Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『もっと知りたい 葛飾北斎 改訂版』

2021-01-30 13:10:27 | 読書。
読書。
『もっと知りたい 葛飾北斎 改訂版』 永田生慈 監修
を読んだ。

江戸後期の絵師・葛飾北斎の生涯と作品をたくさんの画像を使いながら紹介する本です。

葛飾北斎は幼少の頃から絵を描くのが好きで、19歳の頃には浮世絵師の勝川春章に弟子入りします。以後、プロの絵師として、90歳で亡くなるまで現役をまっとうし、たくさんの絵をこの世に生みだしてきました。作風も様々で、ひとつのところに納まっていません。また、筆名は「葛飾北斎」の名が一般的ですが、実際は何度も改名していて、最終の筆名なぞは「画狂老人 卍」という、なんともとがった名前でした。

借金がかさんだりし、始終お金に困った生涯だったようですが、そんななか、絵の腕があがっていくことが一番の喜びだったそうです。「北斎漫画」や「富嶽三十六景」が有名ですが、面白みも芸術性も備えた、なんとも心惹かれる浮世絵や肉筆画を描いているなあと、図版を眺めていても楽しいですしずいぶんと心が動かされました。

錦絵「富嶽三十六景」は富士山をテーマに、さまざまな場所の風景を描いたもの。そして浮世絵としての風俗画でもあります。図版ではありますが、「富嶽三十六景」をすべてきちんとみたのは初めてでした。情緒と風情と景観の素晴らしさを収めた画たちは、粋で平和な感じなのが多くて、大好きになりました。

また、鬼などを描いた肉筆画が、そのタッチに華麗さとか力強さとかセンスとか、北斎の美的感覚がほとばしっている感じがしてとても好かったです。まあ、何を描いても人から感嘆を呼ぶようなものを作りだしている感じです。

ゴッホやモネといった19世紀のヨーロッパ画家ばかりか、作曲家ドビュッシーにまで影響を与えている話は初めて知りました。もしかすると世界に通用した日本人のパイオニアなんじゃないですかね。

遺した絵から喚起される生きざまに、粋な味わいを感じます。放蕩者の孫にずっと悩まされた話など人生に悲哀もあったでしょうけれども、きっと北斎はそういうのも絵を描く力や向上するための糧にしたのではないかなあと思えるところでした。いやあ、すごい日本人がいたものですね。


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『世界はデザインでできている』

2021-01-27 19:29:47 | 読書。
読書。
『世界はデザインでできている』 秋山具義
を読んだ。

「デザインする」という言葉(概念)で考えることを、これまでしてきた経験がほとんど僕にはありません。「アイデアを考える」「アイデアを実行する」だとか違う言葉で似たようなことをしてはきました。でもそれって局所的で断片的な頭の使い方だったなあと本書から思いました。

「デザインする」と考えた方がより包括的で、広い視野でモノを考えることができる。そして「デザインする」には主観も客観も含まれている。かといって「デザインする」は抽象的な言葉かといえばそうだとは言いきれません。具体部分に論点が移ったときにも、どうやら「デザインする」は同じ具体性で機能してしまうからです。

そのような、便利な上に実用的な「デザインする」という言葉とその行為を、実際に使えるようになるために本書は役立つと思います。デザインとはどういうもので、デザインするために使う頭の筋肉をどうやってつけていけばいいか(本書読むことでつく筋肉もあるでしょう)の指針になる感じ。実地でいける基礎的トレーニング解説も後半にありました。

ちなみに、著者による「カレーの恩返し」のデザイン、これがですねえ、僕は大好きなんですよー。「の」の字のデザインの、遊んだ感じがするその発想が実に愉快です。他、著者の手がけてこられた代表的な仕事には「まるちゃん 正麺」「『ほぼ日』のおさるのキャラクター」「KIRIN アミノサプリ」などがあります。

学生向けの「デザインに関する本」ではありますが、創作に関するいろいろな分野の仕事論としても通じるような中身でした。自分の内部だけじゃなくて、外からの情報を頻繁に取り入れてアイデアをつくっていくだとか、慣れないうちはパソコンだけで作らないで実際に出力して客観的に眺めてみるだとか、シンボル派とコラージュ派だとか、特にそうでした。これはたとえば、小説を書くことにも通じているんです。小説指南書だとか、ピンポイントで学ぶ情報よりも、僕なんかは他分野の指南書から類推して学ぶほうが性に合っているタイプですし、こっちでこそ気付ける部分ってあるような気がします。

