読書。
『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』 ジェニファー・アッカーマン 鍛原多惠子 訳
を読んだ。
風邪。
それは単一のウイルスによる病気ではなく、
いわゆる風邪ウイルスは200種類以上ある。
そして少なくとも5つの属があって、
ピコルナウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、
パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルスがそれらです。
本書ではそれらのなかでも、
ピコルナウイルスに属するライノウイルスによる風邪症状に焦点をあてて、
風邪全般を考察する内容となっています。
なぜライノウイルスかといえば、
風邪の40%がこのウイルスによるものだからだそうです
(日本では違うかもしれないので、「アメリカではそうなのだ」
という注釈が必要かもしれません)。
まず、感染経路ですが、
くしゃみや咳などで飛び散った粒子に含まれるウイルスから感染する「飛沫感染」と、
誰かが、鼻水やよだれなどウイルスを含む体液の付いた手で触った箇所を
知らず触ってしまい、その手で顔をいじったりなどして感染する「接触感染」があります。
また、鼻をほじる癖があると感染しやすいことが述べられている。
つまり、鼻腔は感染箇所として重要な箇所で、ここに辿りつくとウイルスが増殖し始めるようです。
ほか、気道のあたりなども感染箇所としてポピュラーだそう。
「飛沫感染」するか「接触感染」するか、
そのどちらが多いのかについては、その触れたウイルスによるそうですが、
モノ媒介で広がっていくイメージの「接触感染」は想像を超えていてなかなか驚きます。
たとえば僕なりのイメージに変換すると、
電車の手すりにだけついていたのに、1時間後にはあたりに飛び散っていて、
なおかつたくさんの人にくっついていくイメージ。
また湿気を帯びた紙幣の上でインフルエンザウイルスが二週間生き延びるだとか、
カラカラ状態でも3日間生きるとか、
現金のようなものもウイルス拡大の肩を持つのがわかります。
そして、感染してでる症状の軽重ですが、
それはその人の年齢や感受性だけに限らず、
鼻腔に感染したか気道に感染したかなどの感染部位の違いで出るようです。
流行の新型コロナが軽く済むような感染部位ってありそうかな? なんて考えていたところに、
「新型コロナは全身の血管に感染する」なんていう
ショッキングなニュースがツイッターで飛び込んできて、
それはほんとうに確実なニュースなのかどうか、
あとで覆されるようなニュースなのかわからないのですが、
ウイルスにもいろいろなバリエーションがあるものだわ、と思いました。
風邪の症状、ときに「悪い風邪をひいてしまった」と言われるようなヒドイ症状は、
どのようにして生じているかについても、解説があります。
鼻水、咳、などなど、人の免疫反応だそうです。
免疫反応が強く出た時、自分自身を攻撃しているようになって、
それが辛い症状という形になる、という構造のようです。
専門的に書くと、体細胞がサイトカインと呼ばれる化学物質を放出し、
免疫反応を媒介・調節するのですが、
それらには、直接ウイルスを攻撃するサイトカインもあれば、
炎症を誘発するサイトカインもあるそうで、
これらのバランスがどうでるかが、
そのウイルスと感染した人との相性みたいなところがあるようです。
サイトカイン自体は、最後には抗体を作る流れに辿り着かせる物質、
ということなのでした。
それで、どう治療したらいいのか。
これについても、紙幅を割いて解説していますが、
結局、風邪に効くものは無いと考えた方がいいようです。
研究中の成分はありますが、
薬に関しても、たかだかちょっと症状が抑えられたところで
風邪のウイルスに効くわけではないし、
逆に症状には意味があるとも考えられもします。
そして、薬効より副作用のほうが問題がある、という結論を出しています。
1970年にノーベル賞受賞者が提唱した「ビタミンCが効く!」という言説も
その後の研究でまったくビタミンCには意味がないことが分かったとか。
また、海外ではチキンスープが効くという民間伝承があるようなんですが、
それも、水分と栄養補給にはいいのだろう、という結論。
他、さまざまな風邪対策について考察していますが、
風邪にかかってしまえばそれは、
「もう嵐が過ぎるのを大人しく待つのと同様の対処をするほかない」のが正解みたいですね。
あとですね、脱線しますけども、
「1980年代の初期、
都市部の慢性的な雑音が子どもたちの読む能力に悪影響を与えるという説を検証した学者により、
執拗な雑音によって子どもたちは言語音の習得が妨げられるだけでなく、
血圧が上がることをも見出された」
という箇所があるんです。
ストレスが風邪のひきやすさに関係があるか解説した部分です
(ストレスは風邪をひきやすくします)。
で、話は風邪からそれますが、
このカギカッコの文章は、
「同じ文章を10回も読んでる」だとか、
「文字を目で追えているけど中身が入ってこない」だとかそういう類でしょうか。
