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なんのこれしき

2014-03-09 08:00:00 | 編集手帳
3月8日 編集手帳

滑車の綱を引き、
男たちが歌いながら杭(くい)を打つ。
米国の動物学者モースは横浜で堤防の工事を目にした。
〈時間の十分の九は歌を唄うたうのに費やされるのであった〉と、
明治初年のお雇い外国人は書いている。

息をそろえる。
リズムをつくる。
つらい労役に、
心の弾みをつける。
男たちがうたっていたのは田植え歌や茶摘み歌と同じような“仕事唄”であったろう。

あれもまた国民総出の仕事唄であったかと、
このひと月を顧みて思う。
テレビ桟敷で熱くなったソチ五輪の余韻がまだ耳に残るなかで「3・11」がめぐってくる。

除染。
瓦礫(がれき)。
汚染水。
困難で、
つらい仕事がつづく。
あすを見通せないまま、
故郷を離れて暮らす被災者はもっとつらかろう。
その不安と不自由を思えば、
片時も手を遊ばせていられない。
ソチではパラリンピックがはじまる。
うたう歌は変われども、
息をそろえ、
心に弾みをつけて乗り越えていくだけである。

歌でやらかせ 
この位な仕事 
仕事苦にすりゃ日が永い(刈干切唄《かりぼしきりうたなん》)。
容易ならざる仕事だからこそ、
なんのこれしきと顔を上げて滑車の綱を引く。
気丈な合唱を唇に忘れまい。
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