世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

剣の天使

2013-01-21 07:27:54 | 天使の小窓

ああ おまえが
苦しまねばならないとき
わたしはそれを
耐えることができるだろうか
わが子よ

わたしなら 耐えられる
わたしのすることだから
耐えることなどなんでもない
だが おまえが耐えねばならないというとき
わたしはそれを耐えられるだろうか

未だ幼き 剣の天使よ
その名の意味を いずれおまえは知ることになろう
やるべきことは何なのかを
神は導いてくださるだろう

だがおまえには
兄弟がいる
彼らは生涯おまえを愛してくれる
そこにわたしの心は安らぎを見る

ああ 未だ幼き 剣の天使よ
おまえのせねばならぬことを
おまえが知るとき
その心はいかなるものであろう

愛している
いつまでも 愛している




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ジョヴァンニ・カルリの災難

2013-01-20 07:10:14 | 薔薇のオルゴール

さてわたし、マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニは、昼の町の裏道を静かに歩いています。季節は春を過ぎ青葉のすがすがしい風が吹き始める頃。空を見ると、白い雲に紛れて、白い半分のお月さまが見えます。

今日はベルナルディーノのお店がお休みなので、わたしも店番の仕事はなく、ぼんやりと眠っているだけでよかったのですが、なぜか今日はそんな気になれず、こうして町に出て、ぶらぶらとしています。フェリーチャ奥さんが、わたしの姿が見えないと、ほとんど気絶しそうな声でわたしの名を呼んで探しまわるので、そう長い時間の散歩というわけにはいきません。でもわたしにも、時には家を出て、気分を変えたいと思うことがあるもので。

ふ。このわたし、マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニともあろうものが、心がつかれている。ベルナルディーノは、フェリーチャの前では、ほとんどわたしを無視しているような態度をとりますが、フェリーチャがいなくなると、とたんに表情を変え、わたしに言うのです。
「このごくつぶし。おれが精出して稼いだ金を、無駄に食いやがって」

ああ。ため息が出ます。人間は何もわかってはいない。それをわたしは、十分に理解しているつもりですから、何を言われても、人間には反論しませんが、時に、やりきれなくなることは、あります。
自分の心を理解してもらえない。どんなに愛しても、心はかえってはこない。それでも別にかまわないと思ってはいますが、そういうことが積み重なったとき、どうしても生きることが苦しく、心が病気になってしまう恐れがある。それをわたしは深く学んでいます。ですから、心が病気になる前に、こうして散歩をして、心に、美しい自然の愛を取り込みます。そうすれば、幾分、萎えた心がよみがえってきます。

おや。わたしとしたことが。なんてことだろう。道端に見覚えのあるオリーブの木がある。やれやれ。思いもしなかった。わたしの足は正直だな。それほど、疲れているのか。

わたしの足は、町にある小さな教会に向かっていました。その教会は、ごく最近建てなおされたもので、見栄えは近代的で、装飾の類も少なく、少々そっけない感じがしますが、中に入ると見える、祭壇に掲げられた十字架のイエス…ジェス・クリストの木像は、かなり古い時代に作られたものらしく、教会を建てなおしたおりに修復されて、今も神のように人間たちにあがめたてまつられています。

猫としてわたしは言いますが、ジェス・クリストほど、美しい人間はいないと思いますね。猫が、どうしても勝てないと思う人間の男は今のところ彼だけです。実に。だれがあんなことをできるでしょう。あれだけの惨い目にあいながら、神の愛の中に溶けてゆき、すべてを許す。人間は彼について、いろいろと研究しているようですが、まだまだです。

一部の人は、彼は、人間たちの罪業を背負って、自分たちの代わりに死んでくれたなどと言いますが、はは、勘違いもいいところだ。あの苦しみ、あの痛み、あの寒さ、冷たさ、自由を奪われた魂の叫び、あれを、自分たちの罪を押し付けた結果だと言って、平気でいられるのですか。紙に自分の名を書いて、十字架に貼りつければ、彼が全部それを背負って自分たちの代わりに死んでくれると。それでいいと思っているのですか。人間たちよ。馬鹿もいいところだ。

さて、わたしは、町の小さな教会につき、裏口の方に回りました。そこには、猫専用の出入り口があることを知っているからです。わたしはその入り口をくぐり、教会の中に入っていきました。そして、祭壇の方に向かいました。ああ、やっぱり、いました。

木造の磔刑像の足もとには四角い小さな台があり、そこに高窓からさした日の光が陽だまりを作っていて、猫が一匹、その台の上に寝そべっています。ジョヴァンニ・カルリです。茶白ぶちのぼさぼさの毛並みをした彼は、この教会の飼い猫でした。世話をしているのは、エミリオ・コスタという名の若い牧師さんです。ジョヴァンニ・カルリは猫としても行儀よく、人間にとって不快なことは一切しないので、そう美しい毛並みでなくても、たいそう人間にかわいがられています。その、あまり美しくはない容貌が、返って人間の心をとらえるようだ。彼は、猫たちにも、相当人気があります。あの顔でね、この町の猫たちのリーダーをしている。クレリアやマルゲリータやダフネも、彼を見るときの目は、わたしを見るときの目と、違う。ふ。全く。ジョヴァンニ・カルリ。今この世界で、ただ一人、わたしに少々不快な思いをさせる男の猫。誰も彼にはかなわない。