かいつまんでいえば、「煩くて読書に集中できない」ということ。
こういうことですら科学的に解明しないと
「周囲がちょっとうるさいくらいで本が読めないなんて、君の心がけがなってないからだ!」
なんて声高な精神論に力ずくに責められないとも限らない。
まあそりゃ、感受性の鋭いひとも鈍い人もそれぞれいるわけで、程度はいろいろでしょう。
自分の論理をどこまで相手にも適用しようとするか。
「いちおう、科学的裏付けはこうなんだよね」的な言葉をやんわり発して、
それは攻撃の剣ではなく防御の盾だとすると余計な波風はあまり立たないのかな…。
……それはそれとして。
風邪はウイルスであって細菌ではないので抗生物質は効きません。
僕はつい最近まで、つまり新型コロナが流行る前くらいまで、
抗生物質は効くのだと思っていた。
だって、風邪で抗生物質をもらって飲んだことがありますから。
アメリカでも抗生物質が効くと思っている人は多いみたいです。
効くのはアルコールだよ! なんて声もありますが、
本書によると、たしかに作用はあるけれど、滅菌するまではいかないようです。
ただ、アルコール消毒液で手を拭ったおかげで、
そのあとにウイルスがつきにくくなる作用は望めると。
手洗いでは、石けんでよく洗い、20秒以上流水でながすとウイルスは流れていきます。
ハンドソープの詰め替えが僕の町でも欠品していますけれども、
石けんでじゅうぶん、それも薬用石けんなんかでなくていいみたいです。
薬用石けんは菌に効くわけで、ウイルスには効かない。
さっきの抗生物質の話といっしょです。
だから、界面活性でウイルスをひきはがし、
泡でくるんで水で流すふつうの石けんでよいのです。
というわけでしたが、今回、積読にこの本があったので、
新型コロナ禍関連だなあ、と勉強するつもりで読んでみました。
本書は力作の部類に入るでしょう。
アメリカのテレビ局製作のドキュメンタリーを見ているかのように、
それらに特徴的な構成ですが、
いろいろな専門家の言葉をキーポイントにして、
話が切り換って進んでいきます。
ちょっとこってりしているところもありましたが、
絶妙な比喩でもって楽しませてくれる文章もちらほらあります。
また、巻末には、風邪療法のあれこれについて、
トピック別に短評をつけてまとめてくれていますし、
チキンスープやブイヨンなどのありがたいレシピまでついています。
これだけ真摯にリサーチして、エンタメの精神までこもっている本でした。
アメリカのライターの力量の、その厚みを感じます。
海外のものでこうやって日本にまで紹介されるものは、
ほぼ面白いですもんね。
おすすめです。
『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』 ジェニファー・アッカーマン 鍛原多惠子 訳
を読んだ。
風邪。
それは単一のウイルスによる病気ではなく、
いわゆる風邪ウイルスは200種類以上ある。
そして少なくとも5つの属があって、
ピコルナウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、
パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルスがそれらです。
本書ではそれらのなかでも、
ピコルナウイルスに属するライノウイルスによる風邪症状に焦点をあてて、
風邪全般を考察する内容となっています。
なぜライノウイルスかといえば、
風邪の40%がこのウイルスによるものだからだそうです
(日本では違うかもしれないので、「アメリカではそうなのだ」
という注釈が必要かもしれません)。
まず、感染経路ですが、
くしゃみや咳などで飛び散った粒子に含まれるウイルスから感染する「飛沫感染」と、
誰かが、鼻水やよだれなどウイルスを含む体液の付いた手で触った箇所を
知らず触ってしまい、その手で顔をいじったりなどして感染する「接触感染」があります。
また、鼻をほじる癖があると感染しやすいことが述べられている。
つまり、鼻腔は感染箇所として重要な箇所で、ここに辿りつくとウイルスが増殖し始めるようです。
ほか、気道のあたりなども感染箇所としてポピュラーだそう。
「飛沫感染」するか「接触感染」するか、
そのどちらが多いのかについては、その触れたウイルスによるそうですが、
モノ媒介で広がっていくイメージの「接触感染」は想像を超えていてなかなか驚きます。
たとえば僕なりのイメージに変換すると、
電車の手すりにだけついていたのに、1時間後にはあたりに飛び散っていて、
なおかつたくさんの人にくっついていくイメージ。
また湿気を帯びた紙幣の上でインフルエンザウイルスが二週間生き延びるだとか、
カラカラ状態でも3日間生きるとか、
現金のようなものもウイルス拡大の肩を持つのがわかります。
そして、感染してでる症状の軽重ですが、
それはその人の年齢や感受性だけに限らず、
鼻腔に感染したか気道に感染したかなどの感染部位の違いで出るようです。
流行の新型コロナが軽く済むような感染部位ってありそうかな? なんて考えていたところに、
「新型コロナは全身の血管に感染する」なんていう
ショッキングなニュースがツイッターで飛び込んできて、
