3月14日 編集手帳
「木枯し紋次郎」は笹沢左保の小説で、
紋次郎は「上州に生まれた」と書かれている。
いまの群馬県である。
同じ群馬に暮らしたことが縁で、
名前をもらった種牛がいる。
霜降り「紋次郎」という。
いい肉質の子を出す大種牛として知られたが、
平成に入ってまもなく事件に巻き込まれた。
美術品や服飾ブランドがそうであるように、
人工授精に使う精子のニセモノが出回ったのだ。
当時、
北関東の支局で事件を取材した。
和牛の生産に誠実に取り組む人々を裏切る心ない仲介者がいたのを思い出す。
魅力が増せば増すほど危機は高まるのだろうと、
大阪の事件にも思った。
和牛の受精卵と精液を、
中国に持ち出そうとした男2人が警察に逮捕された。
改良の歴史が100年に及ぶ生産地もある。
どれほどの畜産家が汗をかいてきただろう。
和牛の品質は世界に名をとどろかせるまでになった。
海外への持ち出しをたくらむ者は今後も現れよう。
法に、
制度に、
遺伝資源を保護する取り組みは喫緊の課題である。
紋次郎はたくさんの子孫を残した。
遺伝子はどこかで生きている。
物語のように旅から旅の渡世人にはしない。