後半部の広告業界の話や広告業界に入るまでの話も、漠然と「デザインすることが好きかもしれないなあ」と感じている若い世代にとっては、とても有益になる情報だと思います。紙幅の関係で隅々まで細かく書いてはいませんが、大切なポイントを抑えることはできるでしょう。

「デザイン」ってなんだろう、と最近考えていたので、この本を起点としていろいろ知っていこうと思います。Eテレの『デザイントークス+』を見たりもしてるんです。世界が広がったり、別の視点を知ったりするのは楽しいものです。


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「モラハラ」と「マイルドヤンキー」の関係。

2021-01-25 11:05:15 | 考えの切れ端
モラルハラスメントって、家庭、学校、会社など社会のいたるところに根深く巣食っていて習慣みたいになっているものだと思うんですよ。まあ、大なり小なりはあるでしょう。で、モラハラへの防御や回避(それらは加害者に回るという戦術も含めてですが)としてマイルドヤンキーが登場したのでは。

マイルドヤンキーと言われるあり方は、ヤンキーのようにケンカばかりしたり、逸脱した髪形にしたり、授業をさぼったり、反社会的な行動をよくとったり、というようなハードなものではないですよね。ヤンキーのパッケージを「マイルド」に取り込んだあり方です。言葉遣いや態度にヤンキーのあり方を取りいれて生きている人たちが、いわばマイルドヤンキー。

そんなマイルドヤンキーの精神性をまとうことでモラハラの直撃から免れることができやすくなる。正面からのコミュニケーションではなくて、ちょっとねじけた角度からのコミュニケーションになるからです。多くの人は意識せずマイルドヤンキー化するので、そういったことにも気づいていません。

つまり、昨今増えた(というか、かなり前から増えましたが)、とくに地方では多くの人が成長過程でそうなっていく(自分の周囲も見てもそうだ)マイルドヤンキーは、モラハラを同化している社会の土壌が生んだものかもしれない。このあたりも各個意識していくことで、モラハラを異化できるものだと思います。異化できると対策を打てます。そうはいっても、異化するにしても排除的にはしないほうがいいですけども。

ぐっと考えてみるに、過去から連綿と続くモラハラ体質が代々受け継がれてきてしまったのではないかな。被害を受けた子が、大人になって加害にまわる。その繰り返しです。被害による精神的な傷がそうさせもするわけです。

また、親からの愛情がここに関係してきます。家族からモラハラばかりで愛情を感じられずに育ったならば(特に親からの愛情が精神形成に大事だといわれる)、相手をけなして相対的に自分を高めないと気が済まなくなる。なぜなら、そのままの自分だと自信を持つことができないから。「自分自身」を保てなくなります。

できるだけ、正面から人とコミュニケーションを取ることができること。そういった健康的な基盤がまずあること。それが社会的にも有用だし、豊かさを創っていくことになるのではないでしょうか。

ちょっと立ち止まってみる。振り返ってみる。そういうことが好い気付きや好い変化へのきっかけを見つけることはあるんですよね。
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『10歳でもわかる問題解決の授業』

2021-01-23 22:57:32 | 読書。
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『10歳でもわかる問題解決の授業』 苅野進
を読んだ。

「問題解決」の手法についての本。読みものとしての楽しさがありつつ、でもどのカテゴリに分類されるかと考えてみるとどうも教科書の部類に入るなあというタイプですね。『10歳でもわかる』と銘打たれているとおり、シンプルかつ明快で言葉遣いも平易。著者が主催している塾が子どもたちに教えているのがこの「問題解決」についてなので、納得のわかりやすさです。トライアンドエラーが問題解決実行の肝ですけども、本書もその繰り返しで相当きたえられたゆえにこの形にまでぜい肉が落ちた感があります。

ただ、取り扱っている中身は子ども用のイージーなものではありません。パッケージこそ簡素でやわらかいですが、内容は大人だってウンウン頭を絞ってもなかなかスマートにいかないような骨太さ。

