5月24日 国際報道2017
いまドイツでは
移民や難民に対する差別的な発言ヘイトスピーチがインターネット上で拡散し
大きな社会問題となっている。
なかには事実と全く異なる嘘の記事まで登場。
全く関係のない動画を引用して
難民が暴動を起こしたかのように伝えるもの。
ドイツ中部の都市で暴れるのは難民たちか?
ベルリンで起きたテロ画像とメルケル首相が難民施設を訪問した時の写真を合成したもの。
メルケルによってテロの犠牲者に
一緒に映っているシリア難民がテロ事件の容疑者だとする事実無根の記事が広がった。
拡散する移民や難民への憎悪をあおる書き込み。
政府も対策に乗り出している。
ドイツ ドルトムントの新聞記者ペーター・バンダーマンさん。
自分の記事が移民への憎悪をあおるニュースに塗り替えられたという苦い経験がある。
(ペーター・バンダーマン記者)
「この広場に夜1時半ごろから未明にかけ1,000人くらいが集まっていました。」
去年の大晦日にバンダーマンさんが取材した年越しを祝う人たちの記事である。
花火や爆竹を鳴らす市民に混じって中東などからの移民も楽しむ姿も映っていた。
記事では
「近くの教会で花火が燃え移りボヤ騒ぎがあったものの
例年と変わらない風景だった」と伝えた。
ところがこの記事を
移民やイスラム教徒に排他的とされるオーストリアやイギリスのニュースサイトが相次いで引用。
1,000人の暴徒が警察を襲撃
ドイツ最古の教会に放火
事実に反する形で伝えたのである。
(ペーター・バンダーマン記者)
「その記事は
右派のポピュリストのプロパガンダに流されやすい人たちが攻撃的になるように仕向けたものでした。」
記事はツイッターやフェイスブックなどのSNSによってまたたく間に拡散した。
分析ソフトを使って検証すると
オーストリアの記事はヨーロッパを中心にSNSなどで25,000件ものシェアなどがあった。
またイギリスの記事も20,000件以上もの反応があり
少なくとも世界28カ国に広がっていたことが分かった。
バンダーマンさんのもとには書き換えられたニュースを信じた人々から
“放火事件を隠ぺいした”など1,000通を超える非難の声が寄せられた。
中には絞首台の画僧を送りつけてきた人もいた。
バンダーマンさんは“そんな事実は無かった”と反論記事を書いたが
拡散してしまった嘘のニュースを塗り替えることは出来なかった。
いったん拡散が始まれば個人の力で防ぐことは出来ない。
いまもそんな無力感にさいなまれている。
(ペーター・バンダーマン記者)
「自分の目で見て書いた記事がなぜ歪曲され
こんなインチキな記事にされてしまったのか。
事実はどこかへ行ってしまったのです。」
相次ぐ差別意識をあおる書き込みの拡散に
国も動き出している。
4月 ドイツ政府は
インターネット上の拡散を取り締まる新たな法案を閣議決定した。
(ドイツ マース法務相)
「街中と同様
SNSでも人々を扇動する違法な発言は許されない。」
インターネット上での差別的な書き込みは主にSNSを通して拡散する。
新たな法案では拡散を防ぐため
拡散の舞台となるSNSの運営企業に対応を求めている。
具体的には
問題のある投稿について利用者からの通報を受け付ける体制を整え
憎悪を駆り立てる書き込みは24時間以内に削除することなどを義務付けている。
さらに違反した企業には最大で60億円の罰金が科せられる。
SNSでの拡散に焦点を当てたこれまでにない規制。
企業側は強い懸念を示している。
法案が成立した場合
投稿が違法かどうかを企業側が判断するのは難しい。
その結果少しでも疑いのある投稿は削除せざるを得なくなるというのである。
(フェイスック開発責任者 アダム・モッセリさん)
「この法律の乱用を警戒しています。
誰かが“この拡散は気にいらない”と言うだけで削除を要求されることにもなるのです。
ネット上に何を載せるか消極的にならざるを得ません。」
国民の間でも賛否が分かれている。
(市民)
「法案はいいと思います。
インターネトで他人を侮辱するのはよくありません。」
「とんでもない法案です。
国家が言って良いこと悪いことを決めるなんて検閲です。」
インターネットと社会の関係を研究する専門家は
「法案が成立すればネット上での自由な議論が妨げられる」と警鐘を鳴らす。
(シンクタンク研究員 シュテファン・ホイマンさん)
「ヘイトスピーチはあからさまに表現されず
解釈次第のことも多いです。
しかし罰金が高額なため
企業は疑わしいものをすべて削除することになりかねません。
そうなると合法でも削除されるなど
言論の自由に悪い影響を与えかねません。」
5月23日 キャッチ!
