5月31日 編集手帳
帯をうたった詩がある。
〈ゆめみるひとみで緑帯
むすめざかりは赤い帯
朱にまじわって白い帯
トウがたったら青い帯
行きつく先は黄(き)ン色の帯〉
ピンときた方は読書好きにちがいない。
着物ではなく、
岩波文庫の帯である。
文芸評論家の向井敏さんが知人の作として随筆『傑作の条件』(文芸春秋)に書き留めている。
いまは帯ではなく、
色分けされたカバーの背表紙でおなじみの分類だろう。
夢みる瞳で読む緑(現代日本文学)の一冊は島崎藤村の詩集あたりか。
マルクスやレーニンの著述も含む白(社会科学書)を“朱にまじわって”とうたうあたり、
よく出来た詩ではある。
岩波文庫が今年7月、
創刊から満90年を迎えるという。
ここまで読まれて、
ふと、
書棚に並ぶ何色かの帯を眺めては、
むさぼるように読んだ青春の頃を思い起こしている方もおられよう。
90年の歴史には、
本を読みたくても読めない時代があった。
俳人、
鈴木六林男(むりお)さんの代表句を思い出す。
〈遺品あり岩波文庫『阿部一族』〉。
緑に、
赤に、
青に、
それぞれの思いを残し、
どれほど多くの若者が戦場に短い命を終えただろう。