仕事にしろ私生活にしろ、人生で何度も出くわす避けられず困り果ててしまう場面で求められるのが問題解決のスキルです。問題に直面したときに、それをうっちゃっておくのも、積極的に解決しに行くのも自由ですが、うっちゃっておく自由を選択したことによって強大な不自由を呼びこんでしまうなんてケースがあることは想像に難くありません。また、問題自体の存在に気付けないことはよくあって、「何が問題なのか」をあぶりだすにもスキルが必要だったりします。

そこで役に立つのが、わかりやすい教本的な性格のつくりである本書、と相成ります。最初に解説されるのが、3つのステップなのですが、それはこういうものです。
ステップ1=「問題を理解し、設定する」
ステップ2=「決断する」
ステップ3=「その後の不具合を分析して修正する。そして、次回に生かす」
このなかで「決断する」がダントツで恐怖や不安を感じさせる行動でしょう。決断に強烈な恐怖や不安がつきまとう傾向は、特に日本人に強いとされています。でも、ステップ1で「問題を理解し、設定する」をしっかりやった後ならば、論理的な裏打ちがあるので決断しやすくなりますし、ステップ3で「その後の不具合を分析して修正する。そして、次回に生かす」をやっていくと決めれば、なにも失敗しちゃすべてを無くすわけではないし、そればかりか失敗があってこそ向上していけるのだということがわかりますから、決断にのしかかっていた余分な重みが蒸発していくような感じがしてくると思います。

というようなところを起点に、それぞれを細かく見ていくことになります。「問題解決」のフレームワーク(数式の公式にちょっと近い感じでしょうか)の有名なものにはたとえば「SCAMPER」と呼ばれる考え方があります。ぞれぞれ頭文字をとっているのですが、「Substitute(サブスティチュート:代用する)」、「Combine(コンバイン:組み合わせる)」、「Adapt(アダプト:適応させる)」、「Modify(モディファイ:修正する)」、「Put to other uses(プットトゥアザーユースィズ:その他の使いかたをしてみる)」、「Eliminate(エリミネート:取り除く)」、「Rearrange(リアレンジ:並び替える)」&「Reverse(リバース:逆にする)」の8つのものの見方をまとめて覚えておこうというものです。なんだか十得ナイフみたいですが、これらだけでもしっかり身につけておければ、格段に考える能力の質は上がるのではないでしょうか。

本書ではこのほかにもフレームワークやスキルの種類をいくつか紹介していますが、そういった手法的なものよりも、現代人、強いていえば現代日本人の心理に絡みついているある種の認知バイアスをほどいていくために書かれているような文章が、本書の実はカギになった作りなのでは、と僕には感じられました。仮説を立てるために議論する場合などで「否定せずに深掘りを目指す」と説明する箇所だとか、前例に拠って決断したことが失敗したときに「前例自体に責任があるので、今回の決断に落ち度はない」と言い訳思考するのではなくそういった成功事例に拠って失敗してもそこは当事者意識でしっかり分析していくのが本当だとする箇所だとか、普段気にせずに流しているけれど、実は理にかなっていないんだとわかる例が、多々書かれてあるんです。こういうところは「空気」や「同調圧力」などのように存在して、多くの人の「生きにくさ」へとつながっている部分でもあるので、ちょっと気をつけたいです。

僕はつらつらっと次から次へと本をとっかえひっかえで読書するタイプなので、こういった「再読して自分の身にする」ための道具となる性質を備えた本に出くわすと、ほんとうはじっくりこういう本と関わって学んだらいいんだよなあ、と一瞬立ち止まってみたりしてしまいます。まあ、すべてをインプットできなくても、問題設定とトライアンドエラーなんだ、という意識くらいはずっと持っていられそうですし、それだけでも大きいかなと思いました。それに、本棚からいつでも取り出してめくることができれば心強くもありますし。

人生、難題だらけ。なので問題解決は大事なんですが、それに先立ってエネルギーを充填しておくのがほんとうは一番です。まずエネルギーがあってこそ、問題解決をやれるのだ、と。そうでしょう?…………などと問題解決思考的にやってこの記事の締めとします。


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『かわいい結婚』

2021-01-17 00:17:17 | 読書。
読書。
『かわいい結婚』 山内マリコ
を読んだ。

表題作をふくむ全3篇収録の短篇集。どの作品もとってもおもしろいです。どちらかといえば、女性向けなのかもしれませんが、オトコの僕が読んでもすごく楽しめました(まあ、僕はオトコとしてのマジョリティであろう「性欲原理で女性を見てばかりのタイプ」や「男尊女卑タイプ」では、どちらかといえばないからかもしれません)。