ウズベキスタンの古都サマルカンドの中心部にあるレギスタン広場で行われた光と映像のショー。
日本からのツアー客を対象にウズベキスタン政府が開いた。
(観光客)
「歴史とかシルクロードの流れ
未来に向かうなどメッセージも良くて感動しました。」
サマルカンドは紀元前からシルクロードの交易で栄え
イスラム教の3つの宗教学校に囲まれたレギスタン広場をはじめ
モスクなどが世界遺産になっている。
歴史的な建造物にふんだんに使われた青いタイルから“青の都”とも呼ばれている。
ウズベキスタンでは
旧ソビエトからの独立後25年間にわたって国を率いてきたカリモフ大統領の死去を受けて
去年12月
ミルジョエフ氏が大統領に就任。
為替政策をはじめ
これまで厳しく管理してきた経済を自由化を進めて
外国との交流を活発化させ
経済発展につなげる姿勢を押し出した。
その切り札と位置付けているのが観光業である。
アジアやヨーロッパから観光客の誘致を図り
特に年間7,000人前後と少ない日本からの観光客を大幅に増やしたいとしている。
国営航空は今年
東京や大阪・福岡などから合わせて10便の直行チャーター便を運航することを決めた。
このチャーター便だけで合わせて2,500人の日本人観光客を見込んでいる。
4月に中部空港からの第1便が到着したときは民族舞踊団が歓迎。
入国や税関での手続きを簡素化する措置もとられた。
(国家観光発展委員会 ハキモフ局長)
「日本は戦略的なパートナーです。
日本の方がこの国の歴史に興味が湧く観光を心がけます。」
ウズベキスタン政府は優秀な外国語の観光ガイドの確保にも乗り出している。
これまでに日本語や英語が堪能な約600人に公認ガイドの証明書を発給した。
さらに若い世代の人材育成も図っている。
地元の大学
日本のJICA国際協力機構と連携して
大学内に日本語コースを設置している。
(受講者)
「サマルカンドやウズベキスタンについて世界の人たちにもっと知ってもらいたいです。」
日本語のほかに日本人観光客向けのきめ細かな対応の仕方も指導し
公認ガイドをはじめ観光業の発展を担う人材を大幅に増やすとしている。
(国家観光発展委員会 ハキモフ局長)
「政府は意欲的な計画を立てており
今後5年間で観光客を数倍に増やす予定です。」
ウズベキスタン政府が観光立国を目指す理由は立ち遅れた経済の底上げである。
カリモフ前政権は国境を接するアフガニスタンを拠点に国内に浸透するイスラム過激派に対抗するとして
経済分野をはじめとして国内の統制を強めた。
しかし外国からの投資が伸びず経済も停滞という結果を招いた。
若者の失業問題が深刻となり
約200万人が歴史的につながりが深いロシアに出稼ぎ労働を行っている。
経済の自由化を掲げるミルジョエフ大統領は
観光業の発展を起爆剤として国内経済の立て直しを図り
外資を呼び込んで経済発展を目指す方針を示している。
前政権で観光業が伸びなかったのは外国人に対する厳しい入国制限があったためである。
カリモフ前政権の時代にも空港やホテルの整備など観光業の発展に力を入れていたが
外国人はビザの取得に手間がかかって自由に訪れることができなかった。
ミルジョエフ大統領は大統領当選直後に
日本やヨーロッパ諸国など30か国近くの国民を対象に観光ビザの免除や緩和を図る大胆な措置を打ち出した。
この措置は当初は今年4月から導入されると発表されたが
突然2021年まで延期されてしまった。
その背景にはイスラム過激派の流入を警戒する治安機関の意向があったと言われている。
強大な権限を持つ大統領と言えども
治安機関の意向を抑えて経済の自由化を進めるのはなかなか難しい状況である。
今後の課題は
隣のアフガニスタンを拠点とするイスラム過激派にどう向き合うかである。
ウズベキスタンでは90年代の後半から2000年代の前半にかけてイスラム過激派によるテロが相次いだ。
アフガニスタンでのアメリカを中心とするイスラム過激派に対する軍事作戦を受けて
ここ数年は大規模なテロは起きていないがイスラム過激派の脅威は残ったままである。
ロシアの治安当局は
ウズベキスタンなど中央アジアから約5,000人がISに加わったと分析している。
ISに加わったメンバーが帰国してテロを起こす可能性も指摘している。
ミルジョエフ政権は
観光業を手始めに経済の自由化を図ると同時に
一定の統制も維持してイスラム過激派の流入と浸透を阻止するという難しいかじ取りを迫られる。
5月23日 おはよう日本
4月に始まったあるプロジェクト。
呼びかけに応じて持ち込まれたのは廃棄されるはずだった携帯電話やスマートフォン。
中の電子基板から貴重な金属をとり出し
東京オリンピック・パラリンピックのメダルを作ろうというものである。
(東京都 小池知事)
「皆さんの携帯電話がメダルになっているなと思ったら
どんなにオリンピック・パラリンピック楽しみなことでしょうか。」
廃棄された携帯電話やパソコン
そしてテレビなどの大型家電に内蔵された電子基板。
金や銀など貴重な金属をとり出せることから“都市鉱山”と言われている。
しかし
日本から海を渡った都市鉱山がアジア各国で思わぬ事態を起こしている。
秋田県県内にある金属のリサイクル工場。
廃棄されたパソコンの電子基板が次々と機械に入れられ粉々にされていく。
その後1300度を超える炉の中で溶かされる。