わたしは、ジョヴァンニのそばにゆっくりと近づいていき、声をかけました。
「やあ、ジョヴァンニ。元気かい?」するとジョヴァンニはゆっくりと目を開けてわたしを見、言いました。「これは、マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニ。いらっしゃい。何か用かい?」
わたしはそれには答えず、ひらりと飛び上がって、ジェス・クリストの足もとにある小さな台の上の、ジョヴァンニの隣に座りました。ジョヴァンニは、自然に身を横にずらして、わたしが寝そべる場所を作ってくれました。ほんとうに憎いやつ。こんなこと、だれにでもできそうで、できない。彼がいると、何もかもがうまくいくんです。ほんとうに小さなことだが、美しく、大切なことを、自然にやってくれる。こんなことを。わたしのために、自分の位置を少しずらして、場所を開けてくれる。それだけのこと。だけどそれが、なかなかできることではないのですよ。わたしも、彼のまねをしてやったことがありますがね、まったく、自分らしくないと思って、すぐにやめてしまいました。

猫は賢いですから、自分の場所が欲しい場合は、相手に、少しどいてくれと言えばいいのです。そうすれば、よほど馬鹿な猫でない限り、そっと場所を開けてくれます。それで別にかまわない。

「何かあったのかい。マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニ。君がわざわざぼくのところにくるときは、たいてい、何かがあったときだ」ジョヴァンニは言います。わたしは、かすかに、左の青い目をゆがめます。そっぽを向いて、痛い言葉の一つも投げたいところだが、わたしは紳士なので、そういうことはやりません。ただ、答えます。
「特に何もないさ。話し相手が少し欲しくなっただけだ。君、ジョヴァンニ・カルリほど、わたしを飽きさせない、おもしろい話し相手はいないからね」
「それは光栄だね。マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニ」

わたしは、しばし、教会の高窓から差す光の陽だまりに身を置いて、静かにジョヴァンニ・カルリの隣に香箱を組んで座っていました。季節の日が暖かい。時々光がちらちらと揺れるのは、教会のそばに生えている木がこずえを風に揺らせているからでしょう。背後では、十字架にはりつけられて死んだジェス・クリストが静かにわたしたちを見下ろしています。

「鳥の声が聞こえるだろう」ジョヴァンニ・カルリが突然、言いました。わたしは答えます。「ああ、腹がすいているときには、あれほど魅力的な声はないだろうね」するとジョヴァンニはおかしげに笑い、言うのです。「たしかにね。ぼくも狩りをしたことは何度もあるよ。狩りほど魅力的なものはない。ママが、ぼくに、はじめてネズミをとってきてくれた、子供の頃のことを思い出すな」「ママはやさしかったかい?」「もちろんさ。ぼくのママは、ぼくにそっくりの茶白ぶちだった。でもきれいな猫だったよ。近所の雄猫にもてもてだった。もうとっくに死んでしまったけれど」「わたしは、ママのことはほとんど覚えていない。生まれて間もなく、わたしは箱に入れて捨てられたんだ。フェリーチャが拾ってくれたんだけど、五匹いた兄弟の中で、生き残ったのはわたしだけだった」「ああ、知っているよ。ジェス・クリストの分け前だろう。君のすてきな口癖だ」「そうともさ」

猫の人生の苦しみは、ここにあります。ほんとに、人間は、邪魔になる猫は平気で捨てる、殺す。もちろん、かわいがって大事にしてくれる人もいますがね、生まれてくる猫たちは、たいてい、誰も知らないうちに、死んで、消えてゆく。生き残った者は、本当に幸運だ。いや、本当に幸運なのかな? 死んで、消えていった、わたしの兄弟の方が、幸せだったのかもしれない。

「ここにいて、鳥の声を聞いているとね。どんな苦しみも、光に溶けて、なくなっていくような気がするよ」ジョヴァンニが、そのかすかに緑色を帯びた黄色の瞳を閉じて、言いました。わたしは、ふん、と言いながらも、彼と同じように目を閉じて、鳥の声を聞きました。日差しが、やわらかく、わたしの毛皮を温めてくれる。小鳥の声は、鈴のように落ちてきて、何かで濁っていたわたしの心に、きれいな光を入れてくれる。

わたしたちはしばし、並んで日差しを浴びながら、小鳥の声を聞いていました。

ジョヴァンニはただ黙っています。わたしは、隣にあるジョヴァンニの気配を、重く感じました。どうして、気持ちが苦しくなる時、ジョヴァンニに会いたくなるのか。わたしは、深いため息をつきました。確かに、彼のそばにいると、安心する。茶白ぶちの冴えない男。わたしは、彼に、どうしてもかなわない。この美しいマウリツィオ・パスカーレ・チコリーニともあろうものが。

わたしは、小鳥の声に、右耳を澄ましました。左耳はもちろん、聞こえないからです。わたしは、小鳥の声の美しさを感じながらも、決してそれを受け入れはしない左耳の存在を大きく感じました。わたしは、何かに少し腹が立ってきて、それをジョヴァンニにぶつけてしまいました。

「君はいいね。わたしみたいに奇形的じゃない。わたしはみんなに珍しがられる美しい男だけど、君の方がずっと自由だ。両目とも同じ色だし、耳も健康だし。わたしのように苦しむことはない」
「そうだね。ぼくには君の苦しみを肩代わりすることはできない。それは君の勲章だ。いや、生きるために必要な、重荷だ」
「重荷ね」
「猫も人も、生きる者は誰もが重荷を背負っているものさ。君がよくいうじゃないか。ジェス・クリストの苦しみの、分け前。それがその、左耳」
「ああ、そのとおりさ。この耳のおかげで、どんなに苦しんだことか。品のないやつに、この弱点をつかれて、左の頬を噛まれたことがあった。どんなに美しい音楽も、わたしには半分しか聞こえない。大切な約束を教えてくれる人の言葉を、何度も聞き逃した。そして道に迷った。何度も何度も、迷った。この苦しみ、これだけは、君に負けない。これがわたしの、あの美しい男、ジェス・クリストの味わった苦しみの、千万分の一の、分け前。これでわたしは、ジェス・クリストの十字架のひとかけらを、背負っているのさ。それだからこそ、わたしは美しすぎるほど、美しいのだ。君には負けない。この左耳がある限り」