頭にも胸にも特に響いたのが『悪夢じゃなかった?』という作品。カフカの『変身』のパロディから始まります。ある朝目覚めると、主人公の男が若くグラマラスな女に変身している。
この主人公は、たとえば「女性専用車両に乗るのは本当の女じゃない、ブスとババアだけで、彼女らは女ではない」というような考え方をしている。そればかりか平然と、恋人にもそう言ってしまう。性欲でしか女性を見れていないような次元にいるのでした。そんな、女性を蔑視している主人公が、多くの男からの性欲の的になる若くグラマラスな女性に変身するのは皮肉が効いています。そして、主人公はだんだん女性が感じている不快さを、身をもって感じていくようになる。

読みながら、これだけ女性の生きる世界について「はー! そうなのか! 考えてみればそうだよね!」と本質的なところを知ったり考えたりしたことはなかったです。僕と言う男が、なんとなくわかった気でいたり、知ろうとしてさえいなかったり、こっちが介入するものでもないしと遠ざけていたり、瞬間的に放っておいたり、誤解していたりした、女性が生きているその世界が描かれている。つまり、女性はこの世界をどう感じているのか、女性からこの世界がどう見えているのかが描かれている。

まだまだ誤解があり、予期しにくい間違いをこれからもしでかす危険性を持っていることをふまえつつ言いますが、女性といくら話をしてもきっとわかることができなさそうなことを、この作品から肌感覚レベルでわかることができる、というか。

なんて優しくて、なんて大変で、そして楽しくて哀しい生のなかを生きているのだろうか。強めの抑圧に境界を定められながら、その内を手一杯走りまわるかのよう。「生きがい」と「危険」の濃淡のはっきりしたワンダーランドで精いっぱい生きているような感覚でした。例外はいろいろあるでしょうけれども。

『悪夢じゃなかった?』を読み、個別的に見ればまた違うのだろうけど、女性一般の存在っていうか、人生としての女性性に「あなたがたが好きだわ」と思いました。とはいえ、ここでも描かれている、男性のいやらしさや汚さを僕も持っていて、それは逃れられないサガのようでもあり、残念な気持ちはある。残念な気持ちというか、原罪を抱えているかのような感じがします。そういったところは今後、自分で考えていけばいいのだけど……。
ともあれ、ラストで腹の底から笑えました。可笑しいのと嬉しいのと驚きと優しさで笑えました(ネタバレになるので詳しくはいいません)。ここは、はっきり言いきっておきます、『悪夢じゃなかった?』は傑作です!!

最後の『お嬢さんたち気をつけて』も都会と田舎の対比がうまかったですし、もちろん口火を切る『かわいい結婚』もギャップにおどろく作品でおもしろかった。

アマゾンをちょろちょろしている時に、なんとなしにクリックして手にいれた作品でしたが、そういう出合いもあなどれません。苦味のあるコメディといった感じですが、そういうテイストで突き抜けてくる印象があります。満腹!っていうくらい楽しみました。


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『書きたい人のためのミステリ入門』

2021-01-11 23:15:05 | 読書。
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『書きたい人のためのミステリ入門』 新井久幸
を読んだ。

新人賞の下読みを担当してきた現編集長職の著者が、特にミステリ作家を志す人に向けて基本を解説した本。

謎をつくり伏線を張り回収し解決する、というような「ミステリを書く」という行為を順を追って解説するばかりではありません。キャラクター(人間)の書き方、世界観についてなど、エンタテイメントや純文学など小説一般に通ずる「基本」についてにもプロの編集者の視点で話をしてくれています。素人が気づいていないような重要なポイントをあまさず目に触れさせてくれる内容で、「ミステリを書く行為って、そういうところにまで気を使い心を配るものなんだ」といくつもの驚きがもたらされること必至です。プロの書き手を志す人ばかりでなく、読み専門の人にとっても、ミステリをより深く理解するきっかけになるに違いない内容でした。

