Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『黄色いマンション 黒い猫』

2018-07-31 14:46:01 | 読書。
読書。
『黄色いマンション 黒い猫』 小泉今日子
を読んだ。

アイドルとして一世を風靡し、
その後もずっと活躍されている小泉今日子さんのエッセイ。
こういうエッセイは、
人生が濃くて、そしてその濃さになんとか負けなかったから書けるんだと思いますよ。
面白くてしょうがないくらいです。
人生の苦味、雑味、辛味、甘味。
いろいろな人生の味わいのどれかに目をつむることなく、
正面から受けきって生きてきたからこその言葉たちがここにはありました。

チャラチャラした世界として見える芸能界の中心にいて、
自分を見失わずにいることって、難しいことだと思うのですが、
自分の言葉を失くさず、
思いや考えや過ぎ去っていく出来事を言葉として表出させることを諦めず、怠けず、
自らぐいぐい向かっていく人だからこそ書ける文章だと思いました。

著者の人生にとって重要な土地、それが原宿。
本書でもたびたび、原宿で遊んでいたり住んでいたりした頃の思い出が語られていました。
まるで原宿に憧れたまま愛するというか、そんな眼差しを感じる。

僕は子どものころ、テレビでキョンキョンが歌っているのを見ながら、
いい気持ちになっておどけながら一緒に歌ったりしていました。
親戚が集まる祖母の家で、
おじさんといっしょに「なんてたってアイドル」を歌ったりもして。
元気でキュートで弾けてましたからね、好きになる。

著者はNHK朝ドラの『あまちゃん』でヒロインの母親・春子役をやっていました。
『あまちゃん』はすごくおもしろかったですよねえ。
朝ドラって、はじめてちゃんとみたのがこれでした。
春子が娘のアキ(能年玲奈)を守るためカッとなって啖呵を切ったりするところが、
まるで若い頃にスケバンでもやっていたかのような堂に入った態だったんですけども、
若い頃はアイドルでしたしね、どこでそんなのをと思いましたが、
彼女が中学生の頃の時代が時代だし、
このエッセイを読むと、
なんとなくその頃の周囲の雰囲気が
彼女の体にも沁みているんだろうなあと慮られるのでした。

と、ちょっと逸れましたが、
とても好い読書時間を提供してくれるエッセイでしたよ。
発刊されてから二年くらいたってますが、
実は初版の段階で購入していて、ずっと積読だったんです。
そういう本、部屋には山のようです。宝の山。


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『脳内麻薬』

2018-07-23 21:53:22 | 読書。
読書。
『脳内麻薬』 中野信子
を読んだ。

快感を生む脳内物質ドーパミン。
その作用や放出される過程や、
過不足の時にどうなるか、などなど、
まずドーパミンを中心に、
それから、そのほかのセロトニンやオピオイドという脳内物質についても
説明されていきます。

次章では、
依存症から入って、
アルコールやニコチンの中毒に触れることを契機として、
コカインやヘロインといった麻薬についての説明に移っていきます。
これは『脳内麻薬』というタイトルを見て買って読んでみた僕にとっては
予想外のトピックの広がりでもあり、
昔読んだ中島らもさんの『アマニタ・パンセリナ』を彷彿とさせるというか、
よりマジメに端的に、そのものを説明するものになっていました。
「脳内」だけでは済まずに、麻薬そのものについても紙幅を割いていたのでした。

そして、セックスや恋愛、ギャンブルやゲームなどの依存症についても語られ、
最後に、社会的報酬、つまり、社会への利他的行動をとって得られる脳の報酬系の興奮、
つまり、その種の満足感や快楽の生成過程や、
何故、利他的行動で報酬系が興奮するのかについて大きく見ていっています。

アヘン戦争にいたった過程など、
いろいろなエピソードを引用しつつ
主軸のトピックスを解説していくのですが、
知識量がすごいうえに簡便に整理されていて、
かつ、新書形式の本ということで、偏った形で深くつっこまずに、
おしなべて大勢を見た上でその論を進めていくような、
マジョリティーに立脚した、でも、
いろいろと行われた実験の結果や考えに矛盾がないかだとか、
そもそものところに間違いや勘違いがないかということについて、
そういうところには細心の注意がなされている
論述になっていました。

