もう一度見たかった試合を見る機会があった:
昨1日の午後、何気なくチャンネルを合わせたNHKのBSで「もう一度見たい試合」というのをやっていた。澤穂希さんがゲストような形で当時の状況を語り、11年7月にドイツのフランクフルトでアメリカをPK戦で負かした感激・感動の試合の録画を流していた。これならば何度見ても良いと思い体調の不備も何もかも忘れて確か夕方の5時頃まで見とれていた。私は何が何でもWorld Cupで優勝してしまうとは「素晴らしい」とか「凄い」とか「世紀の快挙」などという次元を遙かに飛び越えた一大偉業だと思っている。その試合をもう一度見られるとは有り難いことだった。
澤さん自身が「あの時のことを思い出すとウルウルくる」と言っていたほど感激したことだったのだから、あの最後の熊谷がPKを決める場面では入ると解っていても緊張を強いられたし、宮間が打ち合わせ通りに低く蹴ってアメリカのゴール前で澤さんさえ予測できなかった左脚のアウトサイドでシュートを決めた場面などは、8年も経った今でも感激と興奮で涙が出る思いだった。延長戦の最後に澤さんが宮間のショート・コーナーキックをヒールかアウトサイドで後ろに流して同点にした場面などは何度見ても興奮する。
澤さんは「後ろに流せば誰かが中にいて決めてくれるだろう」と期待していたので、「蹴った後で転倒したので、入ったとは知らなかった」という回顧談は興味深かった。あの時は私には一瞬何が起きたか解らなかったが、ボールがネットに当たっていたのを見て得点したと解って本当に大感激・大感動だった。宮間とは十分に打ち合わせをしてあったと言うが、あれほど上手く行くことは滅多にあるまいと痛感させられたほど凄いプレーだった。だが、あの2人はあの手を以前にも使ったことがあったので、アメリカ側が不用意だったと言えると思う。
感動の話はこれくらいにして、私はあらためて「なでしこ」とやらのサッカーの質の高さを鑑賞していた。佐々木則夫監督率いる彼女らのサッカーは細かいパス回しが特徴の如くに言われていたと思うが、昨日改めてじっくりと見ればそんなことだけに限らず非常の質が高い立派なサッカーをやっていたことを再認識できた。解りやすく言えば「基本と原則に忠実に全員が良く動き攻め上がり且つまた下がって身を挺して守るという、やるべきことを忠実にと言うか真剣にやっている極めて高い次元に到達していた」と言うことになる。
男子代表を引き合いに出せば、彼らのようなパス回しの為のパスなど出すことなく、チャンスがあれば自分キープしてでもやってやろうという意欲が十分に見えるサッカーだったとになる。特に男子代表が得意技とする横→横→後ろ→また後ろというような消極的な時間潰しはほとんどしていなかった。男子どもは今からでもヴィデオを見て見習うべきだとすら思いながら見ていた。男子には釜本邦茂の「今のサッカーはキープして抜いて上がっていってはいけないとでも教えているのか」とのテレビの解説で聞いた苦言をそのまま転送してやりたい。
あのGKの海堀以下近賀、石清水、熊谷 鮫島、澤、坂口、宮間、安藤、大野、川澄、(交代で入った永里、丸山、岩淵)の選手たちはこれまでの印象では「澤、宮間が抜群で、その2人に次ぐ存在が坂口」だとなっていたが昨日良く見直せば、全員は粒が揃っていて皆同じ技術的には高い水準にあり、誰が頭抜けているかなどという言わばskillの差はなく、澤が全体をリードする存在でありながら、飽くまでも11人の中の1人として懸命に攻め且つ守っていたのだと見えた。その補助役としての宮間と坂口の存在が澤を助けていたと見るべきだろう。
兎に角、全員が一所懸命に動き、お互いに助け合い、誰かがキープしてパスを出す先を探していると解れば前線にいうる者が動き出してチャンスを作ろうとする姿勢を見せ続けたのは、仮令オフサイドを取られることになっても「果敢であり積極性である」と評価しても良いかと思って見ていた。私は最早あれほど全員の質が高く、共通の意識を持って動くサッカーの組織を創り上げることが、2度と出来るのだろうかと考え込まされたほど、あの代表は実に1人1人の質が高く、その上に良く纏まっていたと思う。
こういう形であの決勝戦を見る機会を与えてくれたNHKのBSには感謝せねばなるまいと思う。澤穂希さんは「指導者をやる気はない」と言っておられたと記憶するが、あれほどの技術と積み重ねた経験の持ち主が、それを次代に伝えずにいるのは余りにも勿体ない気がする。我々が国体の決勝戦で負けた経験があるだけに、世界大会での優勝がどれほど凄いかは想像出来る。そんな国体どころではないWorld Cupで優勝された経験を、現在の女子の代表にも伝えつつ指導して貰いたいものだと思う。