Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『停電の夜に』

2017-05-20 23:22:58 | 読書。
読書。
『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ 小川高義 訳
を読んだ。

インド系女流作家、ジュンパ・ラヒリのデビュー短編集。
O・ヘンリ賞受賞作を収録していたり、
本作でピュリッツァー賞を獲得していたりします。

なんか、すごそうだな、と思って手に取ってみたのですが、
日常を大切に観察してすくいとったような短編ばかりだ
という印象を持ちました。

インドに住んでいたことはないらしいですが、
ルーツがインドの作家ですから、
やっぱり主人公がインド人だったり、
白人からながめるインド人を描いていたりします。
そこらへんは馴れない文化に触れていいる感じがしますけれども、
読んでいくと、同じ人間として通低している部分を描いているなあと
わかってきます。

夫婦間のぎくしゃくとしたところや
底辺の階級のひとと、
ふつうに生活できているひとびととのあいだの関係、溝。
そういった、心理的に避けてしまいがちな、
できれば「無いもの」にしたいような気持ちが働く状況やシーンを、
瞬時に忘れ去ってしまうことなく、
逆に記憶にとどめるように描くのが
この作家の特徴、あるいはこの短篇集の特徴でした。

演出に過剰さが無く、
エンタメ色は薄いです。
ですが、日本の純文学よりも大衆に読みやすくできている。
つぶさに日常を見て、
いい意味で真面目に文章にしています。
作家の、誠実さや、はすに構えず正面から見据えるような視点、
そういったものが感じられ、好感を持つことになると思います。

また、解説を読むと、修士を三つ、博士号をひとつとっているようで、
勉強家のインテリさんの面があるんですよね。
そういう勉強家の真面目さっていうのが、
さきほど書いた、いい意味での真面目さと重なっている部分なのではないかな。

インドという異文化に過敏になってしまうアレルギーのないひとであれば、
ぞんぶんに、この誠実な目で描かれた、
落ちついたタッチの短篇集を楽しむことができるでしょう。
作家の内部の静謐さを感じられるようでもあります。


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『早稲田の恋愛学入門』

2017-05-03 14:20:18 | 読書。
読書。
『早稲田の恋愛学入門』 森川友義
を読んだ。

早稲田大学で大人気だという恋愛学講座を書籍化したもの。

これはよく言えば、
人間の生態を写実的に写し取って、
その姿を肯定して「淘汰」を勝ち抜くためのありかたを教える本です。
それは「戦い」であるから、
策略など含めていろいろな手を尽くして臨めといっている風。
でも、小手先感があって、ある意味創造性を感じない論調でした。

性淘汰って適者生存みたいなものだから、
やっぱりそのまま見ていくと殺伐としているシステムです。
この本でいわれていることの前提としては、
社会をよりよくするより、
そして、生きやすさを考えるより、
恋愛でうまくいくことを優先するということ。
それも、かなり強調されてそう書かれている。

だから本書を話半分で聴こうとせずに、
十二分に真に受けてしまったり、
全面的に信じてしまって「信者」みたいになったりすると、
それは恋愛に長けただけのバカになる。
本書のこの早稲田での講義は、ある割合でバカを製造していると思う。

世の人びとは、
それほど、誰かが言うことを全面的に信用しないだろう、
とふまえてこれだけ強めの恋愛講義をしているのかもしれない。
そうじゃなかったとしたら、恋愛原理主義の本ですね。
性のメカニズムこそ正しく、それに従うべきだとする恋愛原理主義は、
人間も昆虫レベルだとしているかのようです。

それでも、恋愛テクニックのところなどでは、おもしろい部分はあった。
たとえば、「秘密の共有戦術」「補完性戦術」
「アドバルーン戦術」「譲歩的説得法」などなどは、
知っておくとまあ使えるだろうし、
小説を書くのにも役立ちそう。
でも、権謀術数を是とする恋愛原理主義なんですよね。

そう感じたり考えたりしてみると、
本書はあんまり良い本ではないかなあ。
恋愛をたのしむ感じがあまりしないですね。

ぼくの知りあいの研究者のひとは、
著者の書く本はおもしろいですよ、と言っていたんだけれども、
ぼくにはあまり合わなかったです。
ひとによりけりな本かもしれないですが、
それでも、恋愛原理主義にはならないほうがいいと個人的に思います。


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