本書はそんな、書き手にとっても読み手にとっても「ミステリ入門」となるダブルミーニングの作りですが、加えて、数多の名作が挙げられていることで、まず読んでおく方が良いミステリ(作品)入門にもなっている。実はトリプルミーニングな作りなのです。叙述トリックについてはこれこれしかじかの作品たち、密室モノならばこれらの作品たち……、などとネタバレはまったくさせずに参考文献になる作品を紹介してくれています。なので、素直にそれらの作品を読んでいけば、たぶんミステリ知識の下地はけっこうな程度のみっしりしたものとなりそうです。

「フーダニット(Who done it)」=「誰が犯人か」、「ハウダニット(How done it)」=「どうやったらそんなことができるのか」、「ホワイダニット(Why done it)」=「なぜそんなことをしたか(動機)」などのポイントがあって、力点をどこにおくかで作品が変わってきます。そういう整理の仕方って、億劫で足が一歩でなかったところに存在していた感が僕にはあり、ちゃんと執筆に取り組もうとするならば、こういった認識の仕方は力になるなあと思いました。たとえミステリではないエンタテイメント作品を書くとしても大いに参考になるところです。

そして、「視点」。「視点」のずれが新人賞では問題になる、と本当かどうかはさておき僕もどこかで読んでことがあります。「三人称・神の視点」は新人賞ではマイナス点だというものまでどこぞのネット記事で読みました。本書ではそんな「視点」についての解説もありました。「視点」がブレるのは難点だ、と新人賞の選考で評価されるのだそうです。要は、読み手が混乱するような「視点」ではダメです、ということ。「三人称一視点」なら「三人称一視点」でずっと構築していくのがわかりやすい作品になるということでしょう。この「視点」については、次からの小説読みのときに意識して読んでいこうと思っています。あとは、これまで読んだモノの中からブレてなさの強い作品を再読して感覚を掴みたいとも考えています。学べ学べ、なのでした。

最後のほうでは、新人賞についてのアドバイス的な章があります。僕は「わぁっ!」と目を丸くしましたが、なんと、傾向と対策はしなくていい、と。独創性をみる、と。原稿に正解は無いし、新人賞は当落はあるけれどそれは合否ではないので、正解を仮定してそこに寄せていくようなことはしないほうがいい、というのでした。「普通におもしろい作品」は要りません、とも書かれています。枠を破ったりしてもいいし、自分ならではのカラーのある作品で挑むのもいい。というか、そうしてきなさい、みたいなことを言っている。「推敲」「改稿」「第三者の目」も大切で、おろそかにしてはいけません、ともあります。そして、「なぜ小説を書くのか」を忘れないこと、が大事なのでした。このあたりは肝に銘じたいところなので、こうやってブログ記事に残すことにしたのです。あ、それと、まずはいっぱい読んでいっぱい書くのが基本だそうですよ。

僕はまた今年、短編で挑んでいくつもりなのですが、短編はシャープなネタとカタルシスで一気に勝負するほうがいいみたいです。競馬でいえばスプリント戦。僕が応募するのは50~100枚の規定なのでマイル戦くらいかもしれない。……だとか、競馬でたとえてイメージして考えるなよ、という感じですけども、そういう「切れ味」をこれまで以上に意識して書いてみたいです。うーむ、なんだか楽しみになってきました。


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『大学で大人気の先生が語る<恋愛>と<結婚>の人間学』

2021-01-08 23:08:24 | 読書。
読書。
『大学で大人気の先生が語る<恋愛>と<結婚>の人間学』 佐藤剛史
を読んだ。

九州大学で「婚学」という講義を開講した著者による、結婚についての現実をあらゆる角度で見ていく本。小学校高学年くらいからでも読めるはず。

少子超高齢社会となった現代において、結婚率向上、出産率向上は国策でもあります。年金問題や医療保険問題の緩和にしても、経済発展にしても、少子化が和らげば状況が変わってくるからです。だからといって、国のために結婚しようと思う人はなかなかいないはずです。著者も、国のために結婚なんてのはおかしいと書いています。そうはいいながら、でも結婚はほんとうに素晴らしいのだ、と結婚することを強く奨めています。

性別と年齢別の未婚率のデータや出産適齢期の生理学的なデータ、結婚への障壁となる経済的理由・女性の社会進出機会の向上・高学歴化etc...。本書は、たいていの人がふわふわしたイメージでしかみていない結婚を、現実に基づいたデータやアンケート結果などから具体的にどういうメリットやデメリットがあるのかを明らかにしていきます。そしてなぜ結婚するのが難しいのかその明確な原因(相手に求めるものとして挙げられる「誠実さ」「優しさ」などが抽象的すぎる点など)を整理して、具体的かつ端的に考えていきながら処方箋を提示したりもしています。そうすることで、就職活動のように戦略的に結婚相手を探す助けになるとしています。

