読書。
『モネのあしあと』 原田マハ
を読んだ。
印象派の画家・モネやゴッホをテーマにしたアート小説の評価が高い原田マハさんによるモネ解説本。
印象派が生まれたその時代についての説明や、印象派の画風に影響を与えた日本の浮世絵の存在についての解説などからはじまり、画家・モネのたどった足跡と、現代の私たちがモネをたずねる観光のその行程の提案、著者によるモネを描いた小説『ジヴェルニーの食卓』をどう書いたかの概説などで構成されています。モノクロながらも図版が多数掲載されており、たとえばひとつの絵についてのトピックがでてきたときには、すぐにページを繰って参照可能なつくりになっているが親切でした。
繊細で穏やかな感覚をもつ絵を描いている画家であっても、従来の古風なアカデミーに与するような軟派な人ではなかったようです。だからこそ、印象派というそれまでからすると異端な画風の絵を描いているわけで。というか、印象派のような絵を描いているから、きっとおとなしそうだとか、たぶん自己主張が弱そうだとかと考えるのはステレオタイプなんですよね。
原田マハさんは言います、
__________
モネの作品は美しく、取り込まれるような魅力に満ちています。しかしその背景には、血のにじむような思いや、血反吐を吐くような経験が潜んでいます。
(p117)
__________
実際にどうかはわからないですが、モネは自分の内面をできるだけ制御していて、自分のなかにある苦しみによって他人に当たり散らしたりはあまりしなかった人なのではないのでしょうか。作品には悲しみや苦しみの痕跡を残さない人で、人知れず、なんとか乗り越えつつ絵を描いていたようなのです。また、パリを離れて郊外で暮らしていたモネは、よく屋外に出て自然のなかで風景をキャンバスに写し取るタイプの画家でしたから、自然のなかにいることでストレスが軽減したり脳がプラスの方向へ活性化したり、健康に良かったのかもしれません。長生きでしたし(でも、白内障を患います)。
晩年、ジヴェルニーにて家と庭を買い、そこで造園を続けながら睡蓮の絵を何枚も何枚も描き残したのは有名な話ですが、このジヴェルニーの邸宅はモネの死後、廃屋になっていたものを80年代に再建し、いまや観光地になっています(僕はテレビ番組でみたことがあります)。著者はここを訪れ、キッチンでいろいろな妄想をしつつそれをストックして帰り、モネの小説の執筆に活かしたそうです。
というところですが、モネの絵が好きだけど画家についてはよくしらない初心者という人から、モネが大好きで誰かとこの気持ちを共有しながら話をしてみたい、という方まで、幅広く対応している、本書はいわば「モネ・ファンブック」です。品が好く和気あいあいに交際できる世間を隔てたような秘密のサロンのなかで、一時、話を聞いているかのような、安穏に包まれた幸福感があります。その安穏さは、まるでモネの絵筆が作り上げた柔らかな陽光を、実際に浴びるようなのかもしれません。
いうなれば、おそらく、モネ好きの方々が世間を忘れて、ほっこりとする時間を過ごせる本、なのでした。
『モネのあしあと』 原田マハ
を読んだ。
印象派の画家・モネやゴッホをテーマにしたアート小説の評価が高い原田マハさんによるモネ解説本。
印象派が生まれたその時代についての説明や、印象派の画風に影響を与えた日本の浮世絵の存在についての解説などからはじまり、画家・モネのたどった足跡と、現代の私たちがモネをたずねる観光のその行程の提案、著者によるモネを描いた小説『ジヴェルニーの食卓』をどう書いたかの概説などで構成されています。モノクロながらも図版が多数掲載されており、たとえばひとつの絵についてのトピックがでてきたときには、すぐにページを繰って参照可能なつくりになっているが親切でした。
繊細で穏やかな感覚をもつ絵を描いている画家であっても、従来の古風なアカデミーに与するような軟派な人ではなかったようです。だからこそ、印象派というそれまでからすると異端な画風の絵を描いているわけで。というか、印象派のような絵を描いているから、きっとおとなしそうだとか、たぶん自己主張が弱そうだとかと考えるのはステレオタイプなんですよね。
原田マハさんは言います、
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モネの作品は美しく、取り込まれるような魅力に満ちています。しかしその背景には、血のにじむような思いや、血反吐を吐くような経験が潜んでいます。
(p117)
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実際にどうかはわからないですが、モネは自分の内面をできるだけ制御していて、自分のなかにある苦しみによって他人に当たり散らしたりはあまりしなかった人なのではないのでしょうか。作品には悲しみや苦しみの痕跡を残さない人で、人知れず、なんとか乗り越えつつ絵を描いていたようなのです。また、パリを離れて郊外で暮らしていたモネは、よく屋外に出て自然のなかで風景をキャンバスに写し取るタイプの画家でしたから、自然のなかにいることでストレスが軽減したり脳がプラスの方向へ活性化したり、健康に良かったのかもしれません。長生きでしたし(でも、白内障を患います)。
晩年、ジヴェルニーにて家と庭を買い、そこで造園を続けながら睡蓮の絵を何枚も何枚も描き残したのは有名な話ですが、このジヴェルニーの邸宅はモネの死後、廃屋になっていたものを80年代に再建し、いまや観光地になっています(僕はテレビ番組でみたことがあります)。著者はここを訪れ、キッチンでいろいろな妄想をしつつそれをストックして帰り、モネの小説の執筆に活かしたそうです。
というところですが、モネの絵が好きだけど画家についてはよくしらない初心者という人から、モネが大好きで誰かとこの気持ちを共有しながら話をしてみたい、という方まで、幅広く対応している、本書はいわば「モネ・ファンブック」です。品が好く和気あいあいに交際できる世間を隔てたような秘密のサロンのなかで、一時、話を聞いているかのような、安穏に包まれた幸福感があります。その安穏さは、まるでモネの絵筆が作り上げた柔らかな陽光を、実際に浴びるようなのかもしれません。
いうなれば、おそらく、モネ好きの方々が世間を忘れて、ほっこりとする時間を過ごせる本、なのでした。