「果たし状」を受け取ったことがある人は、世の中にどれくらいいるのだろう。
わたしは、ある。
小学校3年か4年の時。
クラスの女王様のMから「放課後、校庭に来い」という手紙。
馬鹿らしい。
行くもんか、と思った。
その日は土曜日。
当時は土曜日も登校日で、半ドンと言って午前中で終わり。
昼ご飯は食べずに帰る。
やれやれ、わずらわしい一日だった・・・と靴箱に向かうと靴がない。
こんな漫画みたいな出来事が自分の身に起こるとは。
そこへ、側近のTとHを連れたMが現れた。
勉強も運動も出来、ルックスが垢抜けていて先生からも好かれている女王様のM。
中学生と間違われるほど身長が高く抜群の運動神経を誇るT。
家柄が良く勉強の出来るH。
わたしなんかほっとけばいいのに。
「校庭に来いよ」とすごまれ、靴がないと言うと
自分たちが隠したんだから出せばいいのに、なぜかTがおんぶして校庭まで連れて行かれた。
間抜けな感じ。
校庭でやっと靴を返され、Mと向き合った。
抵抗する気はなかった。
ちょっと殴ったら気が済むんでしょ、と思っていた。
家でも母親にぶたれることはよくあったし、同級生風情に殴られる事なんて大したことないと思った。
なのに、Mの平手が頬を打った瞬間、秒速で頭に血が上った。
痛さを感じるのと相手に飛びかかるのはほぼ同時だった。
彼女らより10cmくらい小さかったわたしだけど、
運動神経の鈍いわたしだけど、自分でびっくりするほど俊敏だった。
気がついたらTに馬乗りになっていた。
そうは言っても相手は3人、多勢に無勢・・・
わたしピ~ンチ!
そこへなぜか、クラスの男子のリーダーRと暴れん坊Kがやってきた。
「1人に3人は卑怯だろ!」
え、Rってそういう正義キャラじゃないのに。
どちらかというとTとRは男女のリーダーとして仲が良かったと思う。
わたしは密かにRを好きだったけど。
Kはと言えば、先生もクラスメートも巻き込んで教室中をしっちゃかめっちゃかにする暴れん坊。
決してわたしと仲がいいとは言えない。
何しに来たの、この人たち。
そのうち、クラスメートの男子が他にもわらわらやって来て男子同士で大騒ぎを始め
収拾がつかなくなり、よく分からないけどこの隙に・・・としらけた気持ちで帰ってきた。
家に帰るまで頬が熱く、じんじんして(親に見られたら面倒なことになる)と思ったが
気付かなかったのか、さほど赤みは出ていなかったのか、親には何も言われなかった。
それにしてもあんな大騒ぎしてたのに、先生は気付かなかったのだろうか。
学校というのは本当に、死角の多い場所だし見る気がなければ何も見えない場所だ。
そして子供は学校でのもめ事を親にはひた隠しにする。
親にそんなこと知られるのは恥だと思う。
ましてわたしの親は「どうしたの?」とか「なにがあったの?」
などと心配するのでは無く
「いじめられてんの?情けない」とか
「あんたが悪いんでしょ」
というタイプの親だったので、何があっても知られたくないとわたしは思っていた。
だから今、「サバイバー」というのは大げさかも知れないけど
無事に大人になれたことも、誰かに助けを求めることが出来る人間になれたことも
本当に、ラッキーだったと思うのだ。