ゼフィルスに想いをはせる人がいるように、アサギマダラやギフチョウに想いをはせる人がいます。そんな中でも国蝶オオムラサキは特別の蝶かもしれません。北海道から九州まで日本各地に分布し、保護活動をしてる地域や会はたくさんあります。高山や深山ではなく、比較的人の生活環境に近い雑木林や里山が棲息地というのも身近な存在として親しめる要因かと思います。といっても、東京都市部ではほぼ絶滅状態。雑木林の減少や食樹のエノキの減少、あっても公園などでは落ち葉を全て除去してしまうため、幼虫が越冬できないなどの理由があるのでしょう。エノキの落ち葉の裏にいる幼虫も除去されてしまうからです。
ゼフィルスを追いかけているある日、目の前の樹にバッサバッサと大きな羽音を立てて一頭の蝶が留まりました。羽音が聞こえるほどの蝶というのは、日本では他にはいません。ゼフィルスばかり見ていた目には、猫と象ぐらいの違いに見えるほど大きく逞しく映りました。しかし、微妙に届かないほどの樹上のため寄れません。なんとか腕をめいっぱい伸ばして撮影したのが、このカットです。後翅のコーラルピンクの粗ポットがオオムラサキの証明です。
幼虫がエノキの葉を食べるのは知られていますが、成虫は花の蜜は吸わずに、クヌギやコナラといった広葉樹の樹液を吸います。そのため、樹液の周りでカブトムシヤやオオスズメバチなどを大きな翅で追い払っている姿も見かけます。しかし、同じ場所にオオスズメバチがいると、生態写真としては大変面白いのですが、撮影には厄介です。
縄張り飛翔は、主に午後行われますが、その時の縄張り争いの激しさは見応えがあります。一度などは、勢い余ってツバメを追いかけている姿さえ見たことがあります。なかなか気性の激しい蝶です。ある蝶マニアの方は、指で翅をつまもうとしたら、払いのけるようにして飛び去ったと言っていました。驚くほど力強かったそうです。
国蝶といってもベトナム北部から中国東北地方にまで及ぶ東アジアの広域分布種であって、日本の固有種ではないのですが、里山の環境が保全されているかの指標になる蝶のひとつとして、これからも注目されるべき蝶でしょう。
ところで、このオオムラサキですが、翅の表を見せてくれることもなく大空へと飛び去ってしまいました。樹液を吸いにくる樹はいくつか分かっているので、気長にチャンスを待ちたいと思います。
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