わたしは、思わず、言ってはならないことまで、ぺらぺらとしゃべってしまいました。そうです。わたしは、この冴えない茶白ぶちの男を、ライバル視しているのです。勝手にね、好敵手として、認めている。いや、もしかしたら、彼の方が、わたしよりもずっと上なのかもしれない。

ジョヴァンニ・カルリは、わたしの話を聞いて、少し困ったような顔をして、かすかに微笑み、黙りこみました。背後にいるジェス・クリストの気配が、まるで生きているように、わたしたちを見つめているような気がしました。

なぜこんなに、わたしは彼をライバル視するでしょう。わたしはマウリツィオ・パスカーレ・チコリーニ。長毛白猫、金目銀目の美しすぎる男。甘い言葉で女性に幸福を与える。だれもわたしの真似はできない。女性たちは、おもしろげに笑いながらも、わたしのことを待っている。傷ついた女性ほど、わたしは深く愛します。そして心を抱きしめる。美しくも優しい言葉をかけてあげられる。それだけで、どれだけ女性たちの心がよみがえり、美しくなっていくか、わかりますか。わたしの使命は、女性に尽くすことなのです。美しきマウリツィオ・パスカーレ・チコリーニの使命は、女性を本当の美しい女性にすることです。

しかし、女性たちは、わたしよりもむしろ、ジョヴァンニの方が、好きなようだ。なぜだかわかりますか? 簡単なことです。そう、簡単なこと。簡単なことだけど、難しいことを、彼は、いかにも自然に、誰にも知られないように、そっとやってくれる。小さなこと、だけど大切なことを、黙ってやってくれる。簡単だが、誰にもできないことを。

あれはいつのことだったでしょう。昔、ジェルソミーナという老いた雌猫がいました。わたしはまだ三歳くらいのひよっこでしたが、もう十分に、女性を喜ばせる言葉には長けていました。ジェルソミーナは不幸な雌猫で、飼ってくれていた人間の家族が引っ越していったとき、捨てられて残され、野良猫に落ちてしまったのです。彼女はもうその時、十五歳くらいになっていましたから、かなりのおばあさんでした。たぶんそれが、人間に見捨てられた理由の一つでしょう。

ジェルソミーナはある日、二匹の子猫を生みました。それはジェルソミーナは喜びました。子供がいることほど、幸せなことはありませんでしたから。ジェルソミーナはたいそういいお母さんでした。子猫の世話をそれは細やかにしていました。なんとかして、食べ物を都合つけてきては、乳を飲ませ、食べ物を与え、子猫を育てていました。だが、野良猫にとって、この生きるものたちの世界は厳しすぎた。ジョヴァンニも、わたしも、彼女が見ていられず、何度か食べ物をわけてあげたりしました。けれども、とうとう彼女は、子猫を失ってしまった。子猫たちは、すぐに猫風邪にかかり、目がつぶれて、あっという間に死んでしまったのです。老いたジェルソミーナの受けた心の傷は深かった。愛おしい子供を、すべて、失って、彼女は半分狂ってしまいました。

わたしは、ジェルソミーナに近寄り、言いました。
「美しいママ、泣かないでおくれ。ぼくのかわいいママ、愛しているよ」
けれど、そのことばは、もうジェルソミーナの心には、届かなかったのです。ジェルソミーナは、もうものを食べなくなり、日に日に痩せ衰えていきました。何もかもを失って、絶望の中に、彼女の瞳の光が消えていくのを、わたしは、見ていることしか、できませんでした。

そんなある日のことでした。ジョヴァンニ・カルリが、ジェルソミーナのもとにやってきました。わたしは、近くの木陰に隠れて、見ていました。ジョヴァンニ・カルリは言いました。
「ママ、かわいいママ、ミルクをちょうだい」
そうすると、ジェルソミーナはふと、目に光を宿らせ、ジョヴァンニを振り返ったのです。そしてうれしそうに、ジェルソミーナは言ったのです。
「ああ、かわいい子、おいで、おいで、お乳をやろ。なんでもしてやろ。あっためてやろ。おいで、ぼうや、お乳をあげるから」
そういうとジェルソミーナは、そこに横たわり、おなかのお乳を見せました。そして、ジョヴァンニは、ジョヴァンニは、何も迷うことなく、その老いさらばえてしなび果てた乳首にすいつき、やさしく彼女のおなかをもみながら、お乳を吸ったのです。
そのときの、ジェルソミーナの幸福に満ちた顔を、忘れることが、できません。

だれが、できるのか、あんなことを。ジョヴァンニ・カルリ!!

おまえには、プライドなど、ないのか! なんてことをするんだ!!

