12月12日 編集手帳
つぶらな瞳に愛嬌(あいきょう)のある下がり眉。
胴には山らしきものがあり、
川らしきものが流れ、
田んぼらしき場所に案山子(かかし)らしきものが立つ。
「晋三」と署名がある。
青森県黒石市の「津軽こけし館」で安倍首相が絵付けをしたこけしを見たことがある。
シュールな画風だが、
じっくり眺めれば日本の田園風景と分かる。
貿易交渉の眼目は煎せんじ詰めれば、
この美しい風景を守りつつ、
いかにして「自由化」の果実を世界と共有するか、
に尽きよう。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は日米など参加国の対立が解けず、
越年となった。
〈いつしかも集まりて来しみちのくのこけし二三十本のそれぞれの過去〉
(小池光)。
こけしの一つひとつに来歴があるように、
交渉の品目には各国それぞれの過去があり、
伝統と事情がある。
難航は覚悟の上で飛び込んだ交渉である。
もう一度、
褌(ふんどし)を締め直してかかるほかない。
こけし館で見たなかに、
人目につかない底の部分に足の裏が二つ描いてある作品があった。
こけしに寄せた作り手の心遣いだろう。
地べたに足を踏ん張って、
滑らぬように、
転ばぬように。
交渉の要諦でもある。
つぶらな瞳に愛嬌(あいきょう)のある下がり眉。
胴には山らしきものがあり、
川らしきものが流れ、
田んぼらしき場所に案山子(かかし)らしきものが立つ。
「晋三」と署名がある。
青森県黒石市の「津軽こけし館」で安倍首相が絵付けをしたこけしを見たことがある。
シュールな画風だが、
じっくり眺めれば日本の田園風景と分かる。
貿易交渉の眼目は煎せんじ詰めれば、
この美しい風景を守りつつ、
いかにして「自由化」の果実を世界と共有するか、
に尽きよう。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は日米など参加国の対立が解けず、
越年となった。
〈いつしかも集まりて来しみちのくのこけし二三十本のそれぞれの過去〉
(小池光)。
こけしの一つひとつに来歴があるように、
交渉の品目には各国それぞれの過去があり、
伝統と事情がある。
難航は覚悟の上で飛び込んだ交渉である。
もう一度、
褌(ふんどし)を締め直してかかるほかない。
こけし館で見たなかに、
人目につかない底の部分に足の裏が二つ描いてある作品があった。
こけしに寄せた作り手の心遣いだろう。
地べたに足を踏ん張って、
滑らぬように、
転ばぬように。
交渉の要諦でもある。
12月11日 編集手帳
男性ならば、
たとえば今は亡き中西龍りょうさん。
〈歌に思い出が寄り添い、
思い出に歌は語りかけ、
そのようにして歳月は静かに流れてゆきます〉。
NHKラジオ『にっぽんのメロディー』の名調子である。
その人の声を思い出すと、
夜の帳とばりがおりてくる。
そういう人がいる。
女性では、
この人だろう。
〈浮世舞台の花道は、
表もあれば裏もある〉。
テレビ東京の長寿番組だった『演歌の花道』でおなじみのナレーター、
来宮きのみや 良りょう 子こさんが82歳で亡くなった。
ほの暗い波止場や酒場のセットがあるだけで、
派手な演出もなければ歌手のおしゃべりもない。
低くしっとりと、
ときにつれなく突き放す七五調の来宮節がよく似合った。
田端義夫、藤圭子、島倉千代子の各氏、
作詞・作曲では藤さんを見いだして育てた石坂まさを氏と、
今年は演歌の世界で訃報がつづいた。
<男はふり向き
暗い空を見上げ
つけた煙草に
ふるさとを想う>
(石坂まさを作詞、『北へ』)。
演歌を“心のふるさと”にしてきたファンには、
さみしい年の瀬だろう。
〈熱いの一本つけようか…〉。耳によみがえる来宮さんの語りに、ひとりうなずく。
男性ならば、
たとえば今は亡き中西龍りょうさん。
〈歌に思い出が寄り添い、
思い出に歌は語りかけ、
そのようにして歳月は静かに流れてゆきます〉。
NHKラジオ『にっぽんのメロディー』の名調子である。
その人の声を思い出すと、
夜の帳とばりがおりてくる。
そういう人がいる。
女性では、
この人だろう。
〈浮世舞台の花道は、
表もあれば裏もある〉。
テレビ東京の長寿番組だった『演歌の花道』でおなじみのナレーター、
来宮きのみや 良りょう 子こさんが82歳で亡くなった。
ほの暗い波止場や酒場のセットがあるだけで、
派手な演出もなければ歌手のおしゃべりもない。
低くしっとりと、
ときにつれなく突き放す七五調の来宮節がよく似合った。
田端義夫、藤圭子、島倉千代子の各氏、
作詞・作曲では藤さんを見いだして育てた石坂まさを氏と、
今年は演歌の世界で訃報がつづいた。
<男はふり向き
暗い空を見上げ
つけた煙草に
ふるさとを想う>
(石坂まさを作詞、『北へ』)。
演歌を“心のふるさと”にしてきたファンには、
さみしい年の瀬だろう。
〈熱いの一本つけようか…〉。耳によみがえる来宮さんの語りに、ひとりうなずく。