4月4日 おはよう日本
直木賞作家 伊集院静さん。
毎年、新年度のスタートに合わせて
新社会人に贈る言葉を新聞に載せている。
抵抗せよ。
すぐに役立つ人になるな。
誇り高き0(ゼロ)であれ。
その仕事は
ともに生きるためにあるか。
毎年4月に新聞に載る新社会人へのメッセージ。
用紙メーカーが30年以上前から続けている。
作家の山口瞳さん
脚本家の倉本 聰さんと書き継がれ
現在は伊集院静さんが執筆している。
伊集院さんは東日本大震災で仙台市の自宅が半壊する被害を受けた。
「1年経って 今 この形だから
どうこの街を再生していいか みな戸惑っている。」
今年 伊集院さんは東北を代表する果物のリンゴをモチーフに
新社会人へのメッセージを書いた。
落ちるリンゴを待つな
新社会人おめでとう。君は今どんな職場で出発の日を迎えただろ
うか。それがどんな仕事であれ、そこは君の人生の出発点になる。
仕事とは何だろうか。君が生きている証が仕事だと私は思う。
大変なことがあった東北の地にも、今、リンゴの花が咲こう
としている。皆、新しい出発に歩もうとしている。
君はリンゴの実がなる木を見たことがあるか。リンゴ園の老人が
言うには、一番リンゴらしい時に木から取ってやるのが、大切な
ことだ。落ちてからではリンゴではなくなるそうだ。
それは仕事にも置きかえられる。
落ちるリンゴを待っていてはダメだ。
木に登ってリンゴを取りに行こう。
そうして一番美味しいリンゴを皆に食べてもらおうじゃないか。
一、二度木から落ちてもなんてことはない。
リンゴの花のあの白の美しさも果汁のあふれる美味しさも厳
しい冬があったからできたのだ。風に向かえ。苦節に耐えろ。
常に何かに挑む姿勢が、今、この国で大切なことだ。
夕暮れ、ヒザ小僧をこすりつつ一杯やろうじゃないか。
「悲しいかな失敗とか忍耐とか苦節とか
そういうものでしか人間は成長しないから。
今までは学校とか家族とかで守られてきたものは(社会には)ないから
自分から進んで風の中に水の中に
そういう所へ行ってみよう。
その精神は“挑んでみよう”。」
広告代理店に勤めた後 作家となった伊集院さん。
酒とギャンブルを愛し“最後の無頼派”とも言われた。
豊富な人生経験をもとにこの10年余り
新しく社会人になった若者にメッセージを送ってきた。
空っぽのグラス諸君。(平成12年)
たとえどんな仕事についても、
君が汗を掻いてくれることを希望する。
いつもベストをつくして、自分が空っぽになってむかうことだ。
抵抗せよ。
すぐに役立つ人になるな。(平成13年)
抵抗しろ。改革しろ。妥協するな。
役立たずと陰口を言われても気にするな。
すぐに役立つ人間はすぐに役立たなくなる。
ハガネのように 花のように (平成23年)
今は力不足でもいい。
しかし今日から自分を鍛えることをせよ。
ハガネのような強い精神と、
咲く花のようにやさしい心を持て。
伊集院さん
「基本はエール。
不安だろうし
何も出来ないだろうし。
われわれが新社会人になったときと変わらない。
でもわれわれにないものが間違いなく君たちにある。
僕たちは君たちにすごく期待しているよと言いたい。」
伊集院さんのメッセージは新社会人だけでなく幅広い世代に響いている。
埼玉県川口市 建築資材メーカー社長 佐藤義晴さん
従業員は20人。
リーマンショックや円高による取引先の海外移転などで
厳しい経営が続いている。
心の支えにしているのが伊集院さんの言葉である。
今年 佐藤さんは7年ぶりに新卒の社員を一人迎えた。
地元の高校を出た手塚拓実さんである。
募集をしていないにもかかわらず
どうしてもものづくりの現場で働きたいという意気込みを買い
特別に採用した。
手塚さん
「最初は(採用を頼みに)行く勇気がなかった。
だけどモノづくりが好きなので。」
今週月曜日、伊集院さんのメッセージを読んだ佐藤さんは
さっそく手塚さんを呼んでその内容を伝えた。
-読んでみてどう感じた?
-“君が生きている証が仕事だと私は思う”という文があるんですけど
胸に響いて。
-私はこれを読んであなたのことパッと思った。
あなたが希望を通すためにはその勇気が必要だった。
その初心を忘れてほしくない。
佐藤さん
「リンゴを取りにいく高い木に登って取りにいくというのは
彼に対してだけではなく他の社員にもそうなんだが
毎年 あたらしいことにチャレンジする
それを人に言うからには自分自身もチャレンジしなければ。」
伊集院さん
「大人というのは自分の責任を果たせること。
同時に自分以外の誰かに何かをしてあげられる力を持っていること。
自分以外の誰かに力を与えることができること。
それが大人だと思う。
すぐにはできないけど
みな私たちは分かっているから
でもその精神を忘れないで社会の中に入ってほしい。」
伊集院さんのメッセージを読んだ人たちはツイッターやブログで
“新卒ではない自分にも胸にせまって来る様な強くてあたたかいメッセージ”
”何歳になっても響く言葉”
“年を重ねてからなおさら響くのかもしれない”
といった感想を書き込んでいた。