新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

我が国の紙輸出入統計の分析

2024-02-25 07:58:59 | コラム
2023年の紙類の輸出入統計から:

昨24日に続いてこの紙類の輸出入統計からの話題を。ここには輸出入の相手国別に分析してみようと思うのだ。

紙類とは言うが厳密には、この統計では「印刷用紙のような紙と、紙器用板紙と段ボール箱の原紙のような板紙」に分かれている。輸出の総量は1,876,012トンで対前年比△19.0%と、円安を活かして健闘していた。一方の輸入はと言えば1,004,563トンで△12.0%と矢張り円安の影響を示す低調振りだった。当方が現職だった1993年末までは円高にも支えられて輸入には勢いがあったのと比べれば、陳腐な表現を用いれば「隔世の感を免れない」のである。

そこで、本稿では輸入と輸出の国別の実績の内訳を取り上げてみようと思うのだ。1995年に製紙新興国の中国と並ぶ最大手であるインドネシアで今や世界最大の製紙会社と言っても過言ではないAsia Pulp & Paper(APP)の工場で、三菱重工製の超大型の最新鋭の抄紙機から時代に取り残されていた、アメリカの製紙業界では想像も出来ないようなスピードで良質な上質紙が吹き出されてくる(?)光景を見て打ちのめされた経験をしていた。

暫くは物も言えなかった程の衝撃を受けたのを思い出す。余りにも凄すぎる時代の変化だった。30年前頃には新興勢力にしか過ぎなかった中国は、今やアメリカを遙かに抜き去った世界最大の製紙国なのである。そこで、そのような世界の製紙国の地図がどのような変化を遂げたかを、この統計から見ていこう。当方は対日輸出の担当だったのだから、輸入の方が気になるので、そちらから先に。

輸入の国別内訳:
国別の輸入の第1位はインドネシアで、その全体に占める比率は35.4%、2位は中国で23.2%、3位はアメリカで19.3%、4位は韓国で8.8%、5位はフィンランドで3.9%、6位がスウエーデンで3.4%、7位がUK(=英国)で2.8%となっていた。我がアメリカはと言えば157.087トンだったのだからミルクカートン原紙の124,310トンが80%を占めており、新聞用紙等はほぼ完全に市場を失って往年の面影はない。

新興勢力が過半数を占めていて、これが時代の変化を痛感させてくれている。即ち、アメリカの凋落はウエアーハウザーやインターナショナルペーパーのような最大手が次々と新聞用紙(印刷用紙類)の分野から撤退したことの影響をあからさまに示している。

輸出の国別の内訳:
輸出に目を転じてみよう。仕向け先の第1位は意外と言うべきか何と言うべきか中国で32.6%、2位はベトナムで11.8%、3位は韓国で11.2%、4位は台湾で10.5%、5位はフィリピンで7.2%、6位はタイで7.0%、7位はマレーシアで6.5%、8位はインドで4.4%、9位はインドネシアで2.5%、10位にやっとアメリカが現れて1.4%となっている。記憶ではアメリカは我が国の優れた印刷用紙に高率の関税をかけて閉め出したとかだ。

ここでは、我が国の輸出先はアジアの発展途上国向けだったことが手に取るように見えてくる。これは、何れは彼等が製紙の新興勢力に成長した頃には、我が国からの輸入を必要としなくなるかも知れないことを予告しているとも読める。私には危険信号とも見えるのだが。

マスコミに一言:
私はここに取り上げた輸出入の統計で国別の内訳が出ているのは、世の流れの変化を知る意味でも大いに役に立つと思っている。だが、報道機関が発表する貿易統計には滅多にこういう精密な分析がないのは如何なものかと思うのだ。例えば、自動車産業界では港湾の広いヤードに無数の自動車を並べて輸送船に積み込む画を見せられるが、何処の国にどれ程向けられているのが報じられたことがない。

食料だって、カロリー計算では70%も輸入に依存していると警告する報道はあるが、何処の国から何を如何なる比率で輸入しているかなどは聞かされたことがない。この現象は政府が明らかにしないのか、マスコミの手抜きか知る由もないが、その気になれば上記の紙類の輸出入統計が示すように、資料はあると信じている。その資料を入手して、上記に当方が取り上げたような分析を見せて貰いたいものだ。

資料:紙業タイムス社刊 FUTURE誌 2024年2月26日号