水で冷やすとみるみる色が変わる。
純度99%以上
6,000万相当の金塊である。
重さは約13キロ。
23万枚の電子基板から作られた。
施設では大型のダクトとフィルターを設置し
有害物質が漏れ出さないようにしている。
(小坂製錬 河口純社長)
「二重三重にトラブルがないよう
安全確保ができるよう設備対応をやっている。」
しかしこの都市鉱山が海外で健康被害を引き起こしていると指摘する専門家がいる。
ジェトロ アジア経済研究所の小島道一研究員である。
小島さんがフィリピンで撮影した映像。
容器に移されたのは電子機器の部品。
沸騰しているのは金属をとり出す際に使う薬品である。
有毒な“シアン系の化合物”とみられている。
現地の人たちは手袋やマスクもせずに作業を進めていた。
小島さんは
こうした危険な作業が中国やベトナムなどアジア各国で行われ
住民の健康被害につながっていると見ている。
その影響を受けているのは直接作業にあたっている人にとどまらない。
不適切なリサイクルが行われているベトナムの村での調査結果では
母乳を調べたところ
有害物質の濃度が首都ハノイに比べて高く
中には10倍以上検出された人もいた。
子どもの脳の発達に影響を及ぼす懸念がある。
こうした廃棄物はどこから運び込まれるのか。
(小島道一さん)
「パソコンのキーボードはひらがながのっていて
これもおそらく日本から来ただろう。」
調査を進めると
日本で使われていたとみられる家電ゴミが多くあることが分かってきた。
(ジェトロ アジア経済研究所 小島道一研究員)
「健康被害を生じさせるような形でものが輸出されていくのは問題だと思う。」
こうした事態に対策を迫れているのが環境省である。
一般家庭から家電ゴミを集め海外に送る“不正なルート”があると見ている。
特に問題視しているのが
不正な回収業者とゴミが集められる“ヤード”と呼ばれる保管場所である。
家電ゴミを捨てる際の正式な手順は
洗濯機や冷蔵庫などの大型家電はリサイクル料を支払い小売店へ。
スマートフォンやパソコンなどの小型家電は
自治体の他
国の認定を受けた業者が回収する。
そこからメーカーやリサイクル業者に送られ
工場などの施設で適切に処理される。
一方環境省が注意を呼びかけているのが無料回収をうたう一部の業者。
本来は一般家庭から家電ゴミを引きとることができないため
“中古品として再利用する”という名目で回収。
その後“ヤード”と呼ばれる保管場所に持ち込まれ
鉄くずなどと一緒に海外へ運びだされていると見ている。
(環境省 廃棄物・リサイクル制度企画室)
「家電ゴミのかなりの割合がこうした形で外国に流出しているのではと推計している。
これからしっかりと全国どのような状態にあるか
把握していく必要がある。」
家電ゴミの不正な収集を根絶しようと監視を強めている自治体がある。
4年前からパトロールを続けている岐阜市である。
住宅の前で見つけたのはコーヒーメーカー。
他にもホットプレートや電子レンジなどの古い家電が。
“家電を無料で回収します”というチラシを見て出された家電ゴミである。
“指定の日時にご自宅の前に出しておくだけ”
住民の気を引く言葉が並べられている。
市の職員はこうした家電ゴミが多く運び込まれる“ヤード”に立ち入り調査に入った。
(岐阜市職員)
「廃棄物処理法第19条により立ち入り検査させてもらいます。」
そこにあったのは法律で小売店に引き渡されることになっている冷蔵庫や室外機など大量の家電。
業者は「再利用するための中古品だ」と主張した。
しかし
(岐阜市職員)
「通電しない
修理していない
冷蔵庫のコード切ってある。
粗雑な扱いもいいところ。」
市は廃棄物と判断。
今後家電ゴミの引き取りをやめるよう行政指導する方針である。
ただ行政指導に従わなかったとしても罰金などは課せられないため
不正な収集はなかなか無くならないという。
(岐阜市 換気用事業課 下川和彦係長)
「立ち入りを行い業者に対する指導は行っているが
改善されていないのが現状。
ゴミを排出される市民の方の意識が変わるのが一番だと思うが
無料という言葉に
どうしても市民の方がゴミにお金を出すことに抵抗を感じる方が多いと思う。
市が行う処理施設で適正に処理していただくのが一番いいことだと思う。」
5月23日 おはよう日本
優れた新聞の報道や文学に与えられるアメリカで最も権威のあるピューリッツァー賞。
今年は大手メディアだけではなく
論説の部門で小さな新聞社も受賞し注目を集めている。
受賞したのはアメリカ中西部の農業地帯にある発行部数わずか3,000分の新聞社である。
アメリカ アイオワ州。
町の商店に新聞を配達するアート・カレンさん。
今回ピューリッツァー賞を受賞した新聞社の記者である。
スタッフはカレンさんの息子や妻など合わせて10人。
家族経営で週に2回新聞“ストームレイク・タイムズ”を発行している。
(カレン・アートさん)
「これまでの新聞の1面の記事です。
銀行強盗から消防士の殉職までいろいろ。
私たちの存在理由は地域に尽くすことだけです。」
ピューリッツァー賞を受賞したのは町の水質汚染をめぐる記事である。
(カレン・アートさん)
「夏場になると臭いがすごい。
誰だって問題があることがわかる。」
この地域の湖や川には周りのトウモロコシ農家から排出された肥料が流れ込む。