著者はIQが高いことで有名ですが、
記憶力・記憶量の良さ・強さに、
情報整理力・情報処理力の優秀さが僕なんかにも感じられる構成と内容の本でした。
もちろん、面白いです。
欲を言うならば、新書という形態にガチッと優等生的にハマりすぎている感はありましたが、
でもそういった、ある意味ではスマートな形態で読める本なので、
時間の無くても読書はしたい人にはピタッとはまるのかなあと思いました。


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『きいろいゾウ』

2018-07-19 20:27:20 | 読書。
読書。
『きいろいゾウ』 西加奈子
を読んだ。

夫の名前がムコで、妻の名前がツマという夫婦。
都会から田舎に移り住み、
その季節の移ろいの中での暮らしぶりを綴っていく小説。
やがて岐路に立つ、ムコとツマ。

著者・西加奈子さんの考える
「これがたぶん、いやきっと正しい生活」っていうのは、
僕にも「賛成!」と諸手をあげられるようなイメージです。
彼女の真正面性って本当に真正面だと僕は思う。
人それぞれに共通する「真正面への向き方」がここにあると思った。
複雑さを捨てて因数分解して出た「真正面へ向く姿勢」がある。
そういう精神が根底にあって描かれた世界のように僕は感じました。

ツマの文体、ムコの文体、
そしてクライマックスで盛り上がったときのそれぞれの文体とその密度。
書き分けと濃淡と。
総じて繊細ながらもあっけらかんとして、
そして著者の、
「エンタメとして、書き手の真剣さを感じさせないために用いた技巧や気遣いの中での、
読者の前から消し去って見せないでいる真剣さ」を感じました。

また、ちょっとネタバレになるかもしれないですが、
ツマさんの心が危うい感じになっていって、
でもクライマックスで起こる奇跡にシームレスに通ずるようにそれが繋がっていて、
あたかもそれは「もろ刃の刃」の負の面から見せられて、
そこから表にひる返して正の部分で終わるような感じがあって、
それでいてその紙一重さが出てるのがなお好かったです。

なかなかの長さの小説ですが、
読んでいると凝りがほぐれるようなところがありました。
好かったです。


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『若月佑美1st写真集 パレット』

2018-07-11 20:19:37 | 読書。
読書。
『若月佑美1st写真集 パレット』 若月佑美 撮影:桑島智輝
を眺めた。

乃木坂46の中でも、
女性ですけども「男気」を持っているというか、
なにかに向かっていく強い気持ちとまっすぐな芯を持つメンバーというか、
そんなふうに見える若月祐美さんの1st写真集。
スペインにて撮影です。
本書のおまけに箸袋風しおりがついていますが、
乃木坂工事中を毎週観てきた人であれば、
「そこ、きたか!」と叫びたくなる、
これは若月さんの持ちネタ「はしくん」由来のアイテムでした。

その「はしくん」のネタを、
番組内で宴会芸の達人のおじさんに習う企画がありましたけれども、
観ている方はけっこう、「これ大丈夫なの?」と
失笑してしまうコーナーだったんですが、
若月さんは目を輝かせて、うんうん!とその講義を真剣に受けていて、
僕はその時から彼女に好感を持ったのでした。
馬鹿にするとか、奇をてらうとか、
そういうんじゃなくてストレートに、
「マジメ」といじられる若月佑美ちゃんのまっすぐさが好きになったのです。

それでもって、本写真集ですが、
しょっぱなからランジェリーという構成で、がつんときましたね。
ランジェリー姿のショットも、本書では何種類かあり、
いつもと違う雰囲気の彼女を感じられるものとなっています。

こうして若月さんをじろじろ見るというか、
ずっと見つめるように彼女を知りたい気持ちを抱えながら写真集を眺めていると、
彼女から感じられるしなやかな強さのほかに、
まだ一人きりでは転んだり迷子になったりもしそうな未熟さも感じられたのでした。

