新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカという国 #6の2

2014-11-04 08:52:08 | コラム
如何にもアメリカ的な出来事だった:

Table for two, please:
本社で女性マネージャーとその友人と3人で社外に昼食に出かけた時のことだった。食事が終わり帰社する前に女性たちはRest roomに行ったので、その間私は何と言うことなしにレストランの入り口に立ててある”Please wait to be seated”の看板の後ろで待っていた。

念のためにこの看板を日本語にしておけば「係がお席にご案内するまでお待ち下さい」とでもなるだろうか。これは文化の違いで「勝手に着席しないで下さい」という意味だ。カナダのヴァンクーヴァーで日本料理店を経営していた知り合いから「チップの収入と配分の公平を期して係が席を散らしているという意味合いもある」と聞かされていた。

当日は金曜日でもあったので、私は濃紺のダブルブレストのブレザーにレジメンタル・ストライプのタイという週末の装いだった。これがいけなかったらしい。そこにやってきた人品骨柄卑しからざる老夫婦が私に向かって”Table for two, please.”と言ったのだ。私はその瞬間には何のことか解らずに対応出来なかった。するとまた良くしたもので、そこに2人が出てきて大笑いだったのだ。「そんな服装をしているから”Maitre-D”(案内係)に間違われたのだ」と言って。

そう言われてみれば、多くのレストランではMaitre-D(メートルデイー)が当日の私のような格好をしているし、帝国ホテルでも全く同じ服装の時に「お手洗いは何処ですか」と尋ねられたこともあったと思いだした。アメリカのレストランでは努々ダブルのブレザーを着用して”Please wait to be seated”の看板の後ろに立たないことをお薦めしたい。

釣り銭用の現金がなくなって:
シカゴで約20人の日本からの団体客を買い物にご案内した時のことだった。アメリカのお洒落な紳士用品を買いたいとのご希望で、別名”magnificent mile”の目抜き通り”North Michigan avenue”の”Brooks Brothers”を私の好みで選んで出掛けた。因みにこの団体はほとんどの方が初めてのアメリカという地方の工場の役職者で構成されていた。

さて、お買い物である。店内は大賑わいで多くの方は自分用以外に土産物を買われることが多かった。そこで贈答用の箱に入れたネクタイ等が数多く売れた。そしてお勘定である。ところが一向に精算が進行せず皆が「何をやっているんだ」と苛立ってきた。そこで案内役が尋ねると「これほど多くの方が沢山お買い上げでしかも現金で払われた例がないので釣り銭用の現金がなくなって、係が銀行に走って行ったところで、暫時お待ちを」が答えだった。我が国では考えられないことだろう。

これは良くあることで、我が国の方には未だに「カードで払って借金をするのを潔しとしない」考え方をされることがあって、事前に幾らお願いしてもクレディットカードを取ってこられない場合がある。ここでもカードと小切手払いのアメリカで、このような事態が発生したのだ。そして支払いが終わったが、また作業が停滞した。「何で」と訊けば「これほど贈答用の箱が必要になった経験がなかったので、今倉庫に取りに走った」と言われた。

全て想定外の出来事だったのだ。私には現金で買い物をすることが極めて希なアメリカでのことで「これぞアメリカかな」と思わせられたのだった。

Brookds Brothersはこれで終わって、次は化粧品ということでデパートに向かった。全員は何故か”Dior”を選ばれて大量お買い上げとなった。店側はてんてこ舞いの状態となった。そこで私は何気なく主任と覚しき男性に「繁昌で良かったじゃないか」と言った。実は、かの国の仕来りではこれほどの団体を連れてきたガイドには、それ相応の報酬を払う仕組みになっていたのを私は忘れて、言わば「何か忘れていませんか」と言ったのと同様な効果を生んでしまったらしい。

主任は慌てふためいて「それは失礼しました」とばかりに高価な香水のセットを持ってきた。私には受け取る理由はないので、事情と身分を明かして鄭重にお返しした。彼は「何故」と言いたいような不思議そうな表情で引き取ってくれた。これは東南アジアではごく普通にある習慣だが、アメリカでも行われているとは余り考えたことはなかった。

Emergency Clinic:
1994年2月のW社をリタイヤーした直後に、ある方面のご依頼で、お手伝いにラスヴェガスとカリフォルニア州に行った時のことだった。すると、その仕事での関係先のアメリカで全国展開している不動産会社の手伝いで、カリフォルニア州の南の方に出掛けることになった。ところが、私は不馴れなラスヴェガスの夜の気温の低下で風邪を引かされてしまい、当日は未だ抜けきっていなかった。

すると、不動産会社の副社長は強引に私を予約無しで診て貰えるというEmergency Clinic(救急診療所とでも言おうか、climicの他に”room”等とも言うようだ)に連れて行った。直ぐに診て貰えた。医師は病状を訊くだけで私の身体には一切触れず、熱を測り喉は口を開けさせて舌圧しを使ってみただけで”No problem.”の診断。そして、OTC(=売薬)のTylenol 3とExcedrinを処方しただけで80ドルを請求されて終わった。

アメリカで私が経験した限りでは電話で病状を申告して処方箋を聞いただけで有料だし、予約無しでは診て貰えないのである以上、このEmergency Clinicは非常に便利だった。私には80ドルが高いのかどうか全く判断する材料はなかった。だが、その二つの売薬を飲みながら半日以上の長時間のドライブに耐えて日帰りの出張を強行できたのだから、実用的なことを優先するアメリカ式だと思わせてくれた診療方式を良しとせねばなるまい。

私は全米にこういう診療所があるかどうか確認もしてないし、その後も調べたことはない。だが、有り難いシステムであると思った次第で、ここに採り上げた。実は、新宿の国際医療研究センターにも休日用に緊急の掛かりつけではない患者も受けてくれる制度があり「診察料が5千円であるが、支払う意志があるか」と確認される。私は5千円の多寡は問題ではない場合があると考えるのだが。
(この項終わる)