4月14日 NHK海外ネットワーク
アメリカンフットボールなどで
選手が頭を打ち脳震とうを起こすのは珍しいことではない。
しかしそのままプレーを続けると深刻な事態になるケースがある。
アメリカのNFLの頂点を決めるスーパーボールは
全米に中継され1億人以上が観戦する。
人々を熱狂させるスポーツの影で
今 選手たちの健康をめぐる深刻な問題が浮かび上がっている。
NFLは去年から
試合中に選手たちが脳震とうを起こしていないかチェックする対策を始めた。
しかしこれまでに400人以上の元選手が訴訟を起こしている。
キャム・クリーランドさん(36)は3つのプロチームで8年間プレーをした。
“脳震とうはすぐ治るのでたいしたことはない”
と聞かされていた。
しかし引退して6年がたった今
頭痛や不眠に悩まされ突然暴力を振るいたくなることもあると言う。
NFL元選手 キャム・クリーランドさん
「脳震とうの症状を訴えれば『弱虫』とみなされ解雇されるおそれがあった。
脳震とうの危険性についてNFLからきちんと教えて欲しかった。
でも何も知らされていなかった。」
脳震とうをきっかけにさまざまな症状に悩まされているのは選手だけではない。
ニューヨークの高校生 アイザック・ノーウィッチ君(17)は
3年前 フットボールの試合中に脳震とうを起こした。
その後 体育の授業などで2度頭を打ち
一昨年から激しい頭痛や不眠が続いた。
今も定期的に病院に通っている。
カリフォルニア大学の研究チームが行なった動物実験の結果
脳震とうは脳の神経の働きに影響を及ぼすことがわかってきた。
脳には電気の配線のように神経細胞がつながってネットワークを形成している。
脳震とうを起こすとこのネットワークが正常に働かなくなる。
時間がたてば脳震とうは治まり
ネットワークはもとの働きを取りもどすが
回復する前に再び脳が衝撃を受けると
情報伝達の機能が深刻な影響を受けることがわかった。
この結果 記憶力や集中力が低下したり
うつ病に似た症状が出たりするおそれがある。
カリフォルニア大学 クリストファー・ギザ准教授
「脳震とうは治るがきちんと回復させないといけない。
回復しないうちに神経細胞が2度3度と損傷を負うと
神経細胞に問題が起きたり全く働かなくなったりすることがある。」
脳震とうを受けた後の対応によって引き起こされる重い生涯や命の危険。
ザッカリー・ライステッド君(19)は6年前
13歳のときフットボールの試合で頭を強く打った。
その後立ち上がりプレーと続けたが試合後に突然倒れた。
こん睡状態に陥り
意識が戻ったとき
話すことも歩くことも出来なかった。
プレーを続けている間に繰り返し頭に衝撃が加わり
出血によるダメージを受けたと見られている。
ザッカリー・ライステッド君
「とにかくもとのような体に戻りたいと思っている。
脳震とうの知識があれば今のような体になっていなかったと思う。」
ライステッド君はリハビリに励む一方で
脳震とうを見のがすことで起きる事故をなくそうと
家族とともに地元に議会などに働きかけてきた。
3年前 地元のワシントン州でライステッド君の名前をとった法律
ザッカリー・ライステッド法が成立した。
教育現場で脳震とうの知識の普及を義務付けている。
これを機に全米で関心が高まり
31州で同じような法律が制定され
14州で制定に向けた準備が進められている。
ライステッド法をうけた新たな取り組みも始まっている。
ある高校では脳震とうに詳しいトレーナーが生徒に講義を行うようになった。
「時間をかけて脳震とうは悪化していくことがあります。
そうはいっても最初の24時間が最も重要です。」
トレーナーは体育の授業やクラブ活動も見回る。
アメリカンフットボールだけでなくサッカーや陸上などでも
脳震とうが疑われる生徒がいれば試合や練習を中止させる。
脳震とうの診断に生かすため
普段から生徒の記憶力などをはかるテストを行なっている。
何種類かの図形を示し正しく覚えられるか
たくさんの数字を大きい順にどれだけ早く選べるか
事前に生徒一人ひとりのデータを記録しておき
脳震とうを起こしたときに同じテストをうけさせ脳への影響を診断する。
脳震とうに詳しいトレーナー
「大きな変化が起きている。
選手の言うことだけで判断するのではなく
トレーナーやコーチ 親が脳震とうの症状・兆候を見分けて
プレーをやめさせることが重視されるようになっている、」
スポーツ中の脳震とうについては日本の専門家も注意を呼びかけている。
日本大学医学部長 片山容一教授
「脳震とうは意識がなくなることと理解してしまうが
意識がなくならない程度の脳震とうはいくらでもある。」
協議中に選手が脳震とうを起こしたかどうか
その場で診断するためのチェックシートを国際的な競技団体が共同で作った。
24項目中ひとつでも当てはまる症状があれば脳震とうの疑いがある。
日本ラグビーフットボール教会のホームページから脳震とうガイドラインへ。
http://www.rugby-japan.jp/
片山教授
「武道の必修化で柔道を選択する学校が多い。
柔道の脳震とう対策は大変重要。
慣れていない段階で不用意な試合は危ない。
指導体制をしっかり構築する必要がある。
脳震とうが起きたら見逃さない。
回復には時間がかかる。
週単位でかかるという認識を持ってほしい。」