10月26日 編集手帳
米国のプリンストンという町に、
数学の苦手な少女がいた。
母親は少女がときどき、
宿題を持って外出することに気づいた。
娘は隠すそぶりもなく言った。
「数学の宿題が解けなくて困っていたとき、
近所に偉い先生がいて、
とても良い人だって聞いたの。
それで家を訪ねて宿題を手伝ってもらえないかと頼んだら、
とっても喜んでくれて」。
アインシュタインだったという。
当地の学術研究機関に学んだ数学者の故・矢野健太郎さんが随筆で紹介していた。
歴史上、
最も偉大とされる物理学者は触れ合う人に幸せをふりまく特技があったらしい。
1922年、
東京の帝国ホテルに滞在中に従業員に渡したメモである。
「静かで質素な生活は不安に襲われながら成功を追求するより多くの喜びをもたらす」。
エルサレムの競売でホテルの便箋2枚が2億円で落札されたという。
宇宙の壮大な成り立ちに数式の橋をかける頭脳のどこにそんな場所があったのか、
ふしぎなほど身近な空間に温かな思慮を配っている。
科学の域を超えたその人のハートフルな語録は今なお世界中で人気がある。
日本発の言葉もそこに加わる。