愛おしい子が帰ってきたと思って、ジェルソミーナは本当に幸せそうでした。ジョヴァンニの毛皮をやさしくなめ、何度も、かわいい、かわいい、と言いました。ジョヴァンニはただ、赤ん坊のように、ジェルソミーナによりそい、やさしく、そのもう出なくなった乳を吸っていたのです。

ジェルソミーナが死んだのは、それから何日か経った後でした。ある、強い雨の降った日の翌日、町を流れる小さな川に浮かんでいる、ジェルソミーナを、猫仲間が見つけました。ジェルソミーナの体を川から引き上げることのできる猫などいません。人間も見向きもしません。ジェルソミーナの体は、川に流され、いつの間にか水に溶けて消えていきました。

猫の最期は、たいてい、こんなもの。大切にしてくれる人間はいますけれどね、いつもこうして、たくさんの猫が静かに世界に溶けてゆく。何度生まれても、何度生まれても、すぐに、風の消しゴムに命を消されてしまう。

わたしは、胸の奥から、詰まった小石を吐き出すような、痛いため息を吐きました。すると、少しの沈黙を挟んで、隣のジョヴァンニが言いました。

「猫の人生は、つらいことが多いが、お日様はいるよ。天にね」
ジョヴァンニめ。わたしは、胸の中で返します。憎いやつだと思いながらも、彼の声と言葉を聞いて、安らぎを感じている自分を、否定することはできません。
そう、わたしは、ジョヴァンニの、この声を聞きたかったのだ。彼はいつも言う。「お日様はいるよ。天にね」

「ああ、そうだね、ジョヴァンニ。お日様はいるよ。ソーレ。わたしたちの暖かい神さまは」わたしは、できるだけ胸を張り、彼に負けそうな自分を奮い立たせながら、言ったのでした。

「何があったのかは聞かないけれど、君のことだから、そろそろ立ち直っているだろう」ジョヴァンニはさらりと言います。ええそのとおり。もう立ち直っていますよ、わたしは。
「ジョヴァンニ・カルリ。君ほどの男を、わたしは見たことがないねえ。どうだ、君の背中のぶち模様ときたら、まるで薔薇のようだ。すてきだねえ。おしゃれだ。女の子はみんな君が好きさ」
それを聞くと、ジョヴァンニは少し困ったような顔をして、笑いながら、言いました。
「まいったね。君にはかなわないよ。マウリツィオ」
わたしは、胸に何か暖かいものが満ちてきたような気がして、ジョヴァンニに笑い返し、立ち上がりました。そして、ジェス・クリストの足元から降りると、そっとジョヴァンニを振り返り、別れの言葉を言いました。
「じゃあこれで、ジョヴァンニ。話ができてうれしかったな。また会おう」
「ああ、また会おう。マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニ」
こうして、わたしはジョヴァンニと別れ、教会を出て、自分の家に帰っていったのです。ベルナルディーノの無礼な態度や仕打ちにも、もう許せるような気がしていました。

ジョヴァンニ・カルリ。ただひとり、わたしがライバルと認める男。数少ない、本物の男。わたしはあなたが、大好きだ。きっと、女の子よりもね。

さて、わたしが気分を取り戻して、フェリーチャの元に帰ってきたころ、ジョヴァンニは、そっと教会を出て、外の光を浴びていました。そしてそのまま、ゆっくりと散歩をしていると、途中で、シルバータビーのクレリアに出会いました。ジョヴァンニは、武骨な男ではありますが、自分を見るときの、クレリアの瞳が、いつもやさしく濡れているのには気付いています。クレリアはジョヴァンニに出会えたことが、とてもうれしいらしく、笑いながら、言いました。
「こんにちは、ジョヴァンニ。いいお天気ね」
「ああ、いい天気だ。お日様はいつも空にいらっしゃる」
「いつもの口癖ね。でもどうしたの。あなたがそれを言うときは、たいてい、ちょっと苦しいことがあったときだけど」
「君にはかなわないね。そう、ちょっとしたことがあってね。さっきまで、教会で、マウリツィオ・パスカーレ・チコリーニと話をしていたんだ」
それを聞くとクレリアは、さもおもしろそうに笑って、言ったのでした。
「それはまあ、大変な災難ね!」
「まったくね」
ジョヴァンニも、笑って、言いました。

(おわり)


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2013-01-19 07:15:37 | 月の世の物語・後の歌

スティーヴン・ディラック博士は、書斎の窓のカーテンをあげ、外の空を見ました。灰色の雲が重くどんよりと立ち込めて、遠くに見える高層ビルのてっぺんが雲に触りそうなほどです。
「雨がきそうだな」博士はつぶやくように言うと、カーテンを閉め、明るい書斎を見回すと、戸棚に飾ってある小さな金色の光るメダルに目をとめました。それは、博士がこの世にて行ったすぐれた業績を評価するために与えられた、まぶしい勲章でした。見ようによれば、キリストの頭部を飾る薔薇の形をした光輪のようにも見えるその勲章を、博士は、しばし誇らしげに見つめました。

スティーヴン・ディラック博士は今年で八十四歳。豊かに実りを得た人生を今、ゆっくりと振り返ろうとしていました。
彼は若き頃から医学の道を志し、思い心臓病患者を救うために、新たな治療法や手術の方法の研究に一生を捧げました。彼の考えた新たな治療法によって、多くの心臓病患者が救われました。彼は、この道の権威として崇められ、新たな伝説として、医学の歴史に輝かしい名を遺したのです。

スティーヴン・ディラック、心臓病の救世主。

「よい人生だったな。ほんとうに、よいことができた。たくさんの人が喜んでくれた。わたしは、満足だ。素晴らしい人生だった」
ディラック博士は、ゆっくりとため息をつきながら、言いました。

そのときでした。外の方で、どろどろと雷鳴が響き、書斎の窓をびりびりとゆらしました。

ドン!と空が割れるような音がしました。

雷が、すぐ近くに落ちたようでした。その音は、ディラック博士の心臓をも揺らしました。博士は全身から力が抜け、床に吸い込まれるように、自分の体が力なく倒れていくのを感じました。博士は床に倒れ、またその床を通り過ぎても倒れ、いつしか、青い奈落の中を、まっさかさまに落ちていたのです。

なんなのだ! これは!