地元の自治体は水質汚染の対策が不十分だとして
下流の地域に水道を供給している会社から訴えられた。
自治体は対策を十分にとっているとして全面的に争った。
裁判の費用についてカレンさんたちが自治体に取材すると
「何も言えない」と回答されたという。
その答えに疑問を感じたカレンさん。
詳しく調べることにした。
しかし関係者の口が堅く
事実をなかなか明らかにできない。
自治体の会計担当者や関係する弁護士など
カレンさんたちは地道に関係者に取材を続けた。
その結果
水質汚染の原因となっている肥料のメーカー側の基金が
自治体の裁判費用を肩代わりしていることを突き止めた。
裁判に自治体が負けるとメーカー側も責任を追及される恐れがあると考え
援助していたとみられる。
カレンさんが書いた記事。
“隠された真実を暴く”
約8か月続いた連載。
基金から自治体への資金提供はストップした。
カレンさんは自治体と農業団体の癒着を明らかにできたと考えている。
(カレン・アートさん)
「選挙で公職者を選んでいる納税者ではなく
肥料・化学メーカーが自治体を動かしている。
政策を化学会社が決めるべきか
住民が決めるべきか
それが私たちの伝えたかったポイントだ。」
小さな新聞社の快挙を町の人たちは誇りに感じている。
(住民)
「びっくりだわ。
小さな町で素晴らしいことよ。」
「彼は誰に言われても決してあきらめない。
だから受賞につながったんだと思う。」
嘘の情報が飛び交う今だからこそ
カレンさんは地元に密着し事実を公平に伝えることが何より大切だと考えている。
(カレン・アートさん)
「トランプ大統領がどう考えるにせよ
アメリカでは報道の自由は健在だ。
報道機関は真実のためにこれまで以上に戦わないといけない。
読者がいてこそ報われる。」
地域のために真実を追求し紙面で訴え続ける。
小さな町に新聞社は
報道機関のあるべき姿を問いかけている。
5月22日 国際報道2017
サウジアラビアの首都リヤドにあるファハド国王文化センター。
4月にここに日本からオーケストラの一行がやって来た。
イスラム教の厳格な解釈に基づく統治が行われているサウジアラビア。
西洋の音楽なタブー視され
公共の場で演奏されることはほとんどなかった。
そんなサウジアラビアで数十年で初めての公演が許可されたのである。
さまざまな産業を起こして石油に依存する経済から脱却したいサウジアラビア政府。
いま娯楽分野の活性化にも力を入れ始めているのである。
今年3月
サルマン国王が来日した際
日本が支援を約束しコンサートの実現にこぎつけた。
(サウジアラビア トライフィ前文化情報相)
「我が国と日本の芸術
そしてオーケストラにとって強力の始まりだ。」
今回の公演を心待ちにしていた人がいる。
首都リヤドにある自宅で西洋音楽の個人教室を開いてるハリル・ムウェイルさん(41)。
職業はエンジニアだが
音楽好きが高じて10年前には毎週のように隣国バーレーンに通って音楽を学んでいた。
(ハリルさん)
「音楽が大好きで国外で学びましたが
自分が教えるチャンスと思い私が学んだ音楽を教えています。」
音楽の学校がないサウジアラビア。
ふだんインターネットなどで西洋の音楽に親しんでいる人たちが通って来る。
(音楽学校の生徒)
「サウジアラビアの人たちはみな音楽好きです。」
今回の公演は音楽の素晴らしさをサウジアラビアの人たちに知ってもらうチャンスだと
ハリルさんは大きな期待を寄せてきた。
(ハリルさん)
「サウジアラビア人は常に“音楽は良くない”“間違ったことに導かれる”と聞かされています。
皆に
クラシックなど世界の音楽は良質で人間に良い影響を与えると知ってほしいのです。」
講演の3日前
リハーサルが始まった。
講演で演奏されるサウジアラビアの国歌のリハーサルを行っていると
音楽教室のハリルさんがやって来た。
(ハリルさん)
「サウジアラビアの国歌を演奏してくださるのは素晴らしいのですが
ひとつ言わせてください。
テンポが速すぎます。
もっとゆっくりでお願いします。」
そしていよいよ公演の日。
これまで鑑賞することができなかったフルオーケストラの生演奏を聞いてみたいと
約3,000人がつめかけた。
ハリルさんの姿もあった。
演奏されたサウジアラビア国歌。
拍手喝采。
大変な盛り上がりを見せた。
次々に披露されるクラッシックの名曲の生演奏に魅了されていく。
(観客)
「本当にすばらしいです。
初めてのことで最高です。」
砂漠の国で奏でられたクラシック音楽。
日本とサウジアラビアの新たな交流の歴史が始まった。
(ハリルさん)
「完璧な演奏でしたね。
指揮者の吉田さんとサウジアラビアにもオーケストラを開設する協力ができると話しました。
今後も交流を続けて
サウジアラビアのオーケストラを実現したいですね。」
5月20日 おはよう日本
低糖質が売りのお好み焼き。
(客)
「糖質がすごく少ないし
たくさん食べても普通のお好み焼きと比べて罪悪感がないっていうのがいい。」
秘密は使っている粉にある。
このお好み焼きの粉は
香川県薬剤師会の検査によると
1枚分の糖質は0,72gで
一般的なお好み焼き粉と比べ糖質が大幅にカットされているという。
この粉を開発・商品化した齊藤眞理さん。
さまざまな職業を経験してきたが
40歳を過ぎて思い切って起業した。
きっかけは父親が腎臓の病気で苦しんだことだった。
