(野原を流れる川を挟んで、二人のも
のが話し合っている。)
=おまえ おまえも こっち来い こっち来い
それ あほなんよ ものすごいあほなんよ
つらいんや ものすごいつらいんや
なあんでもないことや こっち来たら
すべてわかるよ ほんまよ
はよ来い はよ来い
あほはやめて はよこっち来い
=なあんていうんや
いやや それぜんぶあほや
いたいのはこっちや
ものすごいばかよ
そんなん いままでぜんぶ
あほやってきたのに みなあほになるやんか
あほやっていわれるの つらいんや
ぜんぶぜんぶあほやっていわれるの
いやなんや おれは
ばかにされとるみたいで おれはいやや
つらいわ とっととあっちいけ
=ちがうんや ちがうんや
おまえを あほといよんとちがうのよ
つらいんよ おれらはつらいんよ
つまりなあ おれらはみいなあほとちゃうんよ
あほとちゃうのに あほをやんよるのが
あほやていよんよ ほれがあほなんよ
ほなけんあほやめて こっち来いいうんや
かんたんや
小さい川 ひょいとまたいで こっちがわに来るだけなんよ
ほれだけでもう見えるもんがちがうよ
いたいんやない おれたちいたいんやないんよ
あっぱれにええもんなんや
つらいことはやめて こっち来い
=あんまりや あんまりや
あほは ほっちや
おれはなんやしたあないのんよ
ばかみたいにつらいことや いやなんや
べつになんでもないのんよ
あほうやったって おれたちはあっぱれなだけや
いたいもんはあほんなってつらいことなんでもするよ
いやなことでもなんでもするよ
でもあっぱれにおれはいやや
ばかにされるんはいやなんや
=なんでおれがばかにした
あほでないていうとるやないか
あほっていうのはな なんかいもいうけどな
あほやないのに あほをやっとるから
あほなんよ
いやなことやってるの おまえほんまはつらいんや
やりとうないのよ
ほれやのに じぶんをあほやとおもとるもんやから
つらあてつらあて あほやってんのよ
ほれだけなのよ
かんたんなんや おれはおれやてきづくだけなんや
ほれだけで おまえごっついええことがわかるよ
あっぱれにしてこっち来い
=つらいわ つらいわ
おれはいやや ものすごいつらいんや
いたいやつが ぜったいにつらいのよ
おまえも ごっついあほやったのに
なんでそっちいくだけで そうなるのよ
あほばっかりやってきて
いたいともおもわんと ずるい馬鹿ばっかりやってきて
ほんなやつが なんでそっちいくだけで
ばかにええやつになるんや
ほんなんなしや あっぱれにそっちがあほや
つらいだけや
=かんべんしいな ほれは
おれはたしかにあほやったけどな いまはそれがつらいんよ
いたいことでもなんでもして つらいことになっとるけど
ぜんぶあほになっとるけどな
いま ほんまにほれつらいとおもとるのや
おれはやるよ できるからや
あほやのうて まっとうなことが できるからよ
どんなつらいことやれていわれても
おれはやるよ いたあないよほんなこと
あっぱれにな こっちきたらおまえもそう思うよ
どんだけ どんだけ おれたちがあほやったか
みいなわかるよ
(両者の間に川がある。一方から見れば
それは花の野原をちょろちょろと流れ
る小さな川だが、一方から見ればそれ
は群青色に濁り蛇のように水が流れの
たうつ恐ろしげな川なのだ。)
=いやや おれは
あほみたいになるんは
ぜったいにそっちがばかや
いたいことになるんはおれたちやない おまえらのほうや
おれたちはずるいやつなのよ
ばかがえたいのしれんもん ぜんぶばかにするのよ
いたいやつは あっぱれにつらいわ
いたいもんつらいうちに あっちにいきな
(一方のもの溜息をつく。そして残念そ
うに肩を落としながら川に背を向け、
どこへともなく消えていく。残ったも
のは黙ったまま唇をかむ。とつぜんこ
ぶしをあげ、流れのきつい川に、わけ
のわからぬ獣のような叫び声を吐く。
行ってしまったものは、もう二度と帰
って来ない。)
=ばかはあっちや
