新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカという契約社会を考えると

2014-11-20 16:07:20 | コラム
何故MLBのオールスター軍は負け越したのか:

小久保監督率いる何年か先のWBCに備えた若手ばかりのNPBの選抜軍に、何とMLBのAll Starが負け越しに終わった。さぞかしアメリカの野球に批判的な張本勲を喜ばせたことだろうと思っていた。そこで、私なりに負け越した原因というか訳(理由でもう良いか?)を考えてみる。

以前にイチロー君がシアトル・マリナーズでMLBの歴史を変えるような新記録を打ち立てていた頃のことだった。彼の契約には当然のことで種々の年俸をその年の成績次第でどれほど挙げるかの項目が列記してある。その中には「ホームラン王を取った場合」もあると聞いた者が「そんなおよそあり得ないことまで決めるのか」と疑問を呈した。

誰だったかが答えた。「彼にはそれだけの力があるが、彼は年間と生涯の安打記録に集中しているので、その気になれば打てるホームランを狙っていないだけで可能性が残っている」のように。だからこそ、それが仮令非現実的だと思っても、その項目を設けておくのがアメリカ式契約の精神というか味噌。もしも取ってしまった場合に、その項目がなければ翌年の契約更改の際に昇給の条件にならないのだ。

こういう「(絶対に)ありそうもないことも念入りに潰しておくのが、アメリカの契約の精神である。キリスト教では「『絶対』は神(God)のみが使うことが許された表現で普通の人が使わないこと」と教えられた記憶がある。だが、彼等は絶対とは言わないまでも「あり得ないことなど先ずあり得ない」と考えているのである。

私が既に述べたことだが、我がW社が日本市場で成長途上のQ社と”incentive”の為に「数量値引き契約」を結ぶことにした。私は副社長とその数量の限度の打ち合わせをした際に「現在では年間に1万 tonがやっとであるから、1万5,000 ton 辺りが良いのでは」と提案した。ところが副社長は言下に否定して「3万 tonにする」と言うのだった。「あり得ない」と反論した。

彼の解説はイチローのホームラン王条項と全く同じで、「市場に何時如何なる予期せざる状況が生じて、Q社が3万 ton の大口取引先に成長するかは予測出来ないのではないか」というものだった。即ち、もし折角3万 ton を達成しても、その条項がなければ、それに見合う値引きを得られなくなるということだ。お恥ずかしながら、目から鱗が落ちる思いで学習した。

そこでMLBである。彼等が「シーズンオフに全MLBから選抜されて日本にやってきて日本代表チームと試合をして、そこで一定以上の条件を満たす成績を挙げれば、2015年の契約更改に際して云々」という条件の契約を結んでいたかのかと言うことだ。ないだろうと思う。

まして、「全員が総力を挙げて、日本で全勝せよそう」との契約をしていたのかということ。いう条項があれば、歯を食い縛ってでも則本を打ち崩し、大谷翔平を木っ端微塵にし、柳田に1本も打たせないと投手は奮い立ったのではないか。

しかも彼はティームの為よりも個人としての実績を挙げることに集中する国から来た者たちである。全力を傾ける場があれば、そこでも個人としての成績を残して少しでも個人の”credit”を稼ごうとする精神構造の持ち主であると、私は見ていた。それに既にシーズンが終わっていれば目の色変えて日本代表を打ちのめそうとする意欲は、私には見えなかった。だが、3回も負け、Canoが負傷した辺りから「このままでは終われない」との気力と力を見せ始めたと感じていた。

それまでの不振は「決められていなかったことには集中しない」といったような考え方に基づいて動くからだと、私は見ていた。事実、私の”Job description”には「後任(ないしは後継者を探す」や「秘書を教育する」等という項目はなかった。だから、しなかった。余談として付記して置くが、アメリカの会社とは「決められたことだけ実行しているのでは評価されない」と心得で置くべき世界なのだ。

言われたことだけやっているのでは何にもならず、自分の担当分野を自らの力で切り開いていって、”Job description”の項目を増やしていってなんぼの世界だ。誤解なきように申し上げて置くが、これが良い世界であるとか、我が国の会社組織より優れているなどとは間違っても言っていないのだ。