CubとSRと

ただの日記

遠野の晩

2019年02月22日 | バイク 車 ツーリング
 続きです。
 土砂降りと雷鳴の中の3時間余り。停まることもできず、地図でどの辺を走っているのかという確認さえできず、ひたすら東へ東へと進み、やっとの思いで雨宿りと思ったら、バス停の小屋は壁だけで、屋根がなかった。
 呆れてしまって、可笑しくなって、すっかり諦めてしまって、東進を続けたら、あれだけひどかった雨と雷鳴が次第に離れて行く。
 そして空に一箇所、青さが見えたと思ったら見る見るうちに雲が切れ始め、陽射しがそこかしこに見え始めました。
 その間、15分ほど。
 あの雨は一体何だったんでしょう。
 これではまるで狐にだまされた大石兵六(ひょうろく)。
 けど、この陽射しだけで、それまでの数時間の重い気持ちが、文字通り「雲散霧消」してしまいます。
 あれから20年以上経つのに、今でもこれが一番印象に残っています。
 さて、遠野。
 すっかり乾いてしまったとは言え、雨具のまま案内所に行く。
 駅で紹介された民宿は、駅のすぐそばで、すぐに分かりましたが、何しろ雨上がりの雨具を着けたまま。
 声をかけ、確認すると、すぐ部屋へと言われる。
 雨具を脱いで入らなきゃ、と雨具を玄関で脱ぎ始めたら、いいですよ、そのままで、と言われる。
 そうは言われても、もしかして濡れたところが残っていて、しずくが落ちたら、部屋が汚れる。
 その旨を言うと
 「大体、バイクの人はみんな行儀が良いねえ」
 と返って来る。
 何のことだと思ったら、普通は少々濡れていても、そのまま「客だから」と上がって来る。中には、濡れた傘を、しずくを落としながらそのまま部屋に持って行く人もいる。
 けど、バイクの人は必ず気を遣って、玄関で断りを言う・・・のだそうです。
 何だか自分が過分に褒められたようなうれしさです。
 何しろ心細い3時間余りでしたから、よけいにそんな一言がうれしくなるんでしょうか。
 昔々、「お客様は神様です」と三波春夫が言いました。
 今は誰でも「私は客よ!」と言います。「客だから~してもらって当たり前」と言う。 
 「役人は公僕でしょう?公僕というのは国民の僕(しもべ)ということですよ!」と、よく口にするMという人気キャスター(?)もいます。
 けど、「客だからサービスしろ」「公僕なんだから国民の言うことを聞け」というのを、客が、或いは国民が声高に主張する先には「高いサービス料を払った者だけが、客」「高額納税者のみが国民」という価値観が待っている。
 最近は「景品を差し上げます」というところ、「~がもらえます!」なんて平気でやっている。乞食じゃないぞ。これまた、卑しいブーメラン。
 あ、脱線した。
 その日の泊り客は二、三人だったでしょうか。その中の一人は正反対の釜石方面から西進して来たライダーでした。
 夕食時から、民宿の主人と三人で、一杯やりながら話をする。
 この主人の話が殊の外面白い。
 ここで「遠野は民話の宝庫」と言われるようになった理由を得心しました。この主人、只者ではない。
 遠野はその昔、交通の要衝だったのだそうです。
 
 「民話の宝庫」「民話のふるさと」などと言われると、何となし「時間がゆっくりと流れている」とか「時が止まったような町」とか表現されることが多い。
 そんな印象があるでしょう?
 私の生まれ育った「知名度の低さNO,1」に輝いたこともある県なんか、東京や大阪から来た有名人は、判を捺したようにこれを言う。それを聞くと心の中で(ちゃんと普通に生きておるわい!)と憎まれ口を叩きます。
 遠野は南北に走る街道と、山と海を結ぶ街道の交差する所にある町です。
 「今でこそ寂れた街だけれど鉄道が敷かれる前には、荷物を満載にした馬車が行き交う賑やかな街だった。海から山へ、山から海へと行き来する時の中継地で、同時に山中を南北に往来する人が海からの物を手に入れる場所が遠野だった。博労らがここに泊まり、ここで遊び、するうちに各地の情報が交換される。民話もそうやってここに伝えられたのですよ。だから、遠野は民話が生まれたのではなく、集まったところなんだよ」
 この話は説得力がありました。
 前回の日記の初めの方で「何故、遠野ばかりが民話の宝庫のように~」と書いた通り、似たような話は各地にあるからです。もっと言えば、「遠野にしかない」といった話は、ない、と言ってもいい。何だか変だと引っ掛かっていたことが、これを聞いて納得できました。
 こんな話を聞けるのも旅の楽しみ。それも、一人のバイクツーリングならでは。
 立派な旅館で、心尽くしの「おもてなし」、をされるのとは違った満足感があります。
 (心尽くしのおもてなし、なんて旅館、実は泊まったこと、ないんですけど)
 というわけで、遠野の夜は更けていくわけですが。

コメント
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