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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

錦秋の米子大瀑布へ。瀑布の上にある幻のソブ池探索も。「続日本紀」に記述のある米子硫黄鉱山(妻女山里山通信)

2015-10-21 | アウトドア・ネイチャーフォト
 米子大瀑布周辺が紅葉のピークを迎えているというので、早朝に出発。駐車場には7時過ぎに到着しました。既に数台の車がいました。途中、ニホンザルとホンドリスに出遭いました。米子大瀑布は北向きのため、昼になると太陽の光が強くなり、滝部分が非常に暗くなってしまうのです。それを知っているカメラマンは、早朝から登るのです。
 米子大瀑布を「よなご」と読む人がいますが、正しくは「よなこ」で濁りません。ヨナは、文字通り米ですが、他に古くは火山灰や砂地を意味し、コは此処を意味します。(地名語源辞典)米子という地名が日本海側に多いというのは、またなにか古代からの地理的な交易や移動の証なのかもしれません。
 ここには近代日本の遺産ともいうべき米子鉱山跡が残っています。その起源は古く、江戸初期ともいわれていますが、日本三大不動尊の一つ米子不動尊(瀧澤山家原院如来寺→米子瀧山威徳院不動寺)が奈良時代に行基により開山された古刹であるということを考えると、もっと古くから採掘されていた可能性もあります。修験者というのが、鉱山を発見する特殊能力を持った者の集まりだからです。また、奇妙滝のある奇妙山は仏教用語の「帰命」が転訛して奇妙となったもので、木食信仰遺跡があることからも、深山でありながら人の出入りはかなりあったと考えられます。そう思って調べると、8世紀の「続日本紀(しょくにほんぎ)」に、当時信濃国から朝廷へ石硫黄の献上があったことが記されていると分かりました。これは米子鉱山のことと推察されます。

 撮影のために、滝方面ではなく鉱山跡地を目指します。普通は、四阿から下りが30分、登りが40分ぐらいですが、急いで登ったので19分で四阿へ。小字名がお花畑という鉱山跡地では近すぎて望遠が使えず自然なパノラマ写真が作れないため、四阿の岩の上に三脚を立てて撮影。二枚のカットをつなげてあります。朝8時前だと陽光は滝の真後ろではなく、左手の横から差し込みます。拙書の写真は真夏に撮影したので、ほぼ大瀑布全体に陽光が当たっています。この後、滝の上部に霧が巻いてきましたが、ほどなく消えました。もちろんそれも撮影しました。霧がかかった大瀑布も趣があり、いいものです。青空をバックにギラギラに彩度の高い紅葉は、むしろ和の趣ではありません。撮影をこの日に選んだのも、午前中が薄曇りの予報だったからです。
 万葉集には、錦秋の「もみじ」を詠んだ歌は100首以上あるのですが、そのほとんどが紅葉ではなく黄葉なのです。紅色よりも黄金色を好んだということなのでしょうか。ただ区別がなかったという説もあります。神話の世界では、赤・白・青・黒の4色が主流ですが、中国から仏教が伝来し、黄色が皇帝しか使えない高貴な色ということが影響を与えたのでしょうか。古事記に出てくる神話の黄泉国(よみのくに)というのも、後世に作られた物語ですし。そんな万葉集から一句。
「秋山の、黄葉(もみぢ)を茂み、惑ひぬる、妹を求めむ、山道(やまぢ)知らずも」柿本人麻呂
 秋山の黄葉(もみぢ)が繁っているので、迷ってしまった妻を探そうにも、山道が分からない。(妻を亡くして哀しむ歌)


