族長の調子がおかしいという話がみんなに広まってはまずい。今は、将来を見て、アシメックが次の族長にシュコックを選んだということだけを伝えておいた。役男たちの間には、それに異論を唱えるやつはいなかった。シュコックは、イタカの野に溝を掘ることに、一番先に賛成したからだ。
シュコックに引継ぎをしながら、アシメックは自分が前の族長の引継ぎを受けた時のことを思い出していた。あの時の族長はかなり老いていた。まだ生きていたが、収穫祭の踊りなどはもううまくできなくなっていた。家の中で踊りの所作を教えてもらいながら、前の族長の目が老いに濁り、よく見えなくなっていることに若いアシメックは気付いた。
あの族長と比べれば、今のアシメックはまだ若く見えた。目も濁っていないし、肌にも張りがある。時々目眩がして動けなくなるくらいだ。だが、死の予感はひたひたと迫っていた。声が聞こえるのだ。あの、どこかから自分を呼ぶ声が。
ケバルライ
その意味は未だにわからない。だが、もうすぐわかるような予感がする。たぶん、それがわかったら、おれは終わりなのだろう。アルカラを思い出し、帰っていくにちがいない。
シュコックへの引継ぎは、冬中やった。収穫祭の踊りの所作も、だいたい伝えた。タモロ沼の稲植えのことも了解を得た。来年もやるのだ。ヤルスベの要求もこなし、みんなの食べる分の米をとるためには、タモロ沼の米も必要なのだ。歌垣の前にみんなで働くことなど、わけもないことだ。村の新しい習慣にしてしまえばいい。