12月13日 国際報道2018
大英博物館のツイッターのヘッダー画像は
アイヌの人たちが登場する日本の大人気漫画「ゴールデンカムイ」のキャラクターである。
いま世界では先住民族のアイヌが日本の文化としても注目されている。
先住民族は世界では90の国に3億7,000万人が暮らすとされている。
しかしその言語や文化の多くは衰退している。
とくに言語については世界で約7,000語が話されているが
このうち2,500語が話す人の減少が著しく危機的な状況にあるとされている。
そのなかでアイヌ語はもっとも消滅に近く
極めて深刻と指摘されている。
こうしたなか
国連は2007年に「先住民族の権利に関する宣言 」を採択。
先住民足の文化や伝統を守ることを訴えてきた。
そしてそしてユネスコは2019年
「先住民族の国際年」と定め
言語の継承に向けた取り組みを行なうよう呼びかけている。
こうした取り組みを世界に先駆けて進めてきたのは北欧のノルウェーである。
首都オスロから北へ1,000km余り
ノルウェー北部の街カウトケイノ。
冬はマイナス30度にもなる厳しい極北の街である。
トナカイの遊牧など
伝統的な生活文化を守ってきたのが先住民族「サーミ」の人たちである。
ノルウェーの人口の約1%
4万人いるとされるサーミの人たち。
彼らが話すサーミ語は公用語のノルウェー語とは全く違う言語である。
ノルウェー政府は1980年代までサーミの人たちに対する同化政策を進めていた。
公の場でサーミ語を話すことを禁止したほか
子どもたちは親から引き離され
徹底した同化政策が行われた。
その結果 サーミであることを名乗る人は激減。
多くが都市部に住み
土地に根づいた独自の文化も失われようとした。
オスロに住むタチアナ・コルプスさん(33)は都市部で暮らすサーミのひとりである。
数年前 母親から自分がサーミであることを聞かされた。
なぜ長い間そのことを黙っていたのか。
母親はいまでも多くを語らないという。
(タチアナ・コルプスさん)
「母はサーミであることを隠して生きてきたのです。
サーミゆえのつらい思い出があるのでしょう。
昔のことは話したがりません。」
同化政策のなかで虐げられてきたサーミの人たち。
転機となったのは1989年
ノルウェー各地に散らばるサーミの人たちが集まり議会を設置したことだった。
「議会は一般に公開されています。
ライブカメラで生中継されます。」
議会ができたことでサーミの人たちは政府と対等な立場で交渉できるようになり
独自の文化を守る権利が法的にも認められた。
ノルウェー社会の一員としての地位を確立したサーミの人たち。
1994年のリレハンメルオリンピックでは
かつて公の場で禁じられていた歌を披露した。
サーミ議会の議長を務める アイリ・ケスキタロさんは
オリンピックの開催がノルウェー社会の多様性を世界に訴えるきっかけになったという。
(サーミ議会 アイリ・ケスキタロ議長)
「ノルウェーは単一文化・単一言語の国とされていたが
それは違った。
五輪はサーミの文化を目に見える形で世界に披露する場となった。」
その後もサーミ独自の文化や言語を取り戻す活動が各地で進められるようになった。
政府はサーミ語や伝統衣装の作り方などを学ぶ学校をサーミが多く暮らす地域を中心に整備。
インターネットを使った遠隔授業も行われ
受講した生徒には単位が与えられる。
「2018年はサーミ語で?」
「クオクテ・トゥハフ・ヤ・カウフツェヌプ・ロフカイ。」
ノルウェーの公共放送はサーミ語のニュースを全国放送。
多くの国民がサーミを身近に感じるようになったという。
(サーミ語アナウンサー)
「若い世代を代表してサーミ語を伝えられてうれしいわ。
サーミじゃない友だちもみんな『かっこいい』と言ってくれるの。」
こうした取り組みの結果
サーミであることに誇りを持つ若い世代が増えている。
母親からサーミであることを聞かされたタチアナさん。
最近 本格的にサーミ語の勉強を始め
サーミの人たちが集まるイベントにも積極的に参加するようになった。
(タチアナ・コルプスさん)
「自分がサーミだとわかったときは本当に戸惑いました。
サーミ語を勉強するのは大変ですが
失っていた自分のアイデンティティーを取り戻していると感じます。」
一方 日本では先住民族アイヌへの理解は進んでいない。
いまもアイヌの人が多く暮らす北海道平取町出身のMAYAさん(19)。
神奈川県の大学に通っている。
地元に暮らす祖母はアイヌ伝統の機織りをいまも受けついているが
アイヌ語で会話をする機会はほとんどない。
アイヌ語を本格的に学ぼうと思っても独学で勉強するしかないという。
(MAYAさん)
「自分の文化・言語をもっと知りたいという当たり前のことを私はできていない。
魅力がある文化・言語がなくなってしまうことはすごく悲しい。」
MAYAさんは11月に沖縄で開催されたシンポジウムに参加した。
テーマは「消滅の危機にある言語」である。
そこで出会ったのがサーミの代表として参加した15歳のサラ・カップフェルさん。
「ノルウェーでは誰でもサーミ学校でサーミ語を勉強できるの。」
ノルウェーの取り組みに衝撃を受けたMAYAさん。
日本でもより多くの人にアイヌのことを知ってほしいと願うようになった。
(MAYAさん)
「サーミ学校とか
やっぱりすごい。
アイヌ語を授業で教えてくれる人がいないので
独学とか知り合いに聞いたりして
アイヌ語を学びたい人が気軽に通えるようなところがあまりない。
素直に自分の文化を学びたい
自分の言語を学びたいというのが実現される社会にしていかないと。」