 お花畑という地名の鉱山跡地から南の大黒沢を見たところ(左)。左奥に根子岳が見えます。この沢を詰めて左に登ると浦倉山へ。右へ登って滝の上部のカルデラ内を行くと根子岳、四阿山へ。米子大瀑布からカルデラを一周すると、約23キロ。10時間ぐらいかかりますが、トレランの速い人だと4時間ぐらいで回ってしまうと、駐車場の売店のおばさんが話していました。驚異的なスピードです。彼女の好意で、拙書のパンフレットも置かせていただきました。
 今回は、上からのカットの撮影と、以前から行きたかったソブ池探索が目的で、大黒沢に入りました(中)。途中には、イワカガミやシラタマノキ、古事記や万葉集にも登場するヒカゲノカズラが見られます。浦倉山方面へ、つづら折れで急斜面を登ること20分。展望地に着きました(右)。根子岳北部のザレ岩方面を見たカットです。根子岳へは、まず向かいの台地に登り、カルデラ内を横断していきます。

 その展望地から、鉱山跡地を見下ろしたところ。ちょうど座って見られる岩があるのです(左が絶壁転落注意)。ここからの眺めは本当に素晴らしいものです。遠く須坂市街も見えます。まずソブ池に向かいましたが、帰りには15分ほど岩に腰掛けて撮影したり、ぼーっと景色を眺めていました。

 展望地からほんのわずか登り、【←浦倉山(群馬県境)】とある標識のところを右へ入ります(左)。一応笹は刈ってあるのですが、15~30センチぐらい出ていて歩きにくい事(中)。始めは、右側が急斜面なので踏み外さないよう注意が必要な箇所もあります。やがて、道は落葉松林の台地の中へ(右)。涸れ沢を越えたり、湿地の小沢を飛び越えたり、難儀しながら進むこと11分。ソブ池に着きました。

 ソブ池。ここの小字名は野猿田(やえんだ)なので、野猿田池とも。むしろソブ池の方が俗称なのでしょう。浮いているのは落葉松の落ち葉。どけると水は透明で底が見えます。飲用水だったというので、すくって飲んでみました。極普通の軟水で、大黒沢や権現沢の様な酸味の強い鉱毒水ではありませんでした。ただ、若干硫黄の味がします。飲料水に使うのは厳しいかも。浦倉山からの下山中に飲んだウラノ沢上部の水場の方がはるかに美味でしたが。実際はウラノ沢の水を引いて飲料水としていた様です。
 「ソブ」というのは、以前「みすずかる信濃」と「高師小僧(たかしこぞう)」の関係を調べていたときに知った「赤渋(アカシブ・アカソブ・アカソボ・アカシボ)」のことではないかと思ったのです。米子鉱山の産出物は、石硫黄、蝋石、ダイアスポア(藤石)などの他に褐鉄鋼も産出していました。四阿山系の川では、渓流の水が金気が強くて飲めないものがありますし、鉱毒水は現在も米子川に流れ込んで汚染を続けています。
 つまり「ソブ池」とは、褐鉄鋼により底が赤く染まった「赤渋池」のことではと思ったのです。しかし、金気水では飲料水にはなりません。そこでさらに調べると、そもそも「赤渋」というのはアイヌ語で、水の箱(底が岩盤の池)を意味する「ワァカウォプ」が転訛したものという説がありました。この周囲の落葉松林には、鉱山の遺構があちこちに残っています。

 鉱山跡地のお花畑(跡地の小字名)に戻って花の撮影。遊歩道脇にたくさん咲いていたタンポポの様な花(左)。セイヨウタンポポは秋に咲くこともありますが、総苞が反り返っていません。茎も違います。たぶん欧州原産の帰化植物のブタナ(豚菜)でしょう。別名をタンポポモドキといい、環境省の要注意外来生物リストに載っています。豚菜は、フランス名の直訳。ノコンギク(野紺菊)もあちこちに見られました(中)。種内での形態変異が大きい植物です。お花畑にポツンポツンと見られたマツヨイグサ(待宵草)。白花が混じっているのはどういうことなんでしょう。仲間の月見草との交雑種か。不明です。アカツメクサでキタキチョウが盛んに吸蜜していました。