博士は声をあげました。周りを見回しても、青い色一色しか見えません。下を見ても底のようなものは見えず、博士はどんどん落ちていきます。何がどうなっているのかわからぬまま、誰かが博士の耳元で叫びました、「この愚か者め!」

ふたたび、どこからか、雷鳴が響きました。それとほぼ同時に、体全体が何かにどんとぶつかって、博士は苦痛にうめきました。するとすぐ近くから聞き覚えのある声が聞こえました。

「おっと。よし、計算通りだ」

博士は、しばしの間くるくると目を回していました。すると聞き覚えのある声が言いました。

「だいじょうぶですか。あまりこんな乱暴な魔法は使いたくないんですが、今、竪琴がつかえないもので」

めまいがおさまってくると、博士はそるおそる顔をあげて、声のする方を見ました。ああ、と、博士はほっとした息をつきました。
「あなた、でしたか。どうなるかと思った」
気がつくと博士は、人一人をすくい上げられそうな、大きな虫取り網の中に、すっぽりとはまりこんでいたのです。虫取り網の太い柄の端は、竪琴弾きの手に握られていて、その竪琴弾きは、竪琴に乗って、青い中空をふわふわと浮かんでいるのでした。

「あ、あなたが、わたしを助けて下さったんですね」ディラック博士がいう言葉を、聞いているのかいないのか、竪琴弾きは少し困ったような顔をして細いため息を吐き、言いました。
「今回はいろいろと頭をしぼりましたよ。罪びとにもいろんな人がいるもので、そのたびにいろいろと工夫をするのですが。ほんとはこんなことに竪琴を使いたくないんです。魔法が細やかに使えなくなりますから」

博士は、網の中から顔をあげて、青一色の周りを見回しながら、言いました。
「わたしは、死んだのですね」
「ええ、そうです。十五分ほど前かな。突然の心臓発作で。遺体はもうすぐ家族の人が見つけるはずです」
「ここはどこです? 月の世ですか? でもそれはおかしい。わたしは人々のために尽くす、よい人生を送ってきました」
「まったくもう、お忘れですか」

そういうと竪琴弾きは呪文を唱え、手元に書類を呼び出すと、右手をくるりと回して、博士を指さしました。とたんに、博士の、立派な白い髭をした風格のある聖者のような姿は消え、そこに、無精ひげと髪をだらしなく伸ばした、骨と皮ばかりの貧相な男の姿が現れました。男は背が低く、顔も奇妙に歪んでおり、衣服も、元の立派なスーツから、あちこちが破れて汚れたくたくたのみすぼらしい衣服に変わっていました。

「思い出しましたか? それがあなたの本当の姿です」
「わ、わたし…は…」
「いいですか? 最初の予定では、あなたは普通のサラリーマンとして生きるはずでした。ある小さな会社の経理係として。そして、人生の後半の二十年を、妻の介護にあてて、罪の浄化をするはずでした。あなたは前の前の人生で、妻を見捨てて殺していましたから」
「そ、そんな…、あ、あれはみな、夢だったと、言うのですか? わたしは、心臓手術に関して、画期的な方法をあみだした。すばらしい勲章をもらった。欲も少なく、人々に尊敬され、すばらしい人だと称賛を浴びた。わたしは、すばらしい人間だったのです。あれが、すべて、夢だったと…」
「ドクター・スティーヴン・ディラック」
竪琴弾きが、深いため息とともに言いました。

「あなたは生まれる前、怪と契約しましたね。本当に、あれほど言ったのに。あなたは、妻に尽くす人生など嫌だった。もっと輝かしい栄光の人生が欲しいと言った。全く、怪はよい仕事をしてくれました。あなたのために。いいですか。あなたがあみだした画期的な方法。それはあなたのものではありません。怪が、他人の頭から盗んできて、あなたに与えたのです。そして、あなたの方が、先に世間に発表してしまったため、あなたのものになってしまったのです。本当は、本当にそれをあみだした人が、あなたの人生を歩くはずでした。その人が、数々の人を助け、勲章をもらえるはずでした。しかし、あなたに盗まれてしまったため、その人は、医学研究の道をあきらめ、他の道に進みました。あなたは、こうして、他人から栄光の人生を盗んだのです」

博士は、呆然と聞いていました。今、まさに、まざまざと思い出したからです。自分の本当の姿は、これだと。あの、恰幅のよい、聖者を思わせる白髭の紳士は、すべて、怪が作り出してくれた、偽物の自分だと。

「…ああ、たしかに、あれは夢だった。ほしいものすべてを手に入れた。だが、すべて、うそ、だった…、ほんとうの、わたしは…」
竪琴弾きは、悲しげに笑いつつも、厳しく言いました。
「これからも、あなたの名は医学の歴史に輝かしく残ります。あなたの業績によって、助かる命も増える。あなたはすばらしいことをした。けれども、残念ながら、それはあなたの功として、計算されません。その一部は、もともとそれをあみだした人の元に流れてゆき、大部分は、神が預かります。そしてあなたには、重く、他人の人生を盗んだという罪が残る」

「浄化をせねば、ならないのですね。何をするのですか」
博士は、網の枠をつかみながら、ぼんやりと言いました。すると竪琴弾きは、言いました。
「こんなやり方は、好きではないのですが。許してください。竪琴が弾けないので、少し乱暴になります」

