3月9日 編集手帳
徳光和夫さんはあおむけに倒れたまま、
痛くともなかなかマイクを離さなかった。
日本テレビのアナウンサーだった頃、
覆面レスラー「ザ・デストロイヤー」に4の字固めをかけられた。
「激痛手当を出せ、
数日後は父親参観なんだ!」――かつての人気番組「金曜10時 うわさのチャンネル」の一こまである。
覆面からのぞく大きなつぶらな目、
団子っ鼻、
たらこのような分厚い唇がウッシッシと笑う。
リングから、
スタジオから、
その足技を昭和のテレビっ子の心にがつんとかけたデストロイヤーさんが亡くなった。
88歳。
米国の自宅で息を引き取ったという。
本国に戻ってからは教育学の修士号を生かし、
水泳やレスリングのコーチになった。
かたわら子供たちを日本に連れてくる活動を20年にわたり続け、
それが叙勲の対象となった。
昨年の式典では「高校時代は敵だったが日本に行って大好きになった」と語った。
この時も覆面をつけていた。
素顔も明かさないまま、
これほど日本になじみ愛された外国の方を存じない。
強かった。
面白かった。
そして痛かった。
幼友達とかけ合った4の字固めが懐かしい。