鉄道ファンなら誰でも知っている「ハイケンスのセレナーデ」。いまは聞くことができる列車も稀になりました。鉄道ファン以外の方なら、ただのアナウンス前のお知らせチャイムで、気付くことはないこのメロディー。私自身、寝台特急「はやぶさ」や「北斗星」に乗ったことがありますが、そのチャイムが流れたときに、とりわけ感慨深いとかいう気分ではありませんでした。
最近になってその秘話を知りました。「ハイケンス」は人名です。ジョニー・ハイケンスはオランダの作曲家で、ベルギーのブリュッセル音楽院を経て、楽団を設立して指揮者としてヨーロッパで活躍しました。その曲風は台頭してきたナチス・ドイツから好まれ、数々の楽曲を提供したようです。戦争末期に母国オランダに帰国しますが、ナチス・ドイツに協力した罪で収監されてしまい、数々の楽曲とともに闇に葬られました。
日本で「ハイケンスのセレナーデ」が使われるようになったのは、日本とドイツが軍事同盟を締結していたことに起因するようです。使われ始めたのが1943年のラジオ番組「前線へ送る夕(ゆうべ)」でした。当時の日本の電波事情は悪く、この番組が聞くことができたのはもっぱら国内だったそうです。戦後は復興の曲として歌詞が付けられ、小学校の音楽教材として親しまれました。明るく軽快な旋律は、国鉄でも車内放送用チャイムとして採用され機関車の牽引する客車で使われました。
現在残っている彼の作品は「ハイケンスのセレナーデ」一曲のみです。Youtubeでハイケンスと検索するとウィーン管弦楽団の演奏など動画がいくつか出てきます。音楽家として精一杯生きた潔さが旋律ににじみ出ていると思います(就職指導室・徳永)。