実は、中国で生活様式に変化があったのかを知りたかったので:
10数年前のことだったかメルマガ「頂門の一針」の主宰者・渡部亮次郎氏に示唆されて「中国の全人口の生活様式が変わり、水洗トイレが普及して10数億の人口が洩れなくトイレットペーパーを使用する状態が出現した場合に、全世界の紙パルプの需給にどのような影響を及ぼすだろうか」を試算してみたことがあった。
この試算をするに際しての私の興味と関心は「中国がアメリカに迫る世界の経済大国にのし上がったとは言え、人口1人当たりのGDPでは未だに世界の上位には上がり切れていない事が示されるのかも」という点にあった。試算をする為の前提となった資料は最早手元には残っていないが、結果として予測できたことは「10数億の人口にトイレットペーパーが普及すれば、全世界のパルプと古紙等の製紙原料全量がそこに費やされてしまう事になる」だった。
要点は「経済発展が生活様式の変化をもたらしていたか」を見たかったのである。
しかしながら、中国ではディジタル化は世界に先駆けて進み、誰でもがスマートフォンを持ち歩いて買い物をする際に店頭のQRコードを読ませて決済すると報じられているように「究極のペーパーレス化」が進んでいる事実も報じられている。だから、人口1人当たりの紙の消費量が世界175ヶ国の平均を超える所までには至ったものの、30位のバーミューダの102.0kgにも及ばない83.9kgに止まっている状態。
想像を逞しゅうすれば、トイレットペーパーの普及は未だしの感がある。しかし、話をここまでで止める訳にはいかないと思う。今や世界最大の人口を擁するのはインドなのである。そのインドは生産量で5位、消費量では4位という大国なのだ。だが、1人当たりの消費量は何と12.6kgであり、大いなる将来性を秘めているとも言えそうだ。ここで、もしインドで生活様式に変化が生じ、トイレットペーパーを消費するようになれば・・・なのだ。
製紙原料は電力とは違って太陽光パネルを設置すれば供給量が増えるような訳にはいかないのである。ウエアーハウザーでは自社で育成した針葉樹の苗を植えてから伐採するまでに、50年というサイクルを見ていた。保有していた森林地も約600万エーカー(1エーカー=約1,200坪)であるから、とても何時の日か飛躍的に増加する衛生用紙向けの製紙原料の需要を、部分的にでも賄いきれるものではないと思う。
印刷情報用紙や新聞用紙等の印刷媒体用の紙の需要は急速に減少したが、世界全体の新興国等々で衛生用紙の需要が伸びていった場合には、原料の供給は間に合わないだろうし、生産する設備(=抄紙機)にした所で、衛生用紙の生産に適した機械を急に導入せよと要求されても、無理な相談だと思う。
以上は飽くまでも仮定の話だから「それは大変」などと慌てる必要はないと思う。ではあっても、新興国だけではなく嘗ては発展途上国と呼ばれた多くの国も、時代の急速な変化と進歩に合わせて経済は発展し、生活様式も変化していくだろう事は、容易に想像できる。その時代にあって「未だ紙を使っているのか」などという不埒なテレビCMを流しているIT企業には「何を考えているのか、紙を軽視するな」と警告してやりたくなるというもの。