また、結婚で失敗しないために、どういう心構えや準備をしておいた方がいいのか。これまた現実的な手段として、たとえば家事はできるようになっておくべきだと示されます。ほかにも、相手に「してもらおう」という気持ちで結婚しないことがあげられていますが、これは結婚後に「してくれない」に変化して婚姻関係(共同生活関係)がうまくいかなくなるのが目に見えているからなのでした。

まあ、最後まで読むと、なかなか読みごたえがあるのですが、DV(ドメスティック・バイオレンス)のなかでのモラル・ハラスメントの項では、チェック項目が13項目ほどあげられているなか、僕が家庭で親から受けてきたものが半分くらいあり、地雷を踏んだような気分になってちょっと落ち込みました……。その他にも、機能不全家族のチェック項目や、虐待のところでも、うちの家庭では当てはまるものが少なくないなあと暗い気分に。そういう結婚は解消したほうが良い、DVはほんとうに悲惨だ、と書かれていますが、そううまくかないのも現実ですからね。むずかしいもんだなと思います。

それと、出だしからの本書のつかみの部分が僕にはちょっと受け入れにくかったです。たとえば、自分の子どものことを考えることで、学校や地域のことを考え始め、環境や国、地球のことまで考えるようになる、子どもは自分の命より大事で、結婚していなかったらわがままで自己中心的なままだったと著者は述べているのだけど、そんな浅薄な人生観で生きてきたほうが問題があると思いました。

結婚は人生最大の成長の場であると豪語する著者なのですが、もっと多様な成長はありますから。さらにいえば、結婚生活であれこれ経験しているためになんでも知った気になってしまい、独身者を無条件で軽く見たりするようになる人は多いですよ。ともすれば、自分の子どものことしか考えなかったり、自分の家族内の経験がすべてだと勘違いしてより困難な境遇を想像できなかったり、結婚したほうが自己中心的(というか、自家中心的)に陥りやすいのではないか。

なんていうか、上手な言葉で上手に結婚を正当化している気がしてしまい、不満が出ました。実際、本書の読者の対象年齢が低い分、丸めこみやすいという感じで文章をこしらえている印象を受けたのです(個人的にですよ)。

以上のような感想ですからあえて推薦はしませんが、内容が大きな地雷を踏むことにならないで済む人にとっては、結婚を含めた人生設計のための大きなきっかけとなるでしょう。そこは認めつつ、記事を終わります。


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『望郷』

2021-01-07 00:08:26 | 読書。
読書。
『望郷』 湊かなえ
を読んだ。

瀬戸内海の架空の島、白綱島を舞台にした6つの作品を収録した短編集です。なかでも、「海の星」は日本推理作家協会賞受賞作。しかし推理小説といえども、これまでほとんどミステリーを読んでこなかった僕の、ミステリーに対するイメージ(いささかコテコテのイメージなのでしょうが)に合う作品はひとつもありませんでした。これがミステリーに分類されるのか、と驚くくらいの「普通の小説の顔」をした6編です。強いて言えば、最後に謎が明かされて、見えてきたものがひっくり返ってしまうところがミステリーです。

伏線など、知的な操作はもちろんなされているわけですけども、感情に訴えてくるテーマは「よくぞ現実から抽出してくれました」と義憤が心に湧きたち胸が熱くなるようなものばかり。それだけではなく、涙がこみ上げてくるものもありました。

スタートを切る作品、「みかんの花」こそ、なんとなく序盤と終盤での文体の印象に重さと軽さの大きな差を感じもしました。ですが、実は今回、湊かなえ作品とのファーストコンタクト、そしてファーストインプレッションでしたので、こっちが構えてしまい神経を使い過ぎたきらいがあります。それからの5作品は、文体も文章も巧みだしバランス感覚がある書き手だなあと、書く勉強をさせてもらう気持ちを重ねつつ、読んでいきました。そうやって読んでも、とってもおもしろかった。

