読書。
『納得の老後 日欧在宅ケア探訪』 村上紀美子
を読んだ。
僕の母が精神の病気で要介護4です。在宅介護をしています。訪問介護やヘルパーなどを入れるともっとうまくいくのでしょう。でも、父も母も他者を入れるのを嫌がり、訪問リハビリと歯科の訪問診療以外は家族だけで介護をしています。もっと介護保険が適用される制度を活用すれば、僕も外に稼ぎに出られたのでしょうけれども、もうそういうのはほとんど諦めています。自宅でできる仕事をつきつめて、技術を磨いていくしかないなあと。
本書は、ドイツ、オランダ、デンマーク、英国、そして日本の在宅ケア等の現場や事情をルポとともに解説する本。どちらかというと成功事例に焦点を当てて紹介しています。
ヨーロッパでは、子供が高齢の親の面倒を見ることはほぼないみたいです。親との同居もあまりない。そのような背景で、介護・ケアについての分野が進展して、今があります。まず、家庭医と呼ばれる総合診療医がいて、たとえばドイツでは90%以上の人が家庭医を持っている。家庭医の数も全医者の半数近くいます。家庭医は総合診療ですから、内科も小児科も耳鼻科も整形外科もすべてをまかないますが、難しい症例の場合は専門医を紹介するようになっている。そうはいっても、家庭医になるための勉強は、範囲が広くとても大変なのだそう。僕の町の市立診療所にも総合診療科がありますが、担当医はかなり勉強や経験を積んだような、社会的にもおそらく学会的にも地位の高い医師です。ひとつの科で深い見識を持つことも苦労を伴うでしょうが、総合診療の広い知見を持つこともそれ以上に大変であることをうかがい知る例だと思います。日本で家庭医に近いのは、かかりつけ医です。
ヨーロッパの介護ケアのあり方を知るのに、その特徴をうまくつかむことができる事例が、オランダの「ビュートゾルフ」です。看護師や介護士や療法士たちが少人数でチームを組んで、自律的に考え判断し、柔軟に被介護者のトータルケアを行う仕組みがそれです。この仕組みによって回避できるのは、ひとりの被介護者に毎日違う看護師たちが通ってばらばらに看護や介護を行うことによる細切れケアです。細切れケアでは、ある種の雑になってしまう部分がでてきます。時間もコストもかかります。そういったところを埋めることができるのが「ビュートゾルフ」なのでした。被介護者にとっても、親身になって柔らかくケアしてもらえるし、欧州で重視する被介護者の自立もここでも重視されるので、利用者つまり被介護者が元気になっていく例が散見されるようです。そればかりか、看護師たちがやりがいを感じて、彼らもまた充実した仕事生活を送ることができているようです。
福祉がすべて税金でまかなわれる北欧のデンマークでは、介護の専門家教育のなかで、人間理解を「精神、身体、社会、文化」の四つの側面から学ぶそうです。暮らしは社会とのかかわりにあり、文化の中にあることを再認識させられると著者は述べていました。ケアと聞くと、食事やトイレや清拭やシャワーなどの身体ケアや家事援助ばかりがあたまに浮かびますけれども、「精神、身体、社会、文化」で考えると、より人間性を見失わないで行えるケアへの心構えができそうです。ケアじゃなくても、人間関係のありかたってなんだろう? と考えるときの指針になるのではないでしょうか。
英国の章ではあるケア従事者が、ケアが成功するには次の四つの要因が必要だと説明しています。それは、
①社会福祉と保健の協働(従来は別々だった社会福祉と保健分野の人々がいっしょに協力して動く)
②関係者すべてが関わる(ケアホームにかかわる「すべての人と人とのかかわり」の中でケア向上は実現する)
③目標は全員のQOLの向上(入居者のケアの向上に焦点を当てるだけでは、うまくかない。ケアホームに出入りする「全員のQOLの向上」を目標に置き、「人と人をつなぐケア」に焦点を当てる)
④成功した事例に着目(問題点に着目して指摘や批判をするよりも、「ケアホームの入居者は、何を望んでいるか」、「どうしたらうまくいったか」と成功した事例を集めて共有する)
このなかでも、③の「目標は全員のQOLの向上」には深く肯きました。被介護者の幸せのためには、介護する人たちのQOLが低くなってはうまくいきません。被介護者の周囲の人たちの苦しみが取り除かれてこそ、介護はうまくいくと、僕も常々考えていましたから、こういう考え方を本書から受け取れてちょっとした勇気が持てたような気持ちです。
と、今回はここまでですが、実をいうと、文章との相性が悪かったのか、内容が頭によく入ってこない読書になったんです。内容自体は知っておきたいことばかりだったので、個人的に苦労しながらなんとか読みました。文章自体は流れるような文章なのですが、言葉の配置の仕方が、僕の頭の論理性のタイプとはちょっとばかり相いれなかった。でも、ゆっくり読むと読めます。僕みたいな方もいらっしゃるでしょうから、もしも読みにくいなと感じたら、ゆっくりとどうぞ。