ミシェル・マルタン・ドローラン
アポロンとカリオペの間に生まれたというオルフェウスは美しい竪琴弾きだった。彼が金の竪琴を弾いて歌うと鳥や獣が寄ってきた。草木も頭を垂れて静かに聞いた。そのオルフェウスにはエウリュディケという美しい妻があった。オルフェウスは妻の為にも毎日うるわしい愛の歌を歌った。しかしある日エウリュディケは毒蛇に噛まれて死んでしまった。オルフェウスは何日も嘆き悲しんで竪琴も弾かなくなった。妻がいないことがあまりに苦しいので、とうとうある日、彼は妻を取り戻そうと冥界に向かった。冥界の入り口の前には、恐ろしい番犬のケルベロスがいたが、彼はそれを得意の歌で眠らせてしまった。そして門をくぐり、冥界に入って冥界の王ハデスに会った。そこでも竪琴を弾いてハデスを魅了し、妻エウリュディケを返すように願った。ハデスはそれをかなえてやることにした。しかし、人間の国につくまでついていくエウリュディケを決して振り返ってはならないと念をおした。オルフェウスは妻の手を引き、喜んで冥界の道を逆戻りした。しかしもうすぐ生きた人間の国だというところでオルフェウスはエウリュディケを振り返ってしまった。そこに見たのは、悲しそうな顔をしながら消えていく妻の姿だった。
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似たような話が日本神話にもありますね。愛するパートナーを失った嘆きは、女よりも男の方が強いらしい。死んだものでも生き返らしたいと思うほどらしい。だが結局、死んだものはよみがえりはしない。人間は悔いのないように、愛せる時は精一杯愛したほうが良い。オルフェウスという歌歌いのモデルになった人物は実在するそうです。一種の宗教家だったらしい。永遠の神話の中に名を遺すほど、印象的なことをした人だったのでしょう。神話の中には人間の真実が溶け込んでいる。何もかもが絵空事だというわけではないのです。おそらく、妻を失ったとき、周りが困ってしまうほど取り乱したのでしょう。