3月15日 国際報道2019
フランスのマクロン政権に抗議するいわゆる“黄色いベスト運動。
地方と都市との格差解消などを訴え
去年の11月から始まり今も収まっていない。
そのなかでマクロン大統領が打ち出したのが“国民対話”である。
税制や社会保障など国の政策について国民の意見を反映させようという対話を続けている。
市民主催も含めこれまでに対話は1万回以上に及んだ。
3月8日にパリで行われた国民対話。
1人で子育てをしている80人の男女が集まった。
会場にはマクロン政権の閣僚が駆け付けた。
保育所や住宅確保の問題などで議論をかわし
対話は3時間の及んだ。
「公営住宅や保育所の申し込みはいつもシングルマザーより夫婦が優先されます。」
「アパート入居の募集がかかると数百人もの希望者が殺到します。
私は14年間も待たされ続けています。」
「14年も!」
「いったいどこに行ったら助けてくれるのか知りたいです。」
「わかりました。」
次々と問題を訴える参加者たち。
意見は議題ごとにまとめられ政府へと届けられる。
「これで前に進むことを願います。」
(フランス ドノルマンディー都市・住宅相)
「市民が世の中をよくするために話し合える歴史的な出来事なんです。」
フランス革命以来ともいわれる今回の国民対話。
さまざまな方法で国民の意見を聞きだす取り組みが行われている。
その1つが全国の役場に置かれているカイエ・ド・ドレアンス(陳情書)である。
歴史は古く
フランス革命直前の1789年春に
ルイ16世が広く民衆の声を集めようと全国に置かせたと言われている。
ノートには誰でも国への意見を書くことができる。
多い人では10ページ以上にわたる。
”議員を削減するべきだ
上院・下院議員を300人に”
“富裕税の復活を”
“官僚や議員大手企業の社長 サッカー選手などの給料を減らせ!”
去年12月 地方の役場に置かれたのをきっかけに一気にフランス全土に広まった。
これまでに全国で1万5,000冊以上集まった。
さらに現代ならではのカイエ・ド・ドレアンスも。
パリ郊外へ出向き
討論会や役場に行く時間がなく社会的に立場が弱い人たちの意見をビデオカメラに収録。
政策に反映させようという取り組みである。
しかしここから聞こえてきたのは切実な訴えだった。
「契約社員を代表して言わせてもらいます。
マクロン大統領は公務員が余っているから契約社員を切ると言っていますが
それでは国が立ち行かなくなります。」
長い人では20分以上もカメラに向かって熱っぽく語りかけた。
「マクロン大統領に会える人は限られているので
こうした場所が毎日あれば自分たちのような若者も意見を言えます。」
専門家は
国民対話がマクロン政権のイメージ向上に一時的につながる可能性があると指摘する一方で
懐疑的な見方も示している。
(オルレアン大学 ジャン・がリーグ教授)
「数万の意見をまとめるのは非常に困難です。
国民対話は大きなリスクを抱えています。
誰もが納得する解決策を示すことは不可能だからです。」
国民対話が始まった1月以降
黄色いベスト運動の参加者は減り続けている。
マクロン大統領の市民とひざを突き合わせて毎回深夜までの対話を始めると
一時20%台前半まで下がった支持率は徐々に回復してきている。
41歳と若く議論も得意なマクロン大統領にとって
市民の意見に耳を傾けながらも自らの政策を主張でき
毎回テレビで生中継される国民対話は
いまのところ黄色いベスト運動の混乱で離れていた支持層を取り戻すきっかけになっている。
正念場はここからだと言える。
マクロン大統領は当初
3月15日まで国民対話を続け
4月までに意見を集約して自身の見解を示すとしていた。
ところが3月に入って大統領府は3月15日以降も国民対話を続けることを明らかにしたのである。
まだ回れていない地域があるからだとしているが
地元のメディアは
対話を続けることで黄色いベスト運動が再び拡大しないようにする狙いがあるのではないかと伝えている。
対話を続けているうちは
国民が自由に発言し何かが変わるのではないかという高揚感に包まれているものの
実際に万人が納得する政策を打ち出すのは簡単ではない。
引き続き厳しいかじ取りが続くものとみられる。