世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ガラスのたまご・15

2015-02-16 06:51:22 | 瑠璃の小部屋

★画家さんの今日

詩人さんが、詩の推敲を終えて一休みのコーヒーを飲んでいた時、画家さんから電話がきた。
「渡か? ちょっとアトリエにきてほしいんだけど」
「ええ? またモデル?」
「いや、今日は…」
画家さんは、渋る詩人さんをなんとか説得して、アトリエに来てもらうよう頼んだ。あの、例のホ○疑惑があって以来、詩人さんは画家さんのアトリエにはいきたがらないのだ。

でも画家さんの強引なとこには正直かなわない詩人さんなのである。何か重要な用でもあるんだろうと、のこのこと画家さんのアトリエに向かう詩人さんなのである。それほど遠くもないので、以前は気軽に通っていたのだが、今の詩人さんはやっぱり気が重い。画家さんの家へ向かいながらも、周囲の目が気にかかる。変なことを勘ぐられはしないかと。

そういう気分で、画家さんのアトリエについた詩人さんを待っていたのは、アトリエの壁にかけられた、大きな一枚の絵だった。一目見て詩人さんは言った。

「へえ、クレーだね。これ、モデルは光?」
「やっぱわかる。そう。あいつをイメージにしてみたんだけどな」
「いいじゃん、明るくて。これ自体ぱあっと光ってる感じがするよ。ほんとにヒカルだな」
「まあ、あいつはいつも光ってるからな」

そうそう、これなのだ、と忍さんは思う。画家さんは詩人さんのこの声がききたかったのだ。…へえ!いいじゃん!

「今度市立図書館が新築になるだろう。実はそこのホールに飾る絵、頼まれたんだ。これくらいの大作は結構金になるからな」
「タイトルはマジシャン?それとも手品師がいいかな?いや、魔法使いっていうのはどうだろう!」
「お、いい感じ」
絵を前にして楽しそうな二人である。

話しているうちに、また少し疲れを感じて、詩人さんはアトリエの椅子に座りこんで、深いため息を一つついた。その詩人さんの顔を見て、画家さんが言う。

「どうした? 顔が青いぞ?」
「いや、大丈夫だよ」
「すまん、まだ病み上がりだったな」

画家さんは、いいよと何度も遠慮する詩人さんを、家まで送っていった。「おぶってやろうか?」と本気で言う画家さんに、詩人さんはとんでもないと言った。二人で町を歩いているだけで、人に何を思われるかわからないのに。

「でも今日はいいもの見せてもらったよ。忍はすごいよ。あんな絵、誰にも描けない」
別れ際、詩人さんは言った。画家さんは嬉しかったが、それよりも詩人さんの顔の色が気になった。不安が胸をよぎって、ついまた、画家さんは言ってしまう。
「おまえ、死ぬなよ」

詩人さんは笑う。「わかってるよ」

(つづく)




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