(齊藤眞理さん)
「水を飲めなかったり果物を制限していたり
食事の面でいろいろつらい面があり
家族もやはりつらい。
楽しくなる
そしておいしくなる食品が食事制限をしている人にもあったらいいなと。」
なんとか糖質を気にせずにおいしい食事ができないか。
試行錯誤の末
自ら配合して完成させたのがこのお好み焼き粉である。
(齊藤眞理さん)
「おからの粉とオオバコという植物の粉
それとだしなどを混ぜて
低糖質に作ることに成功しました。」
このお好み焼き粉をいろいろな人に食べてもらいたいと
齊藤さんは一昨年
低糖質の食品を製造する会社を1人で設立した。
何もわからなかった齊藤さんが頼ったのが
国が全国に設置した中小企業などの経営相談所
よろす支援拠点である。
事業のノウハウなど経営上のあらゆる悩みに専門家が無料で対応してくれる。
(香川県よろず支援拠点 柴田直美さん)
「とっても熱いお嬢さんというか
こちらとしてもサポートさせてもらって
実際に創業してもらって
元気に頑張っているところを見るのがすごくうれしい。」
さらに斎藤さんは
事業を確立させるため活動の拠点を確保したいと考えた。
高松市が開設した起業家たちの活動のサポート施設
創造支援センター。
ここでは独自性のある起業化などに低料金で事務所を貸してくれる。
創業支援を担当する田村俊介さんは
この施設の入居審査で斎藤さんの熱い思いに打たれたという。
(高松市産業振興課 田村俊介さん)
「お父さんの話をされたのですけど
好きなものを食べられないというエピソードを聞いたときに
不覚にもちょっと涙してしまいまして。」
しかし事業を始めた当初はひたすら飛び込み営業しても相手にされず
お好み焼き粉を販売してくれる場所はなかなか見つからなかった。
それでもその熱意に打たれ
やがて病院の病院の売店などで販売されるようになり
少しずつ販売数も増えていった。
(客)
「ちょっとモチモチした感触で非常においしかった。
低糖質というところを気に入って買うようにした。」
(病院の売店店長)
「プラスアルファのものを求めている
提供するということを今考えているので
これからの斎藤さんと一緒に販売を続けていきたいと思っている。」
(齊藤眞理さん)
「1人で事業をやっているので
皆さん勝手に自分の仲間だと思わせてもらっているので
喜んでいただけるのもうれしいです。
商品のレシピを変えたりして前に進んでいこうと思っています。」
低糖室食品を広めようと奮闘する斎藤さん。
多くの人に支えられながら挑戦は続く。
齊藤さんは今年2月
独創的なビジネスプランを表彰する香川産業支援財団のコンペで最優秀賞を受賞している。
糖質は体に必要なエネルギー源なので減らし過ぎないよう注意することも必要である。
専門家は
「糖尿病で薬を処方されている人などは
低糖質の食品を使う前に医師と相談してほしい」と話している。
6月1日 編集手帳
なかなか芽の出ない相撲取り、
駒形茂兵衛(こまがたもへえ)は一文無しの空腹を抱え、
水戸街道の宿場町を通りかかる。
長谷川伸の戯曲『一本刀土俵入』である。
酌婦のお蔦(つた)に温かい言葉と銭をもらい、
人の情けを知った。
茂兵衛はお蔦に告げる。
〈姐(ねえ)さん、
わしはどんなに出世しても駒形茂兵衛で通します〉。
しこ名は変えない。
あの時の相撲取りが横綱になったのだと、
姐さんに気づいてもらえるように…。
大関になってからも本名をしこ名に用いるのは、
昭和以降で4人目という。
大相撲の高安関(27)(本名・高安晃)が大関に昇進した。
順風満帆でここまで来た力士ではない。
相撲の世界になじめず、
何度も部屋から逃げ出している。
人の情けに救われた日もあったろう。
汗と涙のしみついた「高安」の名前で晴れ姿を見てもらいたい恩人を、
たくさん持っているに違いない。
本名のまま綱を張った輪島の例もある。
この欄で“輪島以来”と書ける日が待ち遠しい。
「正々堂々精進します」。
いい口上である。
お蔦が茂兵衛にかけた言葉は、
ファンの気持ちそのままだろう。
〈その料簡(りょうけん)でみッちりおやり。
出世を待ってるよ〉
5月31日 編集手帳
帯をうたった詩がある。
〈ゆめみるひとみで緑帯
むすめざかりは赤い帯
朱にまじわって白い帯
トウがたったら青い帯
行きつく先は黄(き)ン色の帯〉
ピンときた方は読書好きにちがいない。
着物ではなく、
岩波文庫の帯である。
文芸評論家の向井敏さんが知人の作として随筆『傑作の条件』(文芸春秋)に書き留めている。
いまは帯ではなく、
色分けされたカバーの背表紙でおなじみの分類だろう。
夢みる瞳で読む緑(現代日本文学)の一冊は島崎藤村の詩集あたりか。
マルクスやレーニンの著述も含む白(社会科学書)を“朱にまじわって”とうたうあたり、
よく出来た詩ではある。
岩波文庫が今年7月、
創刊から満90年を迎えるという。
ここまで読まれて、
ふと、
書棚に並ぶ何色かの帯を眺めては、
むさぼるように読んだ青春の頃を思い起こしている方もおられよう。
90年の歴史には、
本を読みたくても読めない時代があった。
俳人、
鈴木六林男(むりお)さんの代表句を思い出す。
〈遺品あり岩波文庫『阿部一族』〉。
緑に、
赤に、
青に、
それぞれの思いを残し、
どれほど多くの若者が戦場に短い命を終えただろう。
5月18日 キャッチ!
