今日はフランスで最も愛されているという “コンテチーズ” を取り上げたいと思います。
コンテチーズに関しては何度も紹介してきましたが、昨年11月にコンテチーズ生産者協会が主催したプレス対象の紹介イベントがあり、そこで初めて知ったことことや、料理への応用などをリポートしたいと思います。
プレゼンテーターは、コンテチーズ生産者協会から来日した広報担当2名。
中央)オーレリア・シミエさん(広報責任者) 右)アナイス・ネヴェールさん(広報)
特別ゲストは、2015年6月にフランスのトゥールで開催された
「世界最優秀フロマジェコンクール2015」の優勝者 ファビアン・デグレ氏
ファビアン・デグレ氏は、ナチュラルチーズ専門店「フェルミエ」愛宕店の店長を務めています。
チーズの世界チャンピオンがフランス人というのは納得ですが、日本のチーズ店勤務とはビックリ!
もう8年勤めているそうで、日本語はペラペラです。
ファビアンはフランスのル・マン出身。実家はチーズ屋で祖父母が経営しており、子供の頃はよく手伝いをしたけれど、冬はマイナス5℃にもあり、大変だったそうです。
そのファビアン氏がフランス産チーズ「コンテ」の魅力を語ってくれました。
彼が持っているのは、原寸大のコンテチーズの模型なので、とても軽いですが、
本物のチーズは1玉、直径約60cm、⾼さ10cm、重さ約40kgもあります。
コンテチーズのふるさとは、スイスと隣接するフランスのフランシュ・コンテ地方です。
中程度の山々が連なる山岳地帯(ジュラ山脈一帯)で、夏は緑の草で覆われますが、冬は雪が降り、寒さが厳しい土地で、緑の牧草はありません。
牛たちは、夏にはたくさんのミルクを出しますが、冬になるとミルクの量が減ります。
コンテチーズ1玉を作るのに、平均450リットルもの牛乳を必要とします。
冷蔵庫がなかった時代、たくさんのミルクが得られても、ミルクは日持ちしませんから、夏の豊富なミルクを保存して冬の食料とするために、大きな熟成チーズが必然的に生まれました。
コンテはこの地で1000年も前から作られてきました。
“コンテ”の精神は“連帯”だそうで、皆がミルクを持ち寄って作ったことに由来しています。
コンテの熟成は最低4カ月。熟成期間はさまざまです。
日本では熟成期間が長いものを好む消費者が多いですが、長いからいい、おいしい、というものではありません。
「コンテは熟成期間によって味が違ってきますが、夏のチーズか、冬のチーズかによっても違うし、つくられる場所によっても味が違います。それがコンテの素晴らしさです。コンテは自然がつくるものですからね」と、ファビアン氏。
そこで、アナイスさんのガイドで、コンテ10カ月と16カ月を食べ比べてみました。
左)コンテ10カ月(2014年12月産) 右)コンテ16カ月(2014年7月産)
色を見ると、10カ月の方が白く、16カ月の方が黄色みが強くなっています。
色の違いは熟成期間の長さではなく、作られた季節によります。
夏のチーズは、放牧された牛が草花を食べたミルクを使うので、草花からの天然のカロチン色素で黄金色が濃くなります。また、草や花のアロマがあり、なめらかさが増し、脂肪分は少ないものの、カゼイン(タンパク質のひとつ)が多くなります。
冬は干し草を食べた牛のミルクを使うので、色は白っぽいアイボリーです。脂肪分が多めで、チーズは弾力性が低くなり、時によって、長期保存できないこともあります。
ミルクは毎日搾られ(1日2回)、コンテチーズは1年中つくられますが、夏の方がミルク量がやや多くなります。
工房によっては、夏はコンテをつくり、冬はコンテをつくらずに“モンドール”に切り替えるところもあるそうです。
※モンドールは季節限定のウオッシュチーズです → 以前の記事を参照ください
皮の色がピンクなのが若いコンテ(左)、茶色になると熟成が進んでいます(右)
また、生地にアミノ酸の結晶(チロシン)が見つかると、熟成が進んだものということがわかります。
10カ月と16カ月を食べ比べてみると、
10カ月(冬のチーズ)は水分量が多く、ヨーグルト、ミルク、バターの香りがあります。
クリーミーで、バターっぽく、塩気は少なく、甘みを感じます。
16カ月(夏のチーズ)は水分が少なく、ノワゼットの香りがあり、アミノ酸の結晶の粒々を感じ、うまみが凝縮されています。
日本で購入する時は、すでに真空パッケージされていいるものが多いので、夏のチーズか冬のチーズかわかりにくいですが、パックの日付と「○カ月」という記載情報から、何月に生産されたチーズなのかを知ることができます。
今までは、単に熟成期間だけを見て買っていた方も多いと思いますが、上で紹介したことを覚えておくと、チーズ選びの時にお役立ちです。