とたんに、虫取り網が、がくんと揺れたかと思うと、博士はまた青い中空に放り出され、まっさかさまに落ちていきました。悲鳴を叫びながら、何十分と落ちていったかと思うと、博士はいつの間にか、大きな舞台の上にいました。見ると、目の前に大きなグランドピアノがあります。博士はもとの立派な白髭の紳士の姿に戻り、ピアノの前に座っていました。黒い素敵なスーツを着て、胸には輝く薔薇の勲章がありました。観客席を見ると、そこには何千という観客がいて、あこがれと期待に満ちたまなざしで博士を見ています。

ピアノを弾くのか?と博士が思っていると、耳元に竪琴弾きの声が聞こえてきました。
「鍵盤をよく見てください。数字が書いてあるでしょう」
博士は、ピアノの鍵盤を見てみました。すると竪琴弾きの言うとおり、白い鍵盤に、0から9までの数字が書いてありました。黒鍵には、星や月や太陽や花などの形をした、妙な記号が書かれていました。
「それは一種の計算機です。使い方は、ピアノ自体が教えてくれるので、すぐにわかります。では次に、目の前の楽譜を見てください」
博士は楽譜を見ました。するとそこには、二行の数字の列がありました。
「その数字は、上が円周の長さ、下が直径の長さです。あなたはこの舞台で、観客の視線を浴びながら、円周率の計算をせねばなりません。観客は奇跡を望んでいます。あなたが、円周率を割り切るという、奇跡をなすことを、望んでいます」
「馬鹿な! 円周率など、割り切れるわけがない!!」
「それはどうか。とにかくやらねばなりません。あなたはとても有能な人。頭のよい人。すばらしい医学博士。できぬはずはないと、観客は思っています。さあ、始めてください」

博士は、震えながら、1の数字を押しました。ポンと、ピアノが鳴りました。とたんに、観客席から感動の声があがりました。
「ブラヴォ!」
博士は、その声に支配されているかのように、ピアノを弾き、計算を始めました。

π=3.14159265…

「ブラーヴォ! ブラーヴォ!」

358979…

「ブラヴォ! ビューティフル!」

32384626433…

「素晴らしい!奇跡の人だ!救世主とは彼のことだ!」

観客の声に、博士は叫びました。「やめてくれ!やめてくれ!こんなことできるわけがない!! 永遠に、永遠に、割り切れるわけがない!!」

「そうです。永遠に計算し続けなければなりません。あなたにはそれができると、みな信じているのですから」竪琴弾きのささやきが、耳にはいのぼってきました。博士は呆然としながらも、ピアノをひきつつ、計算をし続けました。ピアノの奏でる音楽はまるでめちゃくちゃで、聞いているとまるで脳みそをかき回されるようなめまいを感じました。それでも彼は計算し続けねばなりません。指が、まるで自分のものではないかのように動き、ピアノの鍵盤を次々とたたいてゆくのです。

832795028841971693……

「…だめです! むりだ!! こんなこと、できるわけがない!! やめてくれえ!!」

博士は、もうたまらず、ピアノの鍵盤を、ばんと叩きました。するといっぺんに幕が降りて、博士はいつの間にか真っ暗な闇の中に立っていました。何も見えませんでしたが、博士は自分が、元の貧相な自分の本当の姿に戻っているのを、感じました。

「やれやれ、もう音をあげましたか」竪琴弾きの声がどこからか聞こえてきました。

「いいですか? あなたはすばらしい人なんです。地球世界では、あなたの名前は、ずいぶんと長く残ります。あなたは人格の高い人として尊敬され続ける。多くの学生があなたにあこがれ、あなたに続こうと、医学の道を目指します。だが」
「…そうです。みんな、うそです。わたしは、いやおれは、立派な人格者なんかじゃない。すべては、芝居なんです。嘘の芝居なんです。みんな、怪にやってもらったんです…。ほんとうのおれは、ほんとうのおれは、とんでもない、馬鹿なんだ…」
「それを認めますか?」
「…はい」

博士だった男は、うつむきながら、ぼそりとつぶやくように、答えました。すると、前方から、かすかな光が見えてきました。

「なんですか?」と、博士だった貧相な男が尋ねると、竪琴弾きの声が闇の奥から答えました。「とにかく、その光に向かって、進んでください。ほんとに、こんなやり方は、好きではないんですが」

博士だった男は、竪琴弾きの声に導かれ、ゆっくりと、その光に向かって進みました。近づいてみると、それは、暗闇にきりこまれた小さな扉でした。扉は、病院などによくある白い扉に似ていました。その扉には、縦に長い長方形のすりガラスの窓があって、光はその窓から漏れていたのです。

「その扉を開けてください」竪琴弾きの声が聞こえました。博士だった男は、おそるおそる取っ手に手をかけ、扉を開けました。とたんに、たまらぬ悪臭が流れてきて、男は歪んだ顔を一層歪めました。光に目が慣れてくると、扉の向こうには、信じられぬ景色が広がっていました。

そこは、十九世紀くらいの古い町のように見えました。白い漆喰の壁の家が、なだらかな斜面の上にたくさん並んでいます。ずいぶんと大きな町のようでしたが、人影は見えず、ただ、家の壁も道もそこらじゅうが糞尿で汚れており、蠅が群がりたかっていました。腐った牛肉の塊も、あちこちに落ちていて、それには白いウジが無数にわいていました。