それはほんとうに確実なニュースなのかどうか、
あとで覆されるようなニュースなのかわからないのですが、
ウイルスにもいろいろなバリエーションがあるものだわ、と思いました。
風邪の症状、ときに「悪い風邪をひいてしまった」と言われるようなヒドイ症状は、
どのようにして生じているかについても、解説があります。
鼻水、咳、などなど、人の免疫反応だそうです。
免疫反応が強く出た時、自分自身を攻撃しているようになって、
それが辛い症状という形になる、という構造のようです。
専門的に書くと、体細胞がサイトカインと呼ばれる化学物質を放出し、
免疫反応を媒介・調節するのですが、
それらには、直接ウイルスを攻撃するサイトカインもあれば、
炎症を誘発するサイトカインもあるそうで、
これらのバランスがどうでるかが、
そのウイルスと感染した人との相性みたいなところがあるようです。
サイトカイン自体は、最後には抗体を作る流れに辿り着かせる物質、
ということなのでした。
それで、どう治療したらいいのか。
これについても、紙幅を割いて解説していますが、
結局、風邪に効くものは無いと考えた方がいいようです。
研究中の成分はありますが、
薬に関しても、たかだかちょっと症状が抑えられたところで
風邪のウイルスに効くわけではないし、
逆に症状には意味があるとも考えられもします。
そして、薬効より副作用のほうが問題がある、という結論を出しています。
1970年にノーベル賞受賞者が提唱した「ビタミンCが効く!」という言説も
その後の研究でまったくビタミンCには意味がないことが分かったとか。
また、海外ではチキンスープが効くという民間伝承があるようなんですが、
それも、水分と栄養補給にはいいのだろう、という結論。
他、さまざまな風邪対策について考察していますが、
風邪にかかってしまえばそれは、
「もう嵐が過ぎるのを大人しく待つのと同様の対処をするほかない」のが正解みたいですね。
あとですね、脱線しますけども、
「1980年代の初期、
都市部の慢性的な雑音が子どもたちの読む能力に悪影響を与えるという説を検証した学者により、
執拗な雑音によって子どもたちは言語音の習得が妨げられるだけでなく、
血圧が上がることをも見出された」
という箇所があるんです。
ストレスが風邪のひきやすさに関係があるか解説した部分です
(ストレスは風邪をひきやすくします)。
で、話は風邪からそれますが、
このカギカッコの文章は、
「同じ文章を10回も読んでる」だとか、
「文字を目で追えているけど中身が入ってこない」だとかそういう類でしょうか。
かいつまんでいえば、「煩くて読書に集中できない」ということ。
こういうことですら科学的に解明しないと
「周囲がちょっとうるさいくらいで本が読めないなんて、君の心がけがなってないからだ!」
なんて声高な精神論に力ずくに責められないとも限らない。
まあそりゃ、感受性の鋭いひとも鈍い人もそれぞれいるわけで、程度はいろいろでしょう。
自分の論理をどこまで相手にも適用しようとするか。
「いちおう、科学的裏付けはこうなんだよね」的な言葉をやんわり発して、
それは攻撃の剣ではなく防御の盾だとすると余計な波風はあまり立たないのかな…。
……それはそれとして。
風邪はウイルスであって細菌ではないので抗生物質は効きません。
僕はつい最近まで、つまり新型コロナが流行る前くらいまで、
抗生物質は効くのだと思っていた。
だって、風邪で抗生物質をもらって飲んだことがありますから。
アメリカでも抗生物質が効くと思っている人は多いみたいです。
効くのはアルコールだよ! なんて声もありますが、
本書によると、たしかに作用はあるけれど、滅菌するまではいかないようです。
ただ、アルコール消毒液で手を拭ったおかげで、
そのあとにウイルスがつきにくくなる作用は望めると。
手洗いでは、石けんでよく洗い、20秒以上流水でながすとウイルスは流れていきます。
ハンドソープの詰め替えが僕の町でも欠品していますけれども、
石けんでじゅうぶん、それも薬用石けんなんかでなくていいみたいです。
薬用石けんは菌に効くわけで、ウイルスには効かない。
さっきの抗生物質の話といっしょです。
だから、界面活性でウイルスをひきはがし、
泡でくるんで水で流すふつうの石けんでよいのです。
というわけでしたが、今回、積読にこの本があったので、
新型コロナ禍関連だなあ、と勉強するつもりで読んでみました。
本書は力作の部類に入るでしょう。
アメリカのテレビ局製作のドキュメンタリーを見ているかのように、
それらに特徴的な構成ですが、
いろいろな専門家の言葉をキーポイントにして、
話が切り換って進んでいきます。
ちょっとこってりしているところもありましたが、
絶妙な比喩でもって楽しませてくれる文章もちらほらあります。
また、巻末には、風邪療法のあれこれについて、
トピック別に短評をつけてまとめてくれていますし、
チキンスープやブイヨンなどのありがたいレシピまでついています。
これだけ真摯にリサーチして、エンタメの精神までこもっている本でした。
アメリカのライターの力量の、その厚みを感じます。
海外のものでこうやって日本にまで紹介されるものは、
ほぼ面白いですもんね。
おすすめです。