(重い溜息の音。)
のが話し合っている。)
=おまえ おまえも こっち来い こっち来い
それ あほなんよ ものすごいあほなんよ
つらいんや ものすごいつらいんや
なあんでもないことや こっち来たら
すべてわかるよ ほんまよ
はよ来い はよ来い
あほはやめて はよこっち来い
=なあんていうんや
いやや それぜんぶあほや
いたいのはこっちや
ものすごいばかよ
そんなん いままでぜんぶ
あほやってきたのに みなあほになるやんか
あほやっていわれるの つらいんや
ぜんぶぜんぶあほやっていわれるの
いやなんや おれは
ばかにされとるみたいで おれはいやや
つらいわ とっととあっちいけ
=ちがうんや ちがうんや
おまえを あほといよんとちがうのよ
つらいんよ おれらはつらいんよ
つまりなあ おれらはみいなあほとちゃうんよ
あほとちゃうのに あほをやんよるのが
あほやていよんよ ほれがあほなんよ
ほなけんあほやめて こっち来いいうんや
かんたんや
小さい川 ひょいとまたいで こっちがわに来るだけなんよ
ほれだけでもう見えるもんがちがうよ
いたいんやない おれたちいたいんやないんよ
あっぱれにええもんなんや
つらいことはやめて こっち来い
=あんまりや あんまりや
あほは ほっちや
おれはなんやしたあないのんよ
ばかみたいにつらいことや いやなんや
べつになんでもないのんよ
あほうやったって おれたちはあっぱれなだけや
いたいもんはあほんなってつらいことなんでもするよ
いやなことでもなんでもするよ
でもあっぱれにおれはいやや
ばかにされるんはいやなんや
=なんでおれがばかにした
あほでないていうとるやないか
あほっていうのはな なんかいもいうけどな
あほやないのに あほをやっとるから
あほなんよ
いやなことやってるの おまえほんまはつらいんや
やりとうないのよ
ほれやのに じぶんをあほやとおもとるもんやから
つらあてつらあて あほやってんのよ
ほれだけなのよ
かんたんなんや おれはおれやてきづくだけなんや
ほれだけで おまえごっついええことがわかるよ
あっぱれにしてこっち来い
=つらいわ つらいわ
おれはいやや ものすごいつらいんや
いたいやつが ぜったいにつらいのよ
おまえも ごっついあほやったのに
なんでそっちいくだけで そうなるのよ
あほばっかりやってきて
いたいともおもわんと ずるい馬鹿ばっかりやってきて
ほんなやつが なんでそっちいくだけで
ばかにええやつになるんや
ほんなんなしや あっぱれにそっちがあほや
つらいだけや
=かんべんしいな ほれは
おれはたしかにあほやったけどな いまはそれがつらいんよ
いたいことでもなんでもして つらいことになっとるけど
ぜんぶあほになっとるけどな
いま ほんまにほれつらいとおもとるのや
おれはやるよ できるからや
あほやのうて まっとうなことが できるからよ
どんなつらいことやれていわれても
おれはやるよ いたあないよほんなこと
あっぱれにな こっちきたらおまえもそう思うよ
どんだけ どんだけ おれたちがあほやったか
みいなわかるよ
(両者の間に川がある。一方から見れば
それは花の野原をちょろちょろと流れ
る小さな川だが、一方から見ればそれ
は群青色に濁り蛇のように水が流れの
たうつ恐ろしげな川なのだ。)
=いやや おれは
あほみたいになるんは
ぜったいにそっちがばかや
いたいことになるんはおれたちやない おまえらのほうや
おれたちはずるいやつなのよ
ばかがえたいのしれんもん ぜんぶばかにするのよ
いたいやつは あっぱれにつらいわ
いたいもんつらいうちに あっちにいきな
(一方のもの溜息をつく。そして残念そ
うに肩を落としながら川に背を向け、
どこへともなく消えていく。残ったも
のは黙ったまま唇をかむ。とつぜんこ
ぶしをあげ、流れのきつい川に、わけ
のわからぬ獣のような叫び声を吐く。
行ってしまったものは、もう二度と帰
って来ない。)
=ばかはあっちや
(重い溜息の音。)