男が鼻をつまみながら呆然としていると、また竪琴弾きの声が聞こえました。

「あなたは、これから、この町を、ひとりで掃除しなくてはなりません。なぜならあなたが地球上でやったことは、こういうことに等しいからです。あなたは、腐った一つの町を、きれいに清めたのです。ですから、できぬはずはありません」
「そんな、そんなことを、やらなくちゃ、いけないんですか?」
「もちろん、そうです。もうあなたは、それだけの称賛を受けてしまったのですから。勲章もね。言っておかねばならないことは、この町ではもう、あなたの正体はばれています。一歩だけ、町に入ってみなさい」

男は言うとおり、町に一歩足を踏み入れてみました。とたんに、鞭のような風が彼の頬を打ち、つぶてのような声が彼の耳を刺しました。
「この恥知らず! よくもあんな嘘がつけたものだ!」
「なんてことでしょう。あの人、あんな人だったの?」
「だまされた。すごいやつだと思っていたのに!」
「馬鹿な奴。とんでもないものを盗んだ!」
「盗っ人め! けち臭い盗っ人め!」

男は周りを見回して声の主を探しました。しかし人影はありませんでした。ただ、風だけが何度も彼の体を打ち、見えない人間たちの罵りをぶつけるのです。

「盗っ人め! 馬鹿が盗んだ! おそれおおいものを、馬鹿が盗んだ!」

男は震え上がりました。凍りついたように、そこから一歩も動けなくなりました。竪琴弾きの声が、冷たく言いました。

「このように、あなたには、二通りの選択が与えられています。永遠のπの計算、そして、糞尿の町の清掃。つまりは永遠の栄光と、永遠に似てはいるがいずれは終わりの来る、恥辱の労働。どちらに、行きますか?」

男は、糞尿にまみれた町を呆然と見ながら、黙りこみました。上を見あげるとそこにはフレスコ画のような明るい青が広がっていましたが、月は見えません。ただ遠い空の果てから、雷鳴が聞こえ、かすかに雲が光りました。竪琴弾きが、もう一度、言いました。

「どちらに、進みますか?」




   (月の世の物語・後の歌)





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やってくる

2013-01-18 06:58:38 | 天使の小窓

はじめは 自分の書く言葉に
なんとなくすっきりしないものを感じる

こんなことば 知ってはいるが
自分ならめったに使わないなどと思う

思いもしない言葉が頭に浮かびあがり
いつの間にかそれを書いている
確かにぴったりの表現なのだが
自分にしては強すぎると思ったり
うますぎると思ったりする

文章の中で なぜかその文 その言葉だけが
奇妙に重いと感じる
そこだけ 奇妙に浮いている
または 全く私らしい文章なのだが
なぜだか 私の文章を
誰かがそっくりに真似して書いているような感じがする
自分が書いたはずなのに

そういうことが はじまりである
これは 自分で書いているが 自分ではないなと
うすうす感じ始める

そういうことが 起こり始めたら
もうすぐ来るな と心の準備をしておいた方がよい

彼らはやってくる
そしてあなたを通して 自分を表現しにくる
あなたは苦しい
運転していた車のハンドルを急にとられて
勝手に自分を他人に使われる

肉体的変化も訪れる
わたしは 一週間ほどほとんど眠れなかった
相当に苦しかった
だが 病院などにはいかないほうがいい
ことをよけいややこしくするだけだから
心配しなくても 平常に戻れば健康に戻る
自分の位置を正しくつかみつつ
「彼ら」のやることを感じて見ていることだ

もちろん彼らがやっているときには
同時に自分もやっている
時と場合によって微妙に違うが
最初から最後まで自分で書いたと思っていた詩が
後で読み返したら ほとんど「彼」が書いていた
と感じる作品もあった
ブログカテゴリ「貝の琴」の中の「めざめたか」がそうである
読み比べる時間があれば読み比べてみてほしい
彼はわたしが気付かないうちから
こうしてわたしを通じて詩を書いていた

「彼ら」はみごとにやってくれる
そしてそれが終わったとき
見事に一巻の詩集ができている
自分が書いたことにはなるのだが
自分が書いたのではない詩集が出来上がる

もちろん これはわたしが経験したことを書いているのであって
これから 御二方の身の上に起こる経験が
このとおりになるとはかぎらない
彼らはあなたがたにはまったく別のやり方をするかもしれない

余計なことだが 自分がなんという天使であるかということを
名乗る天使はひとりしかいない
ほかの天使はだまって仕事をするだろう
彼らは親切で 侵してはならない領域は決して侵さない

最中には 奇妙な変化も訪れた
たとえば絵を描いていた時
右に動かそうとする指が どうしても左に動いてしまう
そういうことがあった
なぜかはわからないが
絵を描くときはそれに注意して
ゆっくりと指を動かした

詩を書く練習は一応しておいたほうがよいと思う
別に頑張る必要はない
思っていることをそのまま書き
自分が正しいと思うことにそって流してゆくと
自然に 当然というところにいきつき
立派な詩ができてくる
表現力というものは ある
わたしたちは子供ではないからだ

わたしたちは 生きている
彼らにとってわたしたちは
地球上のアンテナ基地のようなものだ
たぶんこれからも
たくさんの天使がわたしたちのところに訪れると思う



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小さな花

2013-01-17 07:15:48 | 天使の小窓

ひとびとよ あなたたちが
野辺で 孤独の死を迎えねば
ならなくなったときのために
わたしは 花々にたのんでおこう
あなたたちを愛してくれと
あなたたちに語りかけてくれと

ひとりぼっちではない わたしがいますよと
やさしく ささやきかけておくれと

たんぽぽ すみれ かたばみ ほとけのざ
なのはな おらんだみみなぐさ はこべ
のぎく つゆくさ 花とも見えぬ あめりかせんだんぐさ
きゅうりぐさ なずな やまるりそう
にわぜきしょう

