10月6日 NHK海外ネットワーク
44年前 日本人で初めてノーベル文学賞を受賞したのは川端康成。
NHK取材班がこの時の舞台裏を取材した。
ノーベル賞の発表が行われるストックホルム。
ストックホルムの書店で人気を集めているのが
“1984”など村上春樹さんの作品である。
「受賞すると思う。」
「彼は受賞にふさわしい。」
40以上の言語に翻訳され
チェコのフランツ・カフカ賞など数々の賞を受賞している。
誰がノーベル賞を取るのか
毎年 ロンドンのブックメーカーが主催する賭けで
現在 文学賞で最も前評判が高いのが村上さん。
(ブックメーカー)
「文学ファンの間で村上さんの受賞に期待が高まっている表れでしょう。」
ヨーロッパでも若者たちは村上さんの独特の世界観に引き付けられている。
海辺のカフカより
ひとつひとつの言葉が僕の心に居場所を見つけて収まっていく
それは不思議な感覚だ
意味をこえたイメージが切り絵のように立ち上がってひとり歩きを始めるのだ
「文化の違いは問題にならない。
西洋の作家より親近感を感じる。」
日本の小説が広く世界に認められたのは
44年前の川端康成のノーベル文学賞受賞がきっかけだった。
日本人として初めて文学賞を受賞した。
(川端康成さん)
「日本文学の伝統のおかげでしょう。」
作品が繰り返し映画化されるなど
国民的人気を得ていた川端康成の受賞には日本中が沸いた。
その選考会の舞台裏が
今年公開された選考委員会の議事録によって初めて明らかになった。
受賞から7年さかのぼる1961年に
すでに有力な候補として議論されていたのである。
(議事録より)
“この日本人作家の作品は
心理描写と芸術描写にすぐれた技術で表現している”
“彼のテクニックには魅了される”
ノーベル文学賞選考委員会のベストべーり委員長は作家でもあり
川端とも面識があった。
当時の選考には関わっていなかったが
受賞者がヨーロッパに偏っている状況を
委員会としても変えようとしていたと言う。
(選考委員会 ベストべーり委員長)
「意識的に対象を広げようとしていたのでしょう。
谷崎潤一郎は候補にあがったり外れたり
阿部公房はかなり有力だった。」
しかし問題となったのは言葉の壁。
“これまでに翻訳された作品が少なすぎる”
“現在の状態では
賞を授与するのに本当にふさわしいのか決めることができない”
“もう少し時間をかけて考察すべきだ”
その壁を超えようとひそかに
そして精力的に動いていた人がいた。
当時スウェーデンに駐在していた松井明大使である。
NHKが入手した松井大使と外務省の間でやり取りされた外交文書。
大使は本来外部には公開されない委員会内部の情報を集めていたことが
克明に記されている。
どの日本人作家が候補に挙がっているのか。
委員会で何を問題にしているのか。
正確に情報をつかんでいた。
“ぜひとも我が国より受賞者を出したいと念願している
措置を講じないことはみすみす機会を失する”
大使の求めに応じ外務省は
候補に挙がっている作家の人物像や
作品の解説
評論の外国語訳を多数届けた。
大使はこうした資料を選考委員に提供していた。
最大の壁である翻訳について
大使は具体的なアメリカ人の名前をあげていた。
日本文学研究者であるサイデン・ステッカー。
著名な翻訳家で欧米の文学者にも広い人脈を持っていた。
サイデン・ステッカーは次々と川端作品を翻訳し
受賞に大きく貢献した。
(選考委員会 ベストべーり委員長)
「受賞前に
英語はもちろんフランス語やドイツ語にも訳された。
委員が作品をじっくり読み込むことができました。」
そして今
川端康成
大江健三郎に続く
日本人の文学賞受賞者は誕生するのか。
来週に行われる発表に注目が集まっている。