世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ガラスのたまご・5

2015-02-06 06:35:48 | 瑠璃の小部屋

★詩人さんのかっこいいとこ

詩人ていえば、詩を書いてれば、詩人と言えると、思ってますか?

詩は、誰にでも書けるけれど、それだけで、詩人とは言えない。詩人さんは、詩人だ。だから、詩人なのだ。

詩人に必要なもの、それを知っていて、ちゃんと持っている。というか、勉強している。まじめにね。まじめなのが、詩人さんのいいとこだが、まじめにも、一応、区切りをおいとけよ、と言いたいほど、まじめなのだ。まあ、それだからこそ今、無職の暇人なのだけども。 

詩人に必要なのは、こころと、ことばだと、詩人さんは言う。具体的に言えば、教養だ。とにかく詩人さんは、たくさんのことを知っている。歴史、文学、芸術、哲学、信仰、愛、科学、神話、伝説、幻想、天文、地質、植物、動物、人間、神、道交法、刺繍のやり方、肉じゃがの作り方、洗濯物の分別法、タコ焼き機のナイスなメーカーの名前…

まあ、知識やことばを集めることは、趣味というかもう、呼吸だな。

詩人さんは詩人だから、詩を書く。そして詩の言葉で、言う。

読者よ、読書したまえ!!

詩人さんは子どもの頃から、読書家であった。なんでも興味を持ったものは、乱読していた。そういう地があるから、詩人ができるのだと、詩人さんは言うのだ。

だてに詩人を名乗っているわけではない。言葉を操るのは、詩人さんの情熱だ。心にある、言いたいことを、美しい隠喩に溶かし、炎のような直喩で突き、宝石や、星や、日や月や、砂漠の砂、菫色の空、緑の大地、ガラスの海、奈落の静寂、壊れた星のうめき、すべてを操って、いかにも、整った、正確な、言葉で、言い抜く。書き抜く。正鵠を、つく!!

ぴったりと、表現できたときは、快感だね!!

だから詩人さんは、画家さんに、言うのだ。

「君は、青空を焼きつけた、でっかい、岩だね」

だから詩人さんは、手品師さんに、言うのだ。

「君は、氷の中で、燃えている、藍玉の、炎だね」

実に、かっこいい!! 

詩人さんは、詩人なのだ。


★画家さんのかっこいいとこ

画家さんは、もともと、かっこいいが、もっと、かっこいいところがある。

絵を描く技術は当たり前。画家は絵を描くから、基礎はちゃんと学んでいる。かなり、勉強している。職業だからね。当たり前。技術があれば、絵は描ける。あとは、自分だ。

画家さんがかっこいいとこ。まずは、正義漢というとこだ。まっすぐなとこは、とにかくまっすぐだ。痛い奴には、文句があるなら、来いという。まあそれで、あんまり、売れてないんだけども。いろいろ、あるそうだ。世間とぶつかってね。女性は、別なようだけど。

女の子に好かれるのは、いいことだとは思うがね、画家さんは、黙ってよそを向く。そういうのは、苦手なのだ。

まあ、次に、かっこいいとこ。それは、胸が、ひろいということだ。背が高くて、実際に胸囲は大きいけれども、そういう意味じゃない。愛する時は、深く愛する。友達や、親戚や、知ってる人が、苦しんで、死にそうな叫びをあげている時、画家さんは、まっさきに飛んでゆく。

「大丈夫か!!」

倒れている人を、抱き上げる。そして、細やかに、世話をしてやる。その心と言ったら、やさしいとしか、言いようがないのだ。

そして画家さんは、本当に人を愛した時、心から、本当に、「愛している」というのだ。これは、画家さんにしか、できない。詩人さんは、詩で言う。手品師さんは、別の表現をする。画家さんだけだ。そのままの心を、胸の奥から取り出して、どっかりと、相手の前に、置くのは。

愛してる。おまえは、すごいやつだ。おまえは、いいやつだ!!

好きだよ、画家さん。たまらない。

だから、詩人さんは、画家さんに、自殺を考えたことは、言ってない。そんなことを言ったら、画家さんが、詩人さんを、どんなに深く愛するか、わからないからだ。

画家さんの、愛は、怖い。全てを包んでやろうとする。同じ痛みを、同じ量だけ、食べてやろうとする。抱きしめて、抱きしめて、抱きしめる。苦しい。

手品師さんは、そんな画家さんに、同じ男の匂いを、感じている。だけど、表現は違う。

画家さん、男だね!!

好きだよ!!


★手品師さんのかっこいいとこ

手品師さんの、かっこいいとこは、たくさんあるが、何よりも、怒ると怖い、ということである。

でも、滅多に怒らない。手品師さんは紳士で、人に対する態度もやさしく、とても親切だ。仕事では雄弁だが、友達の前ではいつも、静かに笑っている。

滅多に怒らない。めったに、おこらない。めっっっった、に、おこらない。

めったに、めったに、めーーーーーったに、おこらない。

手品師さんが怒ったらおしまいなのだ。

画家さんと詩人さんは、学生時代、手品師さんが怒ったところを、一回だけ、見たことがある。そのときのことは、あまり思い出したくない。

さすがの画家さんも、茫然とした。

詩人さんは目を閉じ、天を仰いで、アーメン、と言った。

おそろしいことが、起こったのだ。

どういうことが起こったのかって。はは。そんなこといえるわけないじゃないか。とんでもないことなんだ!ものすごいんだ!こんなの、あってたまるもんか!!

言いたくない。ほんとは。でも、こういうときは、詩人さんが役に立つ。詩人さんには、ひょうげんりょく、てのがあるからね。詩人さんのいうところによれば、それは、こういうことだったそうだ。

地べたに手をついて座り込み、額を土にぶつけて、

おみごとでございます!!

と叫びたくなるような、絶妙、かつ、正確なやり方で、がつんと、やったのだ。

暴力なんて必要ない。こわいのだ。手品師さんは…

友達同士で、会う時、手品師さんは時々、詩人さんを見て、微笑む時がある。詩人さんは、整ったきれいなことばで、自分の言いたいことを、正確に言ってくれるからだ。画家さんとは、あまり目を合わす必要はない。

だけど、手品師さんは、詩人さんが、「愛してる」っていう意味で使うことばを、まっっったく、同じ意味で、こういうのだ。

「馬鹿なやつは、死ね!!」

ご推察ください。賢明なる読者の皆さま。

こわいんです。

(つづく)




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