13億の人口があるインド。
このうち約8割がヒンドゥー教の信者だと言われている。
ヒンドゥー教の寺院は色彩豊かな装飾が特徴だが
そこに一役買っているのが鮮やかな花の数々である。
しかし今その花が環境問題の原因の1つになっている。
首都ニューデリーにあるヒンドゥー教の寺院。
多くの人々が参拝に訪れ
神様に花を供え
祈りをささげる。
飾られた花は主にマリーゴールド。
ヒンドゥー教でオレンジ色と黄色は神聖な色とされている。
毎年秋に行われるガネーシャ祭りは
象の頭と人間の体を持つ神様ガネーシャに厄除けを祈願するお祭りである。
ここでも花が大切な役割を果たす。
寺院や祭りで飾られた多くの花はしきたりによって川に流される。
“母なる川”が人々の罪や業を花とともに洗い流すと信じられているからである。
ところが近年
流された大量の花が大きな問題になっている。
捨てられたゴミとともに川の汚染の原因の1つになっているというのである。
政府も花を川に流さないよう呼びかけているが効果が上がっていない。
こうしたなか寺院から出た大量の花をリサイクルする活動が注目を集めている。
ニューデリーにある障碍者支援施設。
障害のある人たちが社会で活躍できるよう手助けするため
市内の病院で臨床心理士をしていたマドゥミタ・プリさんが25年前に起ち上げた。
その後
障害のある人が働く場を作りたいと考えていた矢先に
川を埋め尽くす大量の花を見たのである。
(障碍者支援施設代表 マドゥミタ・プリさん)
「昔は花を川に流すのは善行でしたが
いまはこの街だけで寺が1万以上あります。
川が汚れるのは当然のことです。」
マドゥミタ・プリさんは
花をリサイクルすれば障害のある人に就労の機会が生まれ
少しでも川をきれいにできると考えたのである。
施設のメンバーは毎日市内の60の寺を回って1日300キロの花を集める。
最初は宗教的な理由から協力を拒む寺が多かったそうだが
マドゥミタさんが川の汚染を強く訴えた結果
花を提供してくれる寺が徐々に増えた。
(僧侶)
「川をこれ以上汚さないために活動に協力することにしました。
みんなが習慣を変えれば“母なる川”は再びきれいになるでしょう。」
集められた花は色ごとに仕分けされ
茎や葉が丁寧に取り除かれる。
残った花びらにグリセリンや天然の芳香剤などを混ぜて線香やキャンドルを作る。
加工品で最も売れているのは
乾燥した花びらをパウダー状にしたカラフルな色粉である。
ヒンドゥー教の祭典では
色とりどりの粉や水を
お互いの幸せを交換するために家族や近隣住民で掛け合う。
しかし近年
化学物質が含まれた粉による健康被害が続出し
自然由来の体にやさしい粉が人気を集めるようになっている。
価格は他のメーカーの2倍程度にもかかわらず
売り上げが増加。
去年は5年前の2倍を生産した。
当初は20人ほどで始めた活動も
今では300人まで規模が拡大。
国の支援が不十分なうえ就職が難しい障害がある人にとって
安定収入の得られる恵まれた就労機会になっている。
(施設作業員 ビジェイ・ニシャッドさん)
「ここで働くようになってからとても幸せです。
両親が働けないので
私の収入が家族の支えです。」
3年前にガンジス川下流の都市でも生産を始めたマドゥミタさん。
今後は各地の支援施設と連携してインド全土で活動を展開したいと考えている。
(マドゥミタ・プリさん)
「私たちは全ての人の能力に目を向けるべきです。
障害のある人をもっと雇用して
世の中に影響を与える事業にしたいです。」
神様と人々をつなぐ役目をいったんは終えた花々。
障害のある人の力で生まれ変わり
第2の務めを担う。
5月18日 おはよう日本
いまシリコンバレーでホットな話題と言えば
画像処理に使われる半導体。
圧倒的な性能を次世代に応用しようと注目が集まっている。
カリフォルニア州サンノゼで開かれたITのイベント。
画像処理の技術を専門にする半導体メーカーが開催した。
中でも注目されたマシーンは
まず0秒で全身を3Dスキャンし
撮影したデータを使って自由自在に動きをつけられる。
1993年に創業したメーカー エヌビディア。
画像処理を行う半導体=GPUを手掛けている。
元々はゲーム用に開発した。
基盤にはアップルの最新のノート型パソコン150台分の計算能力がある。
1990年代に日本で発売されたゲームは
キャラクターや背景をスムーズに動かすためにこのメーカーの製品が使われた。
それから20年以上。
よりリアルで迫力のある映像を求めるユーザーの声にこたえるうちに
画像処理の技術をどんどん高めていったのである。
(エヌビディアの技術者)
「映像のリアルさを求めるゲームユーザーの要求はとどまることを知りません。
ゲームに使われるGPUはさまざまなことに応用できます。」
ゲームの画像処理で培われた高い計算能力。
その性能を他の分野に生かそうという動きが一気に広まった。
その1つが自動運転の分野である。