アナイス・ネヴェールさん(コンテチーズ生産者協会 広報担当)
コンテはフランスのAOPチーズの中でNO.1の生産量を誇るチーズです。
年間生産量は、約6万トン、150万玉。
2014年の生産量は64,000トン、160万玉。対日輸出量は87.5トン(過去最大)でした。
日本でもファンが多いチーズですよね。
「コンテはフランスの食文化にとって大切なもの。食べ飽きない味わいなので、朝から晩まで、そのまま食べても料理に使ってもよく、いつ、どんな時でも楽しめるチーズ。私もコンテを食べない日はない」と、オーレリアさんは言います。
オーレリア・シミエさん (コンテチーズ生産者協会 広報責任者)
コンテの生産地域には2700の酪農家、150のチーズ工房、15の熟成企業があり、この3者がコンテチーズ生産者協会の構成員です。
まず、酪農家が搾ったミルクがチーズ工房(フリュイティエール)に届けられます。
ミルクは、工房から25km圏内のものであることが決められています。
これは、テロワールの同一性を保つためです。
なお、牛1頭あたりにつき1haの牧草地を用意しなくてはならないそうです。
チーズ工房では、コンテチーズのAOP認証規定に従ってチーズが作られます。
出来上がったチーズは熟成企業に預けられ、熟成後、市場に販売されます。
つまり、熟成企業は販売メーカーでもあるわけです。
面白いと思ったのが、これら3者におけるお金の動きです。
一般的に考えれば、モノが次の相手に移った段階で金銭の受け渡しが発生しそうですが、熟成企業(販売メーカー)が市場に販売したところで初めて、酪農家とチーズ工房に金銭が分配されるシステムになっているそうです。
つまり、チーズ工房が酪農家からミルクを不当に安く買い叩いたり、販売メーカーへの受け渡し価格の吊り上げ要求をしたり、といったことができない、ということです。
理にかなった、公平なシステムですね。
150の工房のつくるコンテチーズはどれひとつ同じものはなく、さらに、熟成によってそれぞれの個性を持ったチーズになります。
コンテの世界は奥が深い!
【後編】では、ファビアン・デグレ氏が世界最優秀フロマジェコンクールで提供したものの一部と、コンテの産地で修行したフレンチレストランのシェフが作るコンテづくしの料理を紹介したいと思いますので、お楽しみに!
コンテチーズに関しては何度も紹介してきましたが、昨年11月にコンテチーズ生産者協会が主催したプレス対象の紹介イベントがあり、そこで初めて知ったことことや、料理への応用などをリポートしたいと思います。
プレゼンテーターは、コンテチーズ生産者協会から来日した広報担当2名。
中央)オーレリア・シミエさん(広報責任者) 右)アナイス・ネヴェールさん(広報)
特別ゲストは、2015年6月にフランスのトゥールで開催された
「世界最優秀フロマジェコンクール2015」の優勝者 ファビアン・デグレ氏
ファビアン・デグレ氏は、ナチュラルチーズ専門店「フェルミエ」愛宕店の店長を務めています。
チーズの世界チャンピオンがフランス人というのは納得ですが、日本のチーズ店勤務とはビックリ!
もう8年勤めているそうで、日本語はペラペラです。
ファビアンはフランスのル・マン出身。実家はチーズ屋で祖父母が経営しており、子供の頃はよく手伝いをしたけれど、冬はマイナス5℃にもあり、大変だったそうです。
そのファビアン氏がフランス産チーズ「コンテ」の魅力を語ってくれました。
彼が持っているのは、原寸大のコンテチーズの模型なので、とても軽いですが、
本物のチーズは1玉、直径約60cm、⾼さ10cm、重さ約40kgもあります。
コンテチーズのふるさとは、スイスと隣接するフランスのフランシュ・コンテ地方です。
中程度の山々が連なる山岳地帯(ジュラ山脈一帯)で、夏は緑の草で覆われますが、冬は雪が降り、寒さが厳しい土地で、緑の牧草はありません。
牛たちは、夏にはたくさんのミルクを出しますが、冬になるとミルクの量が減ります。
コンテチーズ1玉を作るのに、平均450リットルもの牛乳を必要とします。
冷蔵庫がなかった時代、たくさんのミルクが得られても、ミルクは日持ちしませんから、夏の豊富なミルクを保存して冬の食料とするために、大きな熟成チーズが必然的に生まれました。
コンテはこの地で1000年も前から作られてきました。
“コンテ”の精神は“連帯”だそうで、皆がミルクを持ち寄って作ったことに由来しています。
コンテの熟成は最低4カ月。熟成期間はさまざまです。
日本では熟成期間が長いものを好む消費者が多いですが、長いからいい、おいしい、というものではありません。