白綱島は人口2万人の田舎なんです。モデルは作者の出身地である因島だそうです。閉鎖的な田舎の窮屈さが描かれているいっぽうで、反対にそれほど窮屈ではない部分も書かれている。都会人からみれば、田舎はさぞや不便で暮らしにくいところであっても、暮らしている人からすると暮らしにくい田舎という意識はあまりなく、また劣等感を持つこともない。田舎人は都会と四六時中比較することなんてしませんから、従属する意識は無いし、下位であるという意識も無い。逆に、従属や下位の意識を持つものだろうと先入観を持つ都会人のほうが実は卑しいのではないか、とあべこべに浮き彫りになってくる。

登場人物たちの背負っているもの、背景が、ずーんと響きました。殺人を犯した母を持つ負い目と恨みの意識、束縛されて島から出ていけなかった悔しさ、いじめにあった苦しみ。そういった境遇が、重すぎず、どろどろせず、でもきちんとそのまま伝わる書き方がされているんです。このあたり、僕にとっては特に作家の文章表現能力の高さを感じたところでした。

湊かなえさんといえば、僕は映画化された『告白』を映画館で見て呆然とするほどおもしろく観たんですが、あまりに強烈なインパクトだったため小説作品は敬遠していたのです。「イヤミスの女王」なんて呼び名も見かけましたし、それで余計に遠ざかってしまいました。ただ、乃木坂46の高山一実さん、彼女自身、長編のヒット小説を書いていますが、彼女が湊かなえさんを愛読していると知り、それじゃちょっと読んでみようか、と積読にしていたのです。いやあ、映画『告白』で敬遠した僕のようなタイプのひとは、どこかで彼女の本来の小説作品にふれたほうがたぶんいい、と今回、『望郷』を読んで思いました。他人に勧めたくなるような『望郷』を手に取った僕のチョイスもよかったのだと思います。きっとまた、湊さんの違う作品も味わおうと思います。


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『それどんな商品だよ!』

2021-01-04 21:06:29 | 読書。
読書。
『それどんな商品だよ!』 友利昴
を読んだ。

企業などがブランド名や商品名を独占するために取得申請するのが「商標」です。知的財産の一種にあたる。商標が登録されると、他の企業や個人などがその名称を営利目的で使用できなくなります。無理に使用すると訴えられて賠償金を支払うハメになることも。本書はそんな「商標」のなかから珍名なものを集め、「それってどんな商品なんだ!」と想像力逞しくあれこれ書きたてている本です。

名称をみるたびに「いやいや、またなんでこんな……」という可笑しい気持ちになり、続く短い小見出しが絶妙に笑いへと繋げる文言で「ぶっ!」吹いてしまうことが何度もありました。たびたび添えられる漫画家・和田ラヂヲ先生のシュールな挿絵の効果もあって、娯楽のB面街道のど真ん中を闊歩する感じで楽しく読めました。

「コードレスコード」。コードの無いコード。販売員が何かを持っているかのようにした空っぽの手をみせて、「これがコードレスコードです!!1000円です、お得ですよ!!」などとやったのでしょうか。本書によると、実際はコード類や家電ではなかったようだ、とあります。で、商品そのものは明かされず、とても気になりつつも正体が何なのか諦めるほかありませんでした。

「草刈機まさお」。却下されなかったそうです。社長の鶴の一声で商品名になったとか。こちらの会社の商標は他にもあと二つの珍名商標が収録されていました。

「頭強大学」。とうきょうだいがく、と読みます。略して、とうだい。コーヒーかココアの商標らしいのですが、「コーヒーは頭を良くする」という俗説があるため、こういうネーミングがされたのではないかとありました。すごい力のある名前ですよね。もう、恥知らずなのを遠く飛び越えている感があります。

といったような商標の数々が紹介されています。各章末の、商標の歴史を真面目に追ったコラムもおもしろかったです。

こういった珍名には、ひとときだけでも儲けようとするためのパロディ(というか、便乗もの)もあります。たとえば缶コーヒー・BOSSの名前とデザインをもじった、BOZUというTシャツを僕も見たことがあります。しかし、そういった「金儲けのためならなりふり構わず」的なものを含めても(件のBOZUは出来が良くておもしろいと思っていましたが)、人々の苦心のあとが見受けられます。ネーミングのアホさ加減にだって、陰には汗が光っています。