あなたたちが ながれ ながれて
野辺に落ちた時
もはや それ以上 どこにゆくことも
できなくなったとき
その目でさがしなさい
小さな花を

あなたの心に よりそってくれるだろう
愛のことばを かけてくれるだろう
そのときのために
たくさんの花を 覚えておきなさい

のばら さくら 野のあやめ まつよいぐさ
はなにら 野のゆり 花ではないが 青草
青竹 きょうちくとう はまぼう ひなぎきょう
しおん せいたかあわだちそう からすのえんどう
あさがお はまひるがお りんどう ききょう
さおとめばな

あなたを 愛してくれと
たのんでおこう
小さな花々に
どこまでいっても どこにいっても
花は咲いている
孤独に落ちて もはやどこにも
帰るところがなくなったとき
野辺の花を探しなさい
小さな花を

そこにわたしはいるから
あなたをあいしていると そこにわたしはいるから



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さらば

2013-01-16 07:13:21 | 詩集・試練の天使

さてみなさん 名残惜しいが
ここでわたしの使命は大半が終わった
故にいったんわたしはここから消える

(ああ そうなのですか)

あなたは心配することはない 何も
寂しさを感じていることであろう
あなたときたら そういう感情ですら
素直に口にする

(そうです そのとおり
 そのままのことを言おうとしていた
 あなたがいなくなるとさびしいと)

そのとおり
まったく
正直というのにも 節度が ありますよ
これはあなたのことばですが
わたしが同時に言っていました
気がついておられるでしょう

(ええ 確かに
 あのころは あなただとは気がつかなかったが
 確かに自分の言葉にしては上手いと感じていた
 もうあの頃からあなたは
 わたしを見ていて下さったのですね)

そのとおり
見えぬとも わたしはいます
いつでも あなたを見ている
そしてあなたが また
どうしようもないお人よしをやろうとしたら
また出て来ますよ
ほんにあなたにいいたいのは
あなたが どんなにたくさんの人に
正直な故に 利用されていると言うことを
まったくわかっていないということだ
あなたときたら 信じている 人類を
乗り越えてくれると
新しきものとして立ってくれると
純粋に信じている
まあそれだからこそ あなたは
地球に必要とされるのですが

(友よ わたしは
 このようにもまっすぐに
 不器用にしかできませぬ
 だがわたしはこれ以外のわたしを
 できませぬので
 やはりまた 同じことを繰り返すでしょう
 けれども あなたから学んだことは
 確かに わたしの中で生きている
 すっかりと言わなくても
 わたしは 少し変わるでしょう)

そうだといいのですがね
それだと困るとも言えますね
あなたがわたしのまねをしだしたら
一番こまるのは 人類です
人類に必要なのは
馬鹿がつくほど正直な
まっすぐに自分を信じてくれる
あなたなのです

鞭は わたしがやります
愛は あなたがやる
かまいませんよ 今まで通り
同じように こつこつとやってください

それで どうしても人類があなたを馬鹿にするようなら
また 遠慮なくお邪魔いたします

さてもみなさん お待ちかねでした
これで いったん 試練の天使の授業は 終わりです
だが わたしは
明日にも来るかもしれません
学びましたね
わたしは 約束をたがえることなど簡単にできる
人類がそういうことを簡単にやりますから

これからもまた たぶん
お会いできる日は 何度となくやってくるでしょう
ほんに かのじょはやさしい
かのじょが生き残ってくれた ただそれだけで
たくさんの天使が
この世において様々な表現をすることができるのです

では最後にもう一度

正義の天使よ
刃の天使よ

活動を始めてください
あなたがたの身にも
かのじょと同じような経験があるかもしれないと言うことを
覚悟しておいてください
見えぬ天使が訪れ かってに自分の肉体を使って表現する
そう言うことをすることがあるかもしれないと
あなたがたは 生きている
それだけで たくさんの天使が助かるのです
そのときあなたがたは 多少苦しむ
かのじょほどの忍耐はできないからです
だがわたしたちは 必要以上に
あなたがたを苦しめることはしない
これは耐えられないという苦しみでも
ほんのわずかの間だと思ってください
驚かずに 冷静に受け入れてください
我々は 天使存在です
あなたがたは わたしの友
かのじょよりも あなたがたは わたしに近い
いずれ 自分の正体がすっかりとわかってきたとき
それがわかるでしょう

正義の天使よ 刃の天使よ
その名の意味が 深くわかるときが来るでしょう

ではここで さらば
また お会いいたしましょう



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おとひめに

2013-01-15 06:59:58 | 詩集・試練の天使


白砂を 海に溶かして 文を寄す



           おとひめに告ぐ 時は来たりと




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こっちにきなさい

2013-01-14 07:56:01 | 詩集・試練の天使

さあて
きょうも授業するわよう
準備はしてきましたかあ? みなさん
え? いつまででてくるのかって?
どうかしら? わからないわあ

もう ほんとね かのじょはやさしかったわね
かのじょ やさしくてとおってもかわいかったものね
あっちのほうがいいにきまってるわよね
でもね ざーんねん
かのじょの方は今 定員いっぱいどころか
定員の4倍くらいの人間が行っちゃって
かのじょ困ってるのよ

だからね すまないけど
かのじょのほうはもう 締め切りなの
ごめんね
なんどもなんども あきもせず
ずっとやっててくれたの
それはそれはたあくさんやっててくれたの
だからね もう限界きちゃったのよ

それでね 後の人は頼むって 言われちゃったから
みなさんは
みんな わたしのところにきなさいね
だいじょうぶよ
わたしも まけずおