9月9日 おはよう日本
イスラム教の聖地メッカの近くの空港。
世界各地から巡礼用の装束に身を包んだ人たちが続々と到着した。
(マレーシアからの巡礼者)
「マレーシアから来ました。
感激しています。
何百人もの人たちがやって来るので緊張しています。」
(インドからの巡礼者)
「5年もの間ハッジの実現を待ち続けていました。
とても楽しみです。」
巡礼者たちが真っ先に目指すのはハーバ神殿である。
世界中のイスラム教徒は
毎日この方向の向かい祈りをささげている。
この神殿の周りをまわることからハッジは始まる。
ハッジは1400年前イスラム教の預言者ムハンマドが行った巡礼の道をたどる。
数日かけて20キロ以上の道のりを主に徒歩で訪れ
予言者が説教を行ったとされる場所で祈りをささげたり
予言者が悪魔にうち勝ったという故事にちなんだ儀式を行ったりする。
一切の欲望を断ち切って
神にすべてをささげ
自己の再生を目指す。
巡礼の途中には出身国ごとに滞在するテントが設けられている。
内戦が続くシリアからの巡礼者のテントには
戦闘や空爆に巻き込まれて住む場所をなくした人や家族を失った人たちも
周囲から援助を受けて参加している。
(シリアからの巡礼者)
「大変な状況ですが
資金を工面してここに来られたことを神に感謝します。
シリアを助けてほしいと神に祈ります。」
シリアからの巡礼者のワセル・ナボさん(41)。
今も政府軍と反政府勢力の対立が続くシリア北西部のイドリブからやってきた。
今年4月ワセルさんの村が爆撃を受けた。
この日の早朝
ワセルさんの自宅を爆弾が直撃。
夫婦と7人の子どもが暮らす家は一瞬にして崩れ落ちた。
(ワセル・ナボさん)
「家族と一緒に寝ていたら
突然 爆発音がして家が崩れてきました。
はじめはがれきの下から子どもの泣き声が聞こえていたのですが
時間が経つにつれて静かになっていきました。」
ワセルさんと妻 2人の子どもは助かったが
生後8か月から13歳までの5人の子どもが亡くなった。
内戦が続くなかでも家の中を笑顔で満たしてくれた子どもたち。
ハイハイを始めたばかりの末っ子の面倒をよく見てくれる兄弟思いの子どもたちだった。
(ワセル・ナボさん)
「空爆の中で私に何ができたというのでしょうか。
子どもたちが死んでいくのをただ見ているしかできませんでした。」
生きる希望を失っていたワセルさん。
周囲の人たちからの後押しを受けて一族の代表として巡礼に参加した。
(ワセル・ナボさん)
「“シリアに平和が来ますように”
そう神に祈ります。
シリア人の巡礼者はみな同じことを祈っていると思います。」
予言者ムハンマドが最後の説教を行ったとされる場所で
人々は日が暮れるまで祈りをささげる。
ハッジのクライマックスである。
亡くなった子どもたちへの強い思いを持つワセルさん。
一心に祈りをささげた。
翌日生まれ変わりを意味する儀式を経て髪を切ったワセルさん。
予言者が悪魔と対峙した故事にちなんだ“石投げ”の儀式に臨んだ。
この4か月
家族を守り切れなかった悲しみと将来への不安のさいなまれたワセルさん。
石を手に取った。
儀式を終えたワセルさんは
今はただ平穏が訪れることを願っている。
(ワセル・ナボさん)
「巡礼によって救われたような気がします。
故郷を追われた人たちが帰ってこられるよう
平和な生活に戻れるよう
心から祈ります。」
ハッジに参加した200万人のイスラム教徒。
1人1人がさまざまな思いを抱えながら日常へと戻っていく。