周囲の状況を3Dスキャンで瞬時に認識。
詳細な地図情報と重ねて数センチ単位で位置を把握し
どこを走れば安全課を見極める。
5月10日にはビックニュースがCEOから発表された。
(エヌビディア ジェンスン・ファンCEO)
「トヨタが自動運転開発に我々の製品の採用を決めました。」
会社ではかつてゲームの性能を飛躍的に高めたのと同じように
自動運転やAI(人工知能)の技術を大きく進展させたいと考えている。
(エヌビディア ジェンスン・ファンCEO)
「人工知能の技術などで未来を切り開いていきましょう。」
エヌビディアの技術が広く知られるようになったのは2012年。
画像認識の実験で
グーグルがCPU2,000個を使用したのに対し
エヌビディアはGPU12個で実現したということで
それをAIの研究者が知ったのがきっかけである。
きらりと光る技術でリッチな分野を独占する。
シリコンバレーの勝利の方程式である。
5月17日 国際報道2017
国連が定めた“持続可能な開発目標”
いわゆるSDGsの達成への危機感が流れるなか
いま国連は最新テクノロジーを活用して目標の達成につなげようと動き始めている。
アフリカの大地を飛ぶドローン。
ウガンダなどで感染症対策に欠かせないワクチンや輸送用血液を輸送するために使われている。
道路交通網が脆弱なアフリカでいまドローンの普及が進もうとしている。
貧困や格差など山積する難題の解決に最新テクノロジーを活用できないか。
5月に国連本部で行われた国際会議には
世界100カ国以上の政府代表のほか
企業やNGOの担当者など700人がが集まり
その方策を探った。
日本からも研究機関や援助団体が参加した。
会議にはマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏もメッセージを寄せ
「世界の企業が世界の持続可能な開発のためにそれぞれの役割を果たすべきだ」と訴えた。
(マイクロソフト創業者 ビル・ゲイツ氏)
「政府 企業 投資家 NGOがみな国連の成長目標の中で果たす役割がある。」
注目を集めたのがアメリカのベンチャー企業が開発した最新のアプリ。
まずアプリを使い生産者が作物の写真を投稿する。
買い手は写真を見て作物を直接購入できる。
代金のやり取りはWFP(世界食糧計画)が仲介することで信用度が高まる仕組みで
すでにザンビアで導入され
農家の所得向上につながっているという。
しかしこうした成功例はまだ多くはない。
国連は「技術を生み出す企業などに世界中から投資を集める必要がある」と訴えている。
(ケニア カマウ国連大使)
「技術革新の分野では7兆ドルが必要だ。
それによってこのプロジェクトは初めて持続可能な道になる。」
世界の企業をまき込み
新たな技術や知恵を貧困解消など世界が抱える問題に振り向けることができるのか。
チャレンジは続く。
5月17日 国際報道2017
カジノの売り上げ世界一を誇るマカオで開かれた展示会。
欧米やアジアなどから関連企業約180社が参加した。
会場には各社が独自に開発したスロットマシーンやルーレットなど最新の機器がずらりと展示された。
展示会に参加している多くの企業が進出に強い意欲を示していたのが将来の日本の市場である。
去年
日本でカジノを含むIR・統合型リゾート施設の整備推進法が成立したことを受け
各社は日本の市場に熱い視線を注いでいる。
独自のテーブルゲームを売り込んでいたアメリカのゲーム機器メーカーも
日本市場への期待を膨らませていた。
(米ゲーム機器メーカー担当者)
「日本の市場は3兆4,000億円から4兆5,000億円規模になる可能性があります。
日本へ絶対進出してみせますよ。」
日本の市場をテーマに
カジノ運営企業が参加した討論も行われた。
(マカオのカジノ運営企業 担当者)
「日本は経済規模の大きい国の中で“最後のフロンティア”です。」
独自の文化や食・おもてなしの心がある日本は
カジノにホテルや劇場などを併設した統合型リゾート施設に最適だとの意見が出され
高い期待が示された。
マカオの大手家事の運営企業の幹部は
“ギャンブル依存症などへの対策は万全を期す”と強調した。
(大手家事の運営企業 フランシス・ルイ副会長)
「われわれには問題を最小化するための制度や機器・ノウハウがあります。
日本の文化と国際的な勧告を組み合わせ
1+1が3になるような施設を作れますよ。」
日本では賛否両論あるカジノ解禁。
それでも各国の関連企業は手ぐすねを引いて待ち受けている。
5月17日 おはよう日本
東京都内のホテルで開かれた会員制のシンポジウム。
この日講演したのがエコノミスト誌の編集局長 ダニエル・フランクリン氏。
フランクリンさんが企画した「2050年の技術」。
テクノロジーが医療やエネルギー
AI(人工知能)から教育までをどのように変えていくのかを予測している。
Q.なぜテクノロジーに注目を?