スマートな商標がメジャー性をもって巷に広まっていき、やがてその名称が定着して人々は特定の商標をふつうに感じるようになっていきます。でもそれらばかりではなく、いまいち流行に乗らなかった商標たちがそれ以上にたくさんあります。それら陽の目を見なかった商標たちの内部には、人間の面白さや憎めなさ、狡さやセコさの匂いがぷんぷん宿っているものだと今回じゅうぶんに知ることができました。つまり商標っていうものには濃密な人間臭さが詰まっている。そして人間の匂いがより際立って漏れ出しているのが、本書に収められたたくさんの「珍名もの」なのだと思います。そういう意味では、本書は人情の本でもあるでしょう。落語の世界に通じるところだってあるかもしれません。

200ページほどの分量ですが、遅読の僕でも2時間かからず読み終えることができました。それも楽しくです。2021年の読書での笑い始めとしての好著でした。おもしろかった。


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『エンタテイメントの作り方』

2021-01-02 19:14:51 | 読書。
読書。
『エンタテイメントの作り方』 貴志祐介
を読んだ。

ホラーやミステリーなどのジャンルで活躍するエンタテイメント作家・貴志祐介さん。彼によるエンタテイメント小説でプロを目指す人たちに向けた「書き方入門」です。

アイデア、プロット、キャラクター、文章作法、推敲、技巧、とひととおり全て網羅されています。小説作法を広く眺めながらも、要所を衝いて、端的に短くアドバイスをくれる体裁です。

そこは、何作か小説を書いたことがある方ならばピンとくる中身だと感じられるでしょう。さらりと軽い解説文の中に、抑えるべきポイントを教える箇所が一文だけ輝いている感じなのが多いのですけども、それで十分察することができるような上手い解説ですし、逆に無駄なく理解も進むと思います。僕はまさにそうで、「そうか、これはこういうことだよな」と瞬時に考えが改まるところが多々ありました。

しかし、僕はホラーもミステリーも最近は読まなくなりましたし、書くほうでもそのジャンルは書かないので、たとえば「トリックをこしらえて」との記述からは具体的なイメージは湧きません。トリック作りと似たような苦労を執筆時にしているとは思いますが、殺人事件のトリックをこしらえるなんてトリック周辺の知識もないですからまったくわからない。本書ではトリックのつくり方を詳細に教える部分は残念ながらありませんでした(というか、企業秘密レベルですよね、こういうのは)。トリック作りに難儀している人には肩すかしかもしれませんが、その他の小説作法に「なるほどな」と頷けるアドバイスが多かったので、やっぱり広義のエンタテイメント作品に共通する部分をまずわきまえたいアマチュアには強くお薦めできます。

あと、新人賞を獲りたい人は、応募する賞の過去受賞作を片っ端から読みなさい、とありました。大学受験で過去問をやるみたいなものだ、と。僕は応募する賞の過去作って読んだことがないですねえ。傾向と対策がない。短編の賞に応募するので、受賞作が書籍化されていないのが面倒くさくなる最大の理由なのですが、これじゃいけないかな……。大学受験のときも過去問やらずにきたような……。

最後に、個人的にもっとも教えられた部分の引用をして終わります。
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また、新人賞の応募作品には、しばしば「自分はこういう社会状況を告発したいんだ」という問題意識をもって書かれた作品が見られるが、そういう作品ほど、キャラクターに“演説”させてしまっている。それが正論であるほど読み手としては興醒めで、エンタテイメントとしては失格であると言わざるを得ない。理想は、物語が内包している主題が、読み進めるうちにごく自然に頭のなかで形を取るような小説だろう。そしてそれはおそらく、書き手にとっても無意識のうちに書きたいと思っていたものの正体であるはずなのだ。(p78)
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たとえば、ドストエフスキー作品には演説するようなセリフ回しが多く、そこを面白く感じてきた僕なので自分が書くときでもそうするときがありますが、エンタメではなかなかうまく効果を得られないみたいです。「理想は、物語が内包している主題が、読み進めるうちにごく自然に頭のなかで形を取るような小説だろう。」とありますが、これは数年前からできればこうしたいと思っていた形でもあり、次はきっとそこを強く意識して書くと思います。

今年はこういう小説執筆指南書関係の本をまだあと数冊読んでみるつもりです。ちょっとは経験があるから、勉強になりやすそうです。アマチュア作家の皆様、励んでまいりましょう。


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