彼女は度胸がいいというか、
目が据わったような感じでカメラや人前で構えているところがありますけれども、
それも完璧じゃないんですよね、少なくともこの写真集の段階ではまだそうです。
そりゃあ、自分を大人として見せて、
スキのない人として仕事をする、生活をすることは、
あまり無理なく若月さんはできるような人だろうし、
そうしているうちに、将来的に本当にスキのない人になるものですけれども、
やっぱりこの段階では、そのスキのなさに大きな死角があることが感じられます。
その背景にあるのは、さみしさだったり、孤独だったりするのかもしれなくて、
しっかりした自分と頼りない自分とのつばぜりあいが治まっていない感じが、
僕なんかには感じられもしたんですよね。

だから、「すべてわかっている」「段取り通り」「計算の通り」
などというスタンスで写真に撮られるとあまりおもしろくないなかで、
チョコアイス棒を片手に、
やわらかくてピュアな横顔が映っている
序盤の一枚はかなり好きです。
他にもよい表情のページはありますが、
この棒アイスの写真は若月さんの心のやわらかいところが出ていて、
特に推したい写真でした。

二科展で何年も連続で入賞でしたっけ、
している彼女の写真集にふさわしいようなタイトルですよね、
この『パレット』って。
姐御肌で芸術家肌みたいなところがあって、
でも、女の子らしさがあって、すてきな人です。

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『跳びはねる思考』

2018-07-07 00:39:17 | 読書。
読書。
『跳びはねる思考』 東田直樹
を読んだ。

著者は自閉症者です。
テレビで著者の特集を見たことがあるのですけれども、
発語のみによる会話が難しく、
文字盤を使う「文字盤ポインティング」という方法で会話していました。
そのような、他者とコミュニケーションをとることが難しい自閉症者が、
自らを自らの言葉で表現し伝えるのが本書です。

自閉症の人たちは一般的に社会に適応できないと言われていますし、
障害者でもあるわけで、いったいどういうことを考え、
どういうことを感じて生活しているのかがほとんどわからなかったりします。
僕もこれまで身近に自閉症の人がいたことがなく、
まるでどういう障害の人たちかまったくわかりませんでした。
ともすれば、知的障害をもつ人たちのように、
こちらの言葉がなかなか理解できず、
ごく初歩的な言語化しかできない人たちなのかなともみていました。
でも本書を読むと、そんなふうなイメージで見ていた自分が恥ずかしくなります。
しっかりした、そして詩的で、柔らかな哲学的な言葉で満ちているからです。

そこでは、著者の感覚が、
普通の人が社会性を獲得するために
無意識的に捨てなければならないものがあることをわからせるものがあります。

たとえば、
著者には、周囲の風景、
そのなかにいる人間も木も草も石もなにもかもが等しい価値を持ち、
著者はそのなかの興味をひかれたものと、
言語にたよらずに気持ちを通わせ始めるそうです。
だから、急に言葉をかけられても、人間からの言葉だからといって
急激に注意をもっていかれるものではなかったりするようです。
それは、考えようによってはすごく自然なスタンスのようにも見えます。

また、そういった自閉症者独特の世界観をあらわしているところもあれば、
「絆」や「よりどころ」などなどへの考察を述べているところもあります。
そうして、こうやって一冊の本を仕上げたことで、
社会性が無いとされている自閉症者が、社会へ見事に参加していることになりました。
これは、とても素晴らしいことだと思いますし、
著者個人だけへの理解に限らず、
他の自閉症者の人たちへの理解を助ける意味でもあって、
ゆえに他の自閉症者が生きやすくなり、
他の自閉症者からのなんらかの発信が、
いくらか容易になるかもしれない可能性を強くしました。

まあ、以上のような感じだときばってとらえちゃいますが、
なんのことはなく、肩の力を抜いて著者の話に驚いたりを楽しんだり切なくなったり、
そしてともに考える読書体験になる本です。
人間理解の範囲が広まることと思います。


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