接待費と交際費:
我々は英語では“expense account”等と呼んでいたが、「接待費」は”entertainment expenses“でも良いと思う。しかし、私は個人的には「接待費」と「交際費」を別けて考えていた。一見同じ事を表現を変えて言っているかのようだが、私の考えでは「その用途は明らかに違うのだ」となっていた。
「接待」とは:
言わば会社間の公式行事で、我々アメリカのサプライヤーが我が国の取引先の偉い方から時には実務担当者までをお招きして、然るべき一流のレストラン乃至は料亭で宴席を設けて「長いお付き合い」になるような意志疎通と親睦を図る機会なのである。その反対に我々がお招き頂くこともある。何れにせよ、それぞれの会社の格に相応しい場所を選ぶのは当然のことであろう。我が社としては、こういう席を設けるのは副社長兼事業部長が出張してきた時が多かった。このような場合を“entertainment”=接待と言うのだろう。
私が在職中の1993年末までは、二次会が禁じられていた訳でもなく、深夜までアルコールを受け付けない身体で、食べるのと通訳の両方を引き受けているのは容易ではなかった。だが、双方に誰かが何時か仕事の話を持ち出すかも知れないので、緊張感を維持していなければならなかった。これも接待のうちと割り切っていた。
「付き合い」とは:
私はこのような宴席とは別に日本駐在マネージャーの仕事の一環として、接待費として組まれている予算の中から「交際費」(=“social expenses”などとでも呼びたいが)にでも分類したい経費を使っていた。このような経費の使い方が、私の重大な任務だとも考えていた。その使い方は上述の接待とは質が違うので、以下に解説して日本駐在マネージャーの仕事にはこういうものもあるのだとご紹介しておきたい。
私のようなアメリカの対日輸出の担当者の「営業」の仕事では「情報の蒐集と、その情報を取捨選択して私流に咀嚼して纏めて(訊いたままを流すのでは伝書鳩と同じだ)、取引先に適宜に提供していく貢献する事」は非常に重要な要素なのである。極端に言えば「得意先の信頼を獲得する為には、同業他社よりも量と質が共に優れた情報の供給能力を備えているか否か」が極めて重要な信用獲得の要因となっているのだ。換言すれば「サプライヤーであると同時に、良き情報提供業者たれ」は極めて重要なのだ。
「情報収集の手法」:
それでは、その情報収集能力を高める為にはどうすれば良いのかとなってくる。私はアメリカからの対日輸出を2社で経験した。その際に日常の業務の他に、何をさて措いても努力した事は「私独自の情報網をか可及的速やかに構築する」だった。これは換言すれば「人脈の構築」であると同時に「他の業種までにも顔を広くする」という事だった。要するに、四方八方に目を配って付き合いの幅を広げておく事だった。これはいうべくして簡単な事ではなく、これと思った信頼出来る人を捜し求めて付き合っていくという事でもあるのだ。
そこで「情報とは何か」を説明しておくと「周知の事実や、紙に書かれて(印刷されてか?)いるような種類の話ではなく、それこそ「ここだけの話だが」(“Please don’t use this information against me.”などと表現されるが)といったような言わば「スイークレット」(でカタカナ語ならば「シークレット」だが)を交換し合えるような人たちにお付き合いを願わねばならないのだ。往々にして「この件はご内聞に」などと言われる事は大したものではなく、相手が何気なくサラッと語っている事の中に「凄い事を漏らしてくれた」と跳び上がるような秘密が含まれている事もあるのだ。
しかし、情報交換である以上、一方通行では話にならないので、こちらが持っている特ダネも提供しなければならないのは言うまでもない事。時には手持ちの材料を「さー、どうだ」と洗いざらい公開して見返りを待つ事もあるし、言葉巧みに持ちかけて「これは」という核心に触れた情報を引き出す場合もある。更に言えば「相互に信頼関係が構築」が出来ていれば、スラスラと特ダネの交換が当たり前のように出来るのだ。情報交換と収集には虚々実々の駆け引きもあって、時には「やった」とばかりに精神的にはかなり興奮する事もあるので止められないのだ。
特殊技能?:
ここで私自身が良く解っていない特技に触れてみようかと。それは「私は重要な仕事の会談をしている時でも、他人様と気楽に語り合っている時でも、生まれつきのようで同じ姿勢を維持している事が出来ないというか落ち着きがない者なので、2~3分も経つと動いてしまう」のだ。これは(自分には解らない事で)隙だらけのように見えるらしく、先方様が緊張感を失われてしまうようなのだ。その結果として「何で貴方にこんな事まで喋っちゃたのかな」と不思議がられたほど、その会社の他言すべきではないような営業政策などを語って貰えた事があった。不思議だった。
この落ち着きの無さの利点を、何年か前に某テレビ局が特集していた。それは「生真面目に固い姿勢で身じろぎもしないで座っている相手では語りにくく、崩れた姿勢を採る相手の法には気を許す」という実験だった。語り手が窮屈な姿勢で動かない人と対座して「しゃべり辛い」と絶叫していた。興味深い実験だった。それが、細かく動く人に変わると滑らかに話し出していた。
