Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『アンネの日記 増補新訂版』

2010-12-23 19:30:27 | 読書。
読書。
『アンネの日記 増補新訂版』 A・フランク 深町眞理子訳 
を読んだ。

第二次世界大戦中、ユダヤ人だったアンネとその一家と、ファン・ダーン家と、デュッセル氏の8人が
オランダ・アムステルダムで共に隠れ家生活を送っていたころを中心として綴られている、アンネの日記を読んだ。

ユダヤ人を迫害するナチス・ドイツの支配下にあるオランダでの潜行生活という特異な状況の中で、
13~15歳の思春期を過ごしたアンネ・フランク。感受性の強い彼女の、さらに多感で悩み多き時期の、
元気だったりくじけたりした心の内を綴った、
「人間」と「平和」を静かに見つめ直すことになるような読書体験を得られる本でした。

小学校高学年のころの教科書に、『アンネの日記』の抜粋の短いのが載っていて、
それを扱った授業があったようにも思うのだけれど、
内容はさっぱり覚えていない。それでも、隠れ家生活をする少女から生まれ出た文章という、
漠然としたイメージはずっと心に残っていました。そして、いつかは読もうと思い、
今年の初めに『ブルータス』で紹介されていたのを目にしたのを機に購入して読んだのでした。

10代の頃はね、『アンネの日記』なんて、女の子の日記だから、
読むときまずいような気がしていました。
20代の頃は、色あせた作品のように感じていた。
そして30代になって、存在感のある読み物として捉える事ができるようになったし、
どんなことが書かれていても…、たとえ戦時下の恐怖や悲しみに満ちた内容であろうとも、
読みとおす覚悟で臨みました。

しかし、読んでみると、暗い日記ではない。
”キティ”という架空の親友に向けた、手紙という形で日記は進められていく。
今日でいえば、ブログに近い書き方かもしれないです。

泣いた日のことも、家族とケンカした日のことも、ペーターと親密になった日のことも、
隠れ家の住人が皆いがみ合っていた日のことも、物音におびえた日のことも、
乾いた文体で、簡潔に、そしてできるだけ客観的な視点を心がけて書かれています。

最後の方になると、深く内省するその自己批判力と洞察力に、もしも彼女が生きていれば
鋭い観察眼や批評力を発揮するジャーナリストなり作家なりになっていたかもしれない輝きのかけらが
見られたりします。
戦争は、そして人種差別は、こういう素晴らしい才能、快活な魂を摘んでしまうものなのです。
非常に残念です。

そして、読者である僕も、読みながら彼女たちが最後には捕まることが分かっているので、残念なことに、
その破局を心待ちにしている気持ちがありました。
アンネの記述から、彼女はもちろん他の7人にも生きている人として、流れている血の温かさのようなものを
感じてきましたから、逆にというか、その命が絶たれる痛みを待望する気持ちが、正直に言いますが、ありました。
このあたり、終わってしまった悲劇をなぞるからこそ、そういう悪い期待をしてしまうのでしょうか。
とはいえ、読んでいる間の9割方は、綴られるアンネの心情や状況にのめり込んで読んではいるのですけど。

当時の生活の様子が、それが潜行生活であったとしても生き生きを書かれているので、
古臭くてかび臭いような、ぼろぼろの古い時代として感じることはなく、
今と太陽も月も星も森の様子も風も川の流れもそこに魚が泳ぐことも鳥が空を飛ぶことも
変わらないんだなーというのが身にしみるようにわかる感じで読める本でした。

思春期の物の考え方って、やっぱり基本になるようなものがあり、
再発見させられることもあるかと思いますし、
人間模様とその分析などには、ヒントになることも多いと思いました。
そういうような意味でも、この『アンネの日記』は一面的に読めば終わりという
本ではありません。多面的にいろいろ感じたり考えたりできる本なので、
読む方はまずは偏見をできるだけ持たずに向かい合ってみることをおすすめします。
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