5月24日 国際報道2017
いまドイツでは
移民や難民に対する差別的な発言ヘイトスピーチがインターネット上で拡散し
大きな社会問題となっている。
なかには事実と全く異なる嘘の記事まで登場。
全く関係のない動画を引用して
難民が暴動を起こしたかのように伝えるもの。
ドイツ中部の都市で暴れるのは難民たちか?
ベルリンで起きたテロ画像とメルケル首相が難民施設を訪問した時の写真を合成したもの。
メルケルによってテロの犠牲者に
一緒に映っているシリア難民がテロ事件の容疑者だとする事実無根の記事が広がった。
拡散する移民や難民への憎悪をあおる書き込み。
政府も対策に乗り出している。
ドイツ ドルトムントの新聞記者ペーター・バンダーマンさん。
自分の記事が移民への憎悪をあおるニュースに塗り替えられたという苦い経験がある。
(ペーター・バンダーマン記者)
「この広場に夜1時半ごろから未明にかけ1,000人くらいが集まっていました。」
去年の大晦日にバンダーマンさんが取材した年越しを祝う人たちの記事である。
花火や爆竹を鳴らす市民に混じって中東などからの移民も楽しむ姿も映っていた。
記事では
「近くの教会で花火が燃え移りボヤ騒ぎがあったものの
例年と変わらない風景だった」と伝えた。
ところがこの記事を
移民やイスラム教徒に排他的とされるオーストリアやイギリスのニュースサイトが相次いで引用。
1,000人の暴徒が警察を襲撃
ドイツ最古の教会に放火
事実に反する形で伝えたのである。
(ペーター・バンダーマン記者)
「その記事は
右派のポピュリストのプロパガンダに流されやすい人たちが攻撃的になるように仕向けたものでした。」
記事はツイッターやフェイスブックなどのSNSによってまたたく間に拡散した。
分析ソフトを使って検証すると
オーストリアの記事はヨーロッパを中心にSNSなどで25,000件ものシェアなどがあった。
またイギリスの記事も20,000件以上もの反応があり
少なくとも世界28カ国に広がっていたことが分かった。
バンダーマンさんのもとには書き換えられたニュースを信じた人々から
“放火事件を隠ぺいした”など1,000通を超える非難の声が寄せられた。
中には絞首台の画僧を送りつけてきた人もいた。
バンダーマンさんは“そんな事実は無かった”と反論記事を書いたが
拡散してしまった嘘のニュースを塗り替えることは出来なかった。
いったん拡散が始まれば個人の力で防ぐことは出来ない。
いまもそんな無力感にさいなまれている。
(ペーター・バンダーマン記者)
「自分の目で見て書いた記事がなぜ歪曲され
こんなインチキな記事にされてしまったのか。
事実はどこかへ行ってしまったのです。」
相次ぐ差別意識をあおる書き込みの拡散に
国も動き出している。
4月 ドイツ政府は
インターネット上の拡散を取り締まる新たな法案を閣議決定した。
(ドイツ マース法務相)
「街中と同様
SNSでも人々を扇動する違法な発言は許されない。」
インターネット上での差別的な書き込みは主にSNSを通して拡散する。
新たな法案では拡散を防ぐため
拡散の舞台となるSNSの運営企業に対応を求めている。
具体的には
問題のある投稿について利用者からの通報を受け付ける体制を整え
憎悪を駆り立てる書き込みは24時間以内に削除することなどを義務付けている。
さらに違反した企業には最大で60億円の罰金が科せられる。
SNSでの拡散に焦点を当てたこれまでにない規制。
企業側は強い懸念を示している。
法案が成立した場合
投稿が違法かどうかを企業側が判断するのは難しい。
その結果少しでも疑いのある投稿は削除せざるを得なくなるというのである。
(フェイスック開発責任者 アダム・モッセリさん)
「この法律の乱用を警戒しています。
誰かが“この拡散は気にいらない”と言うだけで削除を要求されることにもなるのです。
ネット上に何を載せるか消極的にならざるを得ません。」
国民の間でも賛否が分かれている。
(市民)
「法案はいいと思います。
インターネトで他人を侮辱するのはよくありません。」
「とんでもない法案です。
国家が言って良いこと悪いことを決めるなんて検閲です。」
インターネットと社会の関係を研究する専門家は
「法案が成立すればネット上での自由な議論が妨げられる」と警鐘を鳴らす。
(シンクタンク研究員 シュテファン・ホイマンさん)
「ヘイトスピーチはあからさまに表現されず
解釈次第のことも多いです。
しかし罰金が高額なため
企業は疑わしいものをすべて削除することになりかねません。
そうなると合法でも削除されるなど
言論の自由に悪い影響を与えかねません。」