 落差75mの権現滝。古来より権現滝は、黒龍の滝と呼ばれ、男滝ともいいます。方や不動滝は白龍の滝、女滝ともいわれ、両者で双龍の滝、夫婦滝といわれます。拙書では、山頂はありませんが、ハイキングコースとして非常に面白いので特別に載せてあります。米子大瀑布周遊コースだけでなく、根子岳や浦倉山への詳しいコース地図も掲載しています。他のガイドブックと異なり、国土地理院の承認を得て私自身が地形図にコースや説明を書き入れており、シンプルで分かりやすいと評判を得ています。トレッキングの際は、コピーして持参し、自分なりの情報を書き入れてください。

 午後になると陽が当たる、お花畑東の泉坑山の紅葉。この上部にも鉱山跡の坑道が見られます。昼近くになって、観光客の数が増えました。お洒落な山ガールの姿も結構見られました。皆、お花畑の縁に腰を下ろして、大瀑布を眺めたり、お昼を食べています。午後になると風が出て落ち葉が舞い始めます。紅葉シーズン中は土日祝日はマイカー規制。平日でも駐車場は満車になるので、早いお出かけをお勧めします。周遊コースは、未舗装で浮石もあり、泥濘状態のところもあります。必ずトレッキングの装備で。林道走行は、対向車に注意。ガードレールのないところが多いのでスピードは控えめに。曇りの日は昼間でも点灯を。自分が前方を見るためでなく、自分の存在を相手に知らせるため。これを知らないドライバーが多い。長い下りの坂道ではエンジンブレーキの併用を。これも知らない人が多い。安全運転を!

米子大瀑布-根子岳-四阿山-浦倉山-米子大瀑布【四阿山カルデラ周回コース】約23キロ10時間のロングコース。ハイビジョンです。ぜひフルスクリーンでご覧ください! 拙書でもこのコースは、写真と地図と文章で詳しく紹介しています。



『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。詳細は、『信州の里山トレッキング 東北信編』は、こんな楽しい本です(妻女山里山通信)をご覧ください。Amazonでも買えます。本の上のなか見検索をクリックすると、20pほどがご覧いただけます。でも、できれば地元の書店さんを元気にして欲しいです。パノラマ写真、花や昆虫のマクロ写真など668点の豊富な写真と自然、歴史、雑学がテンコ盛り。コースの写真が文章とリンクしており、分かりやすいと評判の国土地理院の地形図を加工したガイドマップと共に好評です。その山の名前の由来や歴史をまず書いているので、歴史マニアにもお勧めします。
 本の概要は、こちらの記事を御覧ください
お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。

10月25日(日)に、中尾山--茶臼山ハイキングが行われます。
受付:午前8時から
集合場所:黒木学園カレッジオブキャリア共和校グランド(旧共和小学校校庭)駐車場はグラウンド。係員の誘導に従ってください。
出発式:午前8時半から9時
出発:午前9時
中尾山--茶臼山の一本松コースと山麓アップルコースがあります。
私は一本松コースのインストラクターをします。昨年、一本松コースは100名ほどの参加でした。初参加の方が半数以上です。当日参加も可能です。
昨年は5歳ぐらいの女の子も参加していました。初心者向けのコースです。
交流会:正午から。恐竜公園内「童謡の森」昼食、ミニ講演、歌の後、1時半頃解散となります。
持ち物:昼食、飲み物、箸、雨具など。昼はきのこ汁が出ます。リンゴや牛乳のプレゼントも。
拙書『信州の里山トレッキング 東北信編』の販売もあります。川辺書林さんのご好意で多少ディスカウントされるようです。
◉お問い合わせ:026-292-6009(中尾山ハイキング実行委員会)

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国分寺・国立70Sグラフィティ』村上春樹さんの国分寺「ピーター・キャット」の想い出。はてなブログに移動しました。順次アップしていきます。ブックマークの更新をお願いします。

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