(「エコノミスト」誌編集局長 ダニエル・フランクリン氏)
「テクノロジーは間違いなくあらゆるものに影響を及ぼす。
ニライのテクノロジーを予測することで
実現可能なこと
今起きていること
我々の生活やビジネスを形作るものが見えて
未来に向けてより良い準備を始められる。」
新しいテクノロジーは突然登場するわけではなく
ある特定の集団を注意深く見ると先行事例があり
予測が可能だという。
一部の専門家は
2000年代前半の日本のガラケーの使い方を見て
その後のスマートフォン全盛時代を予感していたという。
(「エコノミスト」誌編集局長 ダニエル・フランクリン氏)
「日本の女子高生は熱心な“ケータイ”ユーザーだった。
女子高生がテクノロジーをどう利用しているか当時注目されていた。
アメリカの技術雑誌が“女子高生ウォッチ”というコラムを掲載していたほどだ。」
グローバル化の進展にともない先進国の多くの製造業が厳しい競争にさらされている。
しかしフランクリンさんは
3Dプリンターや炭素繊維を加工する技術の登場によって
意外にも20150年には製造業が盛り返すと予測している。
(「エコノミスト」誌編集局長 ダニエル・フランクリン氏)
「今後数十年のうちに新たな素材によって製造業に新しい可能性が開かれる。
製造業は3Dプリンターなどの創意あふれる技術によって変わっていく。
すでにBMWはセーターのように炭素繊維を編んで車を作っている。
こうなると安い労働力を求めて海外に発注することは必要ではなく
最も優れた技術者がいる場所に工場を設ければよい。」
「大切なのは
何が可能で未来はどこに行きつくのかビジョンを持つことだ。」
ガラケーでのメールやゲームなどの使い方が
2007年にiPhoneが登場する先読みになった。
フランクリンさんは日本の高い技術力を評価していた。
一方で
激しい変化に対応していくためには何よりも柔軟になることが大事だ」と語っていた。
5月26日 編集手帳
永六輔さんが所用で京都を訪ねた。
タクシーは三千院の前を通る。
「昔はいい所でしたがね」と運転手さんが言った。
「くだらない歌のせいで混雑して困ったものです」。
♪ 京都大原三千院 恋に疲れた女がひとり…。
男性コーラスのデューク・エイセスが歌った『女ひとり』である。
運転手さんは、
乗せた客が作詞した当人だとは気づかなかったらしい。
「座席で小さくなってました」。
永さんは当時の三千院門主、
小堀光(こう)詮(せん)さんとの対談で楽しそうに回想している。
くだらないどころか、
人を引き寄せてやまないほど心にしみ入る名曲なのでしょうね、
運転手さん。
グループ結成から62年、
デューク・エイセスが今年いっぱいで活動を終えるという。
三千院に限るまい。
『遠くへ行きたい』を聴いては知らない街にあこがれ
、『いい湯だな』を聴いては湯気のひとしずくに心ひかれ、
どれほど多くの人がその歌声に誘われて旅に出たことだろう。
いい季節を迎えた。
恋に疲れた女の、
素描(すが)きの帯は池の水面(みなも)に映っているか。
言霊(ことだま)が幸福をもたらす国である。
「そうだ京都、
行こう」と、
言うだけは言ってみる。
5月25日 編集手帳
戦前の名アナウンサー、
NHKの松内則三(まつうちのりぞう)さんは慶応大学の出身だった。
野球の早慶戦をラジオで中継したときのこと。
接戦を制した早稲田をたたえ、
思わずマイクに絶叫した。
「敵ながら、
あっぱれ」。
血の通った人間のぬくもりが感じられて、
ちょっと楽しい。
大相撲の夏場所を見ていて、
その逸話を思い出した。
3日目(16日)の横綱稀勢の里―平幕千代の国戦である。
俵に追いつめられた横綱にアナウンサーが叫んだ。
「稀勢の里、
危ない!」。
先場所、
左肩付近を負傷し、
表彰式で抱く賜杯の重みにさえ苦悶(くもん)の表情を見せた横綱である。
「痛い」「つらい」を言わず、
完治にほど遠い身で土俵を務める姿に、
そのひと言が漏れたのだろう。
千代の国関には申し訳ないが、
小欄も「危ない!」と叫んだクチである。
人間らしくてほほえましい印象とともに、
実況アナ氏の声が耳に残った。
けがは、
やはり重かったらしい。
稀勢の里関がきのう11日目から休場した。
松内さんは、
大相撲の実況で自作の川柳を披露したこともある。
〈国技館たった二人にこの騒ぎ〉。
“騒ぎ”を連れて土俵に帰ってくる日を待つ。