新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領と金正恩委員長の首脳会談に思うこと

2018-05-12 15:56:53 | コラム
如何なる結果を生じるか:

トランプ大統領と金正恩委員長のシンガポールにおける会談の6月12日までには、丁度1ヶ月が残っている。その間に色々と両国の事務方が議題その他の準備を整えるべく懸命の作業が続くのだろうと思っている。経験上から言えば「米国の大手企業における大きな会議は、関係する部門の全員が各自に割り当てられた発表なり討論なりの準備をに長い時間をかけるので、会議そのものが始まった時には既に終わったと言って良いほど完璧な態勢を整えて参加するようになっている」ものだ。

その観点から見れば、ポンペオ国務長官(Michael Pompeo)が既に2度も平壌を訪れて金正恩委員長以下と会って懇談しておられる以上、ある程度以上の議題や式次第等についての話し合いが行われ、あの3名の韓国系アメリカ人が解放された後でも議題等々の準備の話し合いが継続されていても不思議はないと思っている。

その肝腎の議題であるが、報道によれば「トランプ大統領というかアメリカ側は飽くまでもDPRKの“CVID”の達成にあり、そこまでのことを金正恩委員長に了解させ認めさせることが最大の狙いであるだろう」ということのようだ。ではDPRKは何を目指しているのかについては「非核化は認めるようだが、その見返りともいうべき金正恩委員長体制の維持を求めるだろう」とも見られているようだ。

私が考えても、トランプ大統領は「これまでに少なくともアメリカというか自由世界の諸国は、3度ほどDPRKが約束したはずのことを反故にされた経験があった事を肝に銘じて交渉の席につくのだろう」となる。如何に事前に議題が準備されていようと、いや両国が納得してその内容で討論しようと合意するような議題が整っても、現実に会談が始まるまでは多少以上の紆余曲折があるだろうとも考えられる。

そこで会談が現実に始まったとして、トランプ大統領と金正恩委員長との間に和やかで穏やかに討論が進むのだろうか。アメリカ人であるトランプ大統領が「事前に何処かに落としどころを密かに用意されて、その言わば双方の主張の中間点のようなところで会談を収めることがあるのだろうか。両首脳がお互いの主張の食い違いに気づき、会談を円満に終わらせようと議論を何らかの妥協に導こうと譲り合うこと」があるのだろうか。私にはこのような結末というか終わり方は到底想像できないのだ。

この辺りに会談の場所や日程が決まる遙か以前にトランプ大統領が既に「席を蹴って立ち去る事も云々」と言われたこの会談の難しさがあると思うのだ。私が経験した限りのアメリカの企業の交渉術では、副社長兼事業本部長かそれ以上の地位にある者が交渉の席にいれば話は別だが、我が国でいう営業部長や課長といった程度の地位にありその地位に与えられた権限では、交渉相手と妥協するとか、自社の主張と相手側のそれを足して2で割ったような中間点で折り合う権限などは最初から与えられていないのだ。

ましてや、今回はアメリカで最高の権力と権威と決定権を持つ大統領が、DPRKの金王朝の三代目と限界ギリギリのまでに至るような壮烈な議論と討論をする場となるのだ。即ち、私が繰り返し使ってきたアメリカ式討論の精神的な主柱である「論争と対立を怖れてはならない」との立場に立って徹底した激しい討論が展開されていく場になると思っている。繰り返しになるが、両首脳が妥協を目指しての会談にはされなくとも、全く不思議はないと考える次第だ。

落としどころがなければ、あるいは会談は決裂して再度の会談を約して別れるか、一部で言われているようなアメリカ側の強行派が軍事力の行使に出ようと主張するのか、その辺りは予断を許すものではあるまいと思っている。または、トランプ大統領の頭の中に「妥協」だの「落としどころ」などという考え方は最初から無しで会談に臨まれると思っている方が自然だろうと考えている。

私はこの会談を歴史的だの何のと騒ぐ前に「両首脳がお互いに譲れない一線を引っ提げて激論を展開させればどうなるのか」を心配しておく必要があると思えてならないのだ。トランプ大統領は「席を蹴って立ち去る」場合の Contingency plan にはどのような次の手が準備されているのかを考えておく必要があるのではないかとも密かに考えている。その二の矢が「軍事力行使」ではなく2度目3度目の会談となること一人静かに希望的に観測しているのだが、如何なものだろう。