本題に戻れば、交際の幅を広げておけば「この件ならば、この人に訊けば解る」という良い状態になれるのだ。または「今日の昼は空いていますか」等と尋ねて、軽い昼食代を負担して訊きたい事を聞き出すような事をするのだ。その反対もある。ここで重要な事は「一方通行的に聞き出すのではなく、必ず見返りというかお土産も用意しておかねばならない」のは当然である。そういう付き合いを広げておけば「交際費」が当然必要になってくる。そのランチミーティングなどは「グルメの会」をやる訳ではないのだから、多くは三大ホテルのコーヒーショップなどを利用していた。
但し、ホテルには落し穴があるので要注意なのだ。私がW社に転進した時点での技術サ-ビスマネージャーは「ホテルでは絶対に重要な会談なするな」と戒めていた。事実、彼と日比谷公園の前の前のホテルのコーヒーショップで軽くランチをしていると、彼が「俺の後ろの席にいる日本人の会話にしきりに我が社の名前が聞こえる」というのだった。
そこで、中腰になって確かめてみたら、何と某商社の有名な遣り手が我が社の他の事業部の最大の得意先の資材部長さんに「あの会社からの購入量を減らして我が社に振り向けて頂きたい」と口説いている最中だった。早速立ち上がって「気が付きませんで」と挨拶に行ったら、その腕利きの商社マンが真っ青になってしまった。将に「だから言ったじゃないか」だった。それ以降、私は情報交換会の場合には、周囲を見回してからにするか、隅っこの席を頼む事にしていた。
東北新社の例に見る教訓:
私には東北新社の総務省接待が“entertainment”なのか、“social expense”だったのかなどは解らないが、文藝春秋社に近くに陣取られて会話を録音されていたというのなどは、上記の我が社の技術サービスマネージャーの警告通りで不注意だったという事だろう。「壁に耳あり障子に目あり」と言うではないか。
矢張り、経費の使い方としては「接待」と「(情報交換等の目的の)交際」と別けて考えておく方が良いのではないかと思う。視点を変えれば取引先と会食する場合には、その目的というか意図を考えて、然るべき場所を選ぶべきだ。東北新社がもう少し注意深ければ、菅内閣の危機を招いたと言われるような事態は回避出来たはずだ。それに、今時、2万円/一人当たり等という経費で何らかの見返りを期待していたのであれば、余り褒められたお金の使い方ではないように思える。しかも、今回は死に金どころか、総務省の高官に傷を付けてしまったではないか。
我々は英語では“expense account”等と呼んでいたが、「接待費」は”entertainment expenses“でも良いと思う。しかし、私は個人的には「接待費」と「交際費」を別けて考えていた。一見同じ事を表現を変えて言っているかのようだが、私の考えでは「その用途は明らかに違うのだ」となっていた。
「接待」とは:
言わば会社間の公式行事で、我々アメリカのサプライヤーが我が国の取引先の偉い方から時には実務担当者までをお招きして、然るべき一流のレストラン乃至は料亭で宴席を設けて「長いお付き合い」になるような意志疎通と親睦を図る機会なのである。その反対に我々がお招き頂くこともある。何れにせよ、それぞれの会社の格に相応しい場所を選ぶのは当然のことであろう。我が社としては、こういう席を設けるのは副社長兼事業部長が出張してきた時が多かった。このような場合を“entertainment”=接待と言うのだろう。
私が在職中の1993年末までは、二次会が禁じられていた訳でもなく、深夜までアルコールを受け付けない身体で、食べるのと通訳の両方を引き受けているのは容易ではなかった。だが、双方に誰かが何時か仕事の話を持ち出すかも知れないので、緊張感を維持していなければならなかった。これも接待のうちと割り切っていた。
「付き合い」とは:
私はこのような宴席とは別に日本駐在マネージャーの仕事の一環として、接待費として組まれている予算の中から「交際費」(=“social expenses”などとでも呼びたいが)にでも分類したい経費を使っていた。このような経費の使い方が、私の重大な任務だとも考えていた。その使い方は上述の接待とは質が違うので、以下に解説して日本駐在マネージャーの仕事にはこういうものもあるのだとご紹介しておきたい。
私のようなアメリカの対日輸出の担当者の「営業」の仕事では「情報の蒐集と、その情報を取捨選択して私流に咀嚼して纏めて(訊いたままを流すのでは伝書鳩と同じだ)、取引先に適宜に提供していく貢献する事」は非常に重要な要素なのである。極端に言えば「得意先の信頼を獲得する為には、同業他社よりも量と質が共に優れた情報の供給能力を備えているか否か」が極めて重要な信用獲得の要因となっているのだ。換言すれば「サプライヤーであると同時に、良き情報提供業者たれ」は極めて重要なのだ。
「情報収集の手法」:
それでは、その情報収集能力を高める為にはどうすれば良いのかとなってくる。私はアメリカからの対日輸出を2社で経験した。その際に日常の業務の他に、何をさて措いても努力した事は「私独自の情報網をか可及的速やかに構築する」だった。これは換言すれば「人脈の構築」であると同時に「他の業種までにも顔を広くする」という事だった。要するに、四方八方に目を配って付き合いの幅を広げておく事だった。これはいうべくして簡単な事ではなく、これと思った信頼出来る人を捜し求めて付き合っていくという事でもあるのだ。
