経験者は分かると思いますが、幼児を寝かせつけるというのは結構大変なもので、御伽話(おとぎばなし)なんぞはいい題材なのですが、なにせこちらも疲れていたりすると、桃太郎の話に金太郎が出てきたり、桃太郎が鬼に負けてしまったり、挙げ句の果てには宇宙へ消えてしまったりと、途方もないものになったりしたものです。
そして、もっともっとという際限のない要求にも参ったものですが、そんなとき便利なのがこのお話でした。二歳ぐらいでしたか、なぜかこの話を長男はえらく気に入ったようで、ある日電車の中で始めたそうです。
「むかしむかしあところに、(るが言えない)おじいさんとおばあさんがいました……おしまい。」というものです。隣に座っていた女子大生とおぼしき女性が思わず吹き出してしまったそうです。
そこで、吹き出しつながりで南米文学です。冬の夜長に久しぶりに読み始めました。著者は、元国際ペン会長、大統領候補、大爆笑、シネマ。なにか結びつかないような感じです。もう二十数年前のことです。みなそうするように私もよく通勤電車の中で本を読みました。あるとき買ったばかりの南米文学のハードバックを読んでいました。とにかく面白い本で、時折クスクスと笑いながら読んでいたのです。
そして、ある部分にさしかかった時にこらえきれずにガハハハハッと大爆笑してしまったのです。周りの人はビックリですね。いや恥ずかしかったです。そんな面白い本はなに?って思った人もいるでしょう。さすがにそれ以降は読めなくなってしまいましたが、内心はああ読みたい!今すぐ読みたいと思っていました。
ここまで読んで、あああれかと思った方はかなりの南米文学通? 本は、マリオ・ヴァルガス・リョサの『パンタレオン大尉と女たち』高見英一訳《新潮・現代文学の世界》です。原題は、PANTALEON Y LAS VISITADORASですから、パンタレオンと訪問者たち。英訳本は、CAPTAIN PANTOJA AND SPECIAL SERVICEです。これも意味深な、しかし意味が分かると爆笑もののタイトルです。
この本は既に絶版になっていて古書店では定価より高い値段で売られているとか。シリーズものですから、大きな図書館ならあると思います。内容は、くそがつくほど生真面目なパンタレオン・パントハ大尉が極めて優れた事務処理能力を買われ、軍人のための慰安婦部隊を密林内部に設定するよう命じられて、アマゾンジャングルの奥地に赴くのです。彼はしごく真面目に任務を遂行し、やがて指揮する慰安婦部隊は国内最大の売春施設へと発展していくのですが…。あとは読むことをお勧めします。面白いだけでなく、強烈な風刺や人間観察の鋭さもあって充分読み応えがあります。アマゾンに行ったことがあれば更に数倍は楽しめるかもしれません。舞台はイキートスですが、私はかつて魔都と呼ばれたマナウスのジャングルと街を思い出します。
ただ、文章は映画的手法が使われていて、突然場面が変わったり、インサートされたり飛んだりとするので、そのつもりで読んでいかないと、なにがなんだか分からなくなります。まるでヴアルガス・リョサは、これを映画化することを念頭において書いたかのようですが、実際に「囚われの女たち」という邦題でDVDにもなっています。これは、まだ観ていないのでぜひ手に入れて観たいと思っています。
ヴアルガス・リョサ?知らないなあという方も、フジモリ氏と大統領選挙を戦って破れた人というと、ああそうかと思うかも知れません。もうひとりの南米文学の巨匠、ガルシア・マルケス(鞄じゃないですよ)とは、仲が悪いので有名? 私は両方読みますが…。ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は、三ヶ月かかって読んだ記憶があります。圧倒的な孤独と魔術的リアリズムの世界を堪能できます。私は彼の短編集が好きです。『無垢なエレンディラと無情な祖母の悲惨な物語』は、その中でも特に好きな作品。映画化もされましたが、これも秀作でした。ビデオを買って何度も観ています。
そのほかにも、ロザ・ドノーソ、マヌエル・プイグ、A・カンペティエール、ボルヘスなどなど、冬の夜長に南米文学。きっとはまります。
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