前回紹介した妻女山陣場平の貝母が予想通り満開になりました。10日に満開と異常に早かった昨年と比べるとほぼ平年並みといえます。今日は曇りがちで北風が強く、最高気温も12度でした。貝母は丸まった葉先で互いを結び合いながら強風に揺れていました。見頃は今月いっぱいですが、天候が良ければゴールデン・ウィークの中頃まで見られるかもしれません。現在は自然写真家ですが、若い頃はアイドル雑誌のデザインをしたり撮影のディレクションもしていました。貝母と美女の撮影もしてみたいですね。あんずの花には童女が似合いますが、貝母には三十代以上の女性が似合うと思います。そんな慎ましやかな美しい趣のある花です。
貝母の和名は編笠百合ですが、下から花の中を除くとその理由が分かります。4月の茶花で慎ましやかな美しい花ですが、呼吸器や中枢神経に麻痺を起こすかなり強い毒草です。決して持ち帰らないでください。
満開と書きましたが、実際は天頂部がまだつぼみのものもあります。ゴールデン・ウィーク突入の29日、30日は完全に開いて見頃でしょう。
「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」丈部(はせつかべ・はせべ)真麻呂(万葉集)
これが貝母のことであるという説があります。薬用に持ち込まれたのが江戸時代なのでしょうか。丈部真麻呂は、遠江国山名郡(現在の静岡県袋井市)で徴兵され九州に派遣され国境警備にあたった兵士・防人(さきもり)でした。
意味は、季節ごとに花は咲くのに、どうして母という花は咲かないのだろうか(咲くのだったら摘み取って共に行くのに)。防人というのは、21歳から60歳までの健康な男子が徴兵されました。任期は三年で、延長もされたそうです。食料・武器は自弁で帰郷は一人で帰るため、途中で野垂れ死ぬ者も少なくなかったとか。人民には重い負担になったようです。
貝母の群生地のある陣場平。第四次川中島の戦いの際に、上杉謙信が陣城を建てたと伝わる場所です。行き方は拙書に地図を載せています。群生地は、陣場平の南半分にあるのですが、手前にヨシとノイバラの群生地ができ貝母を侵食し始めたため、昨年、妻女山里山デザイン・プロジェクトのメンバーを中心に何度も通って根の除去作業をしました。そして、その後に貝母の種や球根を蒔いたり植えたりしたのですが、それらが芽を出しました。上手く行けば数年後には群生地が二倍ぐらいに拡大するかもしれません。
(左)オオヤマザクラ(ベニヤマザクラ)も開花。(中)ズミも満開です。(右)林道沿いにはキブシ。
(左)ウスバシロチョウの食草であるシロバナケマン。(中)エゾスミレに続いてタチツボスミレも咲き始めました。(右)さらに20分ほど登ってカタクリの群生地へ。盛りは過ぎていましたが、これから咲くものもありました。タチツボスミレもそうですが、アリが種に付いているエライオソーム(脂肪酸や高級炭水化物などが大量に含まれる)を求めて巣に運び食べた後に種を外に蒔くことで増えるアリ散布植物です。日本には200種以上あります。アリさんは偉い。
「もののふの 八十(やそ)乙女らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子(かたかご)の花」大伴家持(万葉集)
当維持29歳の大伴家持が、赴任先の越中国府の伏木(現在の富山県高岡市伏木に5年間赴任)で、寺井の井戸(井泉の跡と歌碑がある)の周りにたくさん咲くカタクリを宮中の乙女になぞらえ、都を懐かしんで詠んだ歌だといいます。そう思うと写真のカタクリが、美しい乙女に見えてくるから不思議です。
キブシの玉暖簾。木々の芽吹きも一斉に始まりました。
妻女山松代招魂社のソメイヨシノは散り始めています。山桜が咲きだすのはこれからです。
妻女山展望台から松代方面。松代城のソメイヨシノも散り始めているでしょう。強風で花吹雪が見られたかもしれません。
展望台からの下り。ヒノキの芽吹きで春紅葉が見られます。道路上は散った桜の花びらの絨毯。
(左)山上はまだ蕾でしたが、麓の山吹は満開でした。(中)妻女山里山デザイン・プロジェクトの面々とやっている椎茸の原木栽培。このところの雨で大きく成長していました。大きな袋いっぱい採って干し椎茸にします。(右)山菜の季節が到来。左から時計回りにコゴミ、タラの芽、椎茸、コシアブラ、ハリギリ。
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