世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ジュディス・エリル

2012-04-13 11:48:30 | 画集・ウェヌスたちよ

ジュディス・ピーターソン、三十八歳。
筆名は、ジュディス・エリル。
二十代最後の年に書いた作品が、ある出版社に認められ、
彼女は最初の作品集を出版した。
それほど売れゆきはよくなかったが、一部に熱いファンを獲得し、
彼女は作品を書き続けた。
彼女の言葉は魅力的で、情熱的で、特に、
男性の本性を鋭く切るときの語り口が、
女性たちを魅了した。

だが、そのために、
一部の男性から、陰湿ないじめをも受けることになった。
出版社の役員と衝突し、彼女は版権をそこからとりあげ、
別の出版社を探した。
すぐには見つからなかったが、あるファンの協力によって、
彼女は、第一詩集「ヘラの降臨」を、自費出版した。
それは、かなり、衝撃的な、内容だった。

それを言ってはおしまいだということを、
彼女は率直で強いその表現力で語っていた。
それを言ってしまっては、男がみんな馬鹿になるということを、
とうとう、言ってしまった。

それが人々に与えた衝撃は、かなり大きかったようだ。
彼女は一度、ある男に、命さえ狙わることがあった。
そのときは何とか助かったが、それ以後彼女の周りで、
見えないところからの不穏な動きが、いろいろと起こった。
陰湿な罵倒を長々と連ねた匿名の手紙なども届いたが、それは本人が読む前に、
姉ジョーンが握りつぶした。
脅迫文が届いたこともあったが、それは警察に届けると間もなく犯人がわかった。
犯人は眼鏡をかけた、やせぎすの若い学生だった。

「あ~あ」と、ある日ジュディスが深いため息をついた。
彼女は一時期、ささいなことが原因で夫と衝突し、夫の家を出て、
姉の住むアパートに身を寄せていた。
姉のジョーンが、彼女に言った。
「結婚なんてするからよ。あなたみたいな人が、
男と結婚するなんて、考えられなかったわ、わたし」
「あのときは、向こうが積極的だったから、流されたのよ。
わたしも、お姉さんみたいに、ずっと独身でいたかったのよ、ほんとは」

「男はずるいことをするわよ」と姉は言った。
彼女は四十を過ぎても独身だった。小学校で、教師をしていた。
「子供を見ていてもわかるわ。男の子はかなり、ワルいわよ。
いたずらのしようが、女の子とは違うわ。
あなたの言うことはまさに正しいし、おもしろいけど、
覚悟はするべきね。
これからもいろいろ、やられるかもよ」

とにかく、詩集の売れ行きはよかった。
ある出版社が、彼女の才能に飛びついた。
ぜひ、次の詩集をうちから出させてくれと、ある編集者が言った。
それは女性だった。

ジュディスは、また詩を書いた。
第二詩集「ミネルヴァの嘲笑」、第三詩集「氷石のウェヌス」
彼女は、次々と、男を、地獄に落としていった。
まさに、男は、惨い目にあわされた。
彼女の、詩のことばによって。
女たちが、恐ろしく、それを面白がった。
一部の男が、喝采した。

生まれる前の彼女が、何者だったのか、
彼女自身でさえ今は知らないが、
やっていることは、変わらなかった。
彼女の仕事は、かなり、人類に、衝撃を与えている。


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