「コンテは熟成期間によって味が違ってきますが、夏のチーズか、冬のチーズかによっても違うし、つくられる場所によっても味が違います。それがコンテの素晴らしさです。コンテは自然がつくるものですからね」と、ファビアン氏。
そこで、アナイスさんのガイドで、コンテ10カ月と16カ月を食べ比べてみました。
左)コンテ10カ月(2014年12月産) 右)コンテ16カ月(2014年7月産)
色を見ると、10カ月の方が白く、16カ月の方が黄色みが強くなっています。
色の違いは熟成期間の長さではなく、作られた季節によります。
夏のチーズは、放牧された牛が草花を食べたミルクを使うので、草花からの天然のカロチン色素で黄金色が濃くなります。また、草や花のアロマがあり、なめらかさが増し、脂肪分は少ないものの、カゼイン(タンパク質のひとつ)が多くなります。
冬は干し草を食べた牛のミルクを使うので、色は白っぽいアイボリーです。脂肪分が多めで、チーズは弾力性が低くなり、時によって、長期保存できないこともあります。
ミルクは毎日搾られ(1日2回)、コンテチーズは1年中つくられますが、夏の方がミルク量がやや多くなります。
工房によっては、夏はコンテをつくり、冬はコンテをつくらずに“モンドール”に切り替えるところもあるそうです。
※モンドールは季節限定のウオッシュチーズです → 以前の記事を参照ください
皮の色がピンクなのが若いコンテ(左)、茶色になると熟成が進んでいます(右)
また、生地にアミノ酸の結晶(チロシン)が見つかると、熟成が進んだものということがわかります。
10カ月と16カ月を食べ比べてみると、
10カ月(冬のチーズ)は水分量が多く、ヨーグルト、ミルク、バターの香りがあります。
クリーミーで、バターっぽく、塩気は少なく、甘みを感じます。
16カ月(夏のチーズ)は水分が少なく、ノワゼットの香りがあり、アミノ酸の結晶の粒々を感じ、うまみが凝縮されています。
日本で購入する時は、すでに真空パッケージされていいるものが多いので、夏のチーズか冬のチーズかわかりにくいですが、パックの日付と「○カ月」という記載情報から、何月に生産されたチーズなのかを知ることができます。
今までは、単に熟成期間だけを見て買っていた方も多いと思いますが、上で紹介したことを覚えておくと、チーズ選びの時にお役立ちです。
アナイス・ネヴェールさん(コンテチーズ生産者協会 広報担当)
コンテはフランスのAOPチーズの中でNO.1の生産量を誇るチーズです。
年間生産量は、約6万トン、150万玉。
2014年の生産量は64,000トン、160万玉。対日輸出量は87.5トン(過去最大)でした。
日本でもファンが多いチーズですよね。
「コンテはフランスの食文化にとって大切なもの。食べ飽きない味わいなので、朝から晩まで、そのまま食べても料理に使ってもよく、いつ、どんな時でも楽しめるチーズ。私もコンテを食べない日はない」と、オーレリアさんは言います。
オーレリア・シミエさん (コンテチーズ生産者協会 広報責任者)
コンテの生産地域には2700の酪農家、150のチーズ工房、15の熟成企業があり、この3者がコンテチーズ生産者協会の構成員です。
まず、酪農家が搾ったミルクがチーズ工房(フリュイティエール)に届けられます。
ミルクは、工房から25km圏内のものであることが決められています。
これは、テロワールの同一性を保つためです。
なお、牛1頭あたりにつき1haの牧草地を用意しなくてはならないそうです。
チーズ工房では、コンテチーズのAOP認証規定に従ってチーズが作られます。
出来上がったチーズは熟成企業に預けられ、熟成後、市場に販売されます。
つまり、熟成企業は販売メーカーでもあるわけです。
面白いと思ったのが、これら3者におけるお金の動きです。
一般的に考えれば、モノが次の相手に移った段階で金銭の受け渡しが発生しそうですが、熟成企業(販売メーカー)が市場に販売したところで初めて、酪農家とチーズ工房に金銭が分配されるシステムになっているそうです。
つまり、チーズ工房が酪農家からミルクを不当に安く買い叩いたり、販売メーカーへの受け渡し価格の吊り上げ要求をしたり、といったことができない、ということです。
理にかなった、公平なシステムですね。
150の工房のつくるコンテチーズはどれひとつ同じものはなく、さらに、熟成によってそれぞれの個性を持ったチーズになります。
コンテの世界は奥が深い!
【後編】では、ファビアン・デグレ氏が世界最優秀フロマジェコンクールで提供したものの一部と、コンテの産地で修行したフレンチレストランのシェフが作るコンテづくしの料理を紹介したいと思いますので、お楽しみに!