とりあえず一安心というところだが

職人さんが帰ってしまって、つまらないわたしたち。

どっか壊せばまた直しに来てくれるのかな。

八百屋お七だよ、それじゃ・・・

偶然だから

ラジオをかけるとカーペンターズの「イエスタディ・ワンスモア」が流れてきて、嬉しくなった。

特にカーペンターズのファンというわけでもないがCDを持っているので

聴こうと思えば、この曲はいつでも聴ける。

偶然つけたラジオからこの局が流れてくる確立は結構高い。

プレスリーの「ラブ・ミー・テンダー」も、そう。

有名な人気曲だから、リクエストも多いのだろう。

しかし、ラジオをつけた瞬間に流れると嬉しいのはなぜだろう。

去年の暮れあたりから、仕事の休憩中にラジオを聴いているのだが

聴きたいジャンルの曲がかかる確率は低い。

昼はなぜか演歌とJ－POPとクラシックばかりである。

言うのがはばかられるが、わたしはクラシックが苦手だ。

演歌もなあ。

日本の曲なら、昔の歌謡曲のほうがいい。

では昼に聴きたいのは何か。

ボサノバとかシャンソンとか。

大体わたしは、10代からシャンソンやカンツォーネが好き、と渋好みである。

そして夕方の休憩で聴きたいのは古いアメリカンポップスやオールディーズ。

偶然つけたラジオからテネシーワルツやスタンドバイミーなんか流れてきたら沁みる。

アンチェインドメロディなんかもいい。

昼も夕方も聴きたいのはジャズ。

しかし、なかなかラジオでは流れないので小さなCDプレーヤーを買って手持ちのCDを聴くことにした。

まあ悪くはないのだが。

やっぱり偶然流れてきた曲を聴いたときほど沁みない。

当たり前だけど。

だってどんな曲がかかるか分かってるんだしさ。

アナログ人間のわたしは、デジタルオーディオプレーヤーが好きになれない。

そもそも25年くらい同じ曲を聴き続けているのだから、手持ちのテープとCDで充分だ。

初めてCDを聴いたときにも、音が薄っぺらで軽すぎる気がしたものだが

家にはもうレコードプレーヤーがないのだから仕方がない。

でも最近の歌手で一人だけ気になる人がいる。

アデル。

ラジオで偶然流れてきたのだが、DJの紹介がなかったら最近の若い子の歌とは思わなかっただろう。

懐かしいような音、枯れた歌声。

一曲しか聴いてないから気に入るかどうか判断は難しいけど。

だいぶ売れてるらしく、流行りものぎらいのわたしとしては悩むところだ。

まあしかし、流行ってようが廃れてようが自分がいいと思えばいいのだろう。

偶然知ったことでもあるし。

やりませんけど

一年間、美容院へ行っていない。

こんな人いるんだろうか。

いるだろうな。

前髪だけ自分で切って、まとめ髪にしてしまえばなんとかなる。

しかし。

先日、前髪を切っていて、切ってはいけないところを切ってしまった。

もう限界だろう。

一年前はショートだった髪型が今やセミロングだ。

本当はずっと、パーマをかけようと思っていたのだ。

しかし今、パーマをかける気持ちの余裕がない。

この際、また短くしてしまおう。

洗髪に時間もかからず乾きも早い。

先日、三日ほど風呂に入れなかったときも、強く思ったのだ。

落ち着いたら髪を切ろう、と。

だが。

落ち着かないな、なかなか。

後ろも自分で切っちまおうか。

いくらなんでも・・・