そこで「情報とは何か」を説明しておくと「周知の事実や、紙に書かれて(印刷されてか?)いるような種類の話ではなく、それこそ「ここだけの話だが」(“Please don’t use this information against me.”などと表現されるが)といったような言わば「スイークレット」(でカタカナ語ならば「シークレット」だが)を交換し合えるような人たちにお付き合いを願わねばならないのだ。往々にして「この件はご内聞に」などと言われる事は大したものではなく、相手が何気なくサラッと語っている事の中に「凄い事を漏らしてくれた」と跳び上がるような秘密が含まれている事もあるのだ。
しかし、情報交換である以上、一方通行では話にならないので、こちらが持っている特ダネも提供しなければならないのは言うまでもない事。時には手持ちの材料を「さー、どうだ」と洗いざらい公開して見返りを待つ事もあるし、言葉巧みに持ちかけて「これは」という核心に触れた情報を引き出す場合もある。更に言えば「相互に信頼関係が構築」が出来ていれば、スラスラと特ダネの交換が当たり前のように出来るのだ。情報交換と収集には虚々実々の駆け引きもあって、時には「やった」とばかりに精神的にはかなり興奮する事もあるので止められないのだ。
特殊技能?:
ここで私自身が良く解っていない特技に触れてみようかと。それは「私は重要な仕事の会談をしている時でも、他人様と気楽に語り合っている時でも、生まれつきのようで同じ姿勢を維持している事が出来ないというか落ち着きがない者なので、2~3分も経つと動いてしまう」のだ。これは(自分には解らない事で)隙だらけのように見えるらしく、先方様が緊張感を失われてしまうようなのだ。その結果として「何で貴方にこんな事まで喋っちゃたのかな」と不思議がられたほど、その会社の他言すべきではないような営業政策などを語って貰えた事があった。不思議だった。
この落ち着きの無さの利点を、何年か前に某テレビ局が特集していた。それは「生真面目に固い姿勢で身じろぎもしないで座っている相手では語りにくく、崩れた姿勢を採る相手の法には気を許す」という実験だった。語り手が窮屈な姿勢で動かない人と対座して「しゃべり辛い」と絶叫していた。興味深い実験だった。それが、細かく動く人に変わると滑らかに話し出していた。
本題に戻れば、交際の幅を広げておけば「この件ならば、この人に訊けば解る」という良い状態になれるのだ。または「今日の昼は空いていますか」等と尋ねて、軽い昼食代を負担して訊きたい事を聞き出すような事をするのだ。その反対もある。ここで重要な事は「一方通行的に聞き出すのではなく、必ず見返りというかお土産も用意しておかねばならない」のは当然である。そういう付き合いを広げておけば「交際費」が当然必要になってくる。そのランチミーティングなどは「グルメの会」をやる訳ではないのだから、多くは三大ホテルのコーヒーショップなどを利用していた。
但し、ホテルには落し穴があるので要注意なのだ。私がW社に転進した時点での技術サ-ビスマネージャーは「ホテルでは絶対に重要な会談なするな」と戒めていた。事実、彼と日比谷公園の前の前のホテルのコーヒーショップで軽くランチをしていると、彼が「俺の後ろの席にいる日本人の会話にしきりに我が社の名前が聞こえる」というのだった。
そこで、中腰になって確かめてみたら、何と某商社の有名な遣り手が我が社の他の事業部の最大の得意先の資材部長さんに「あの会社からの購入量を減らして我が社に振り向けて頂きたい」と口説いている最中だった。早速立ち上がって「気が付きませんで」と挨拶に行ったら、その腕利きの商社マンが真っ青になってしまった。将に「だから言ったじゃないか」だった。それ以降、私は情報交換会の場合には、周囲を見回してからにするか、隅っこの席を頼む事にしていた。
東北新社の例に見る教訓:
私には東北新社の総務省接待が“entertainment”なのか、“social expense”だったのかなどは解らないが、文藝春秋社に近くに陣取られて会話を録音されていたというのなどは、上記の我が社の技術サービスマネージャーの警告通りで不注意だったという事だろう。「壁に耳あり障子に目あり」と言うではないか。
矢張り、経費の使い方としては「接待」と「(情報交換等の目的の)交際」と別けて考えておく方が良いのではないかと思う。視点を変えれば取引先と会食する場合には、その目的というか意図を考えて、然るべき場所を選ぶべきだ。東北新社がもう少し注意深ければ、菅内閣の危機を招いたと言われるような事態は回避出来たはずだ。それに、今時、2万円/一人当たり等という経費で何らかの見返りを期待していたのであれば、余り褒められたお金の使い方ではないように思える。しかも、今回は死に金どころか、総務省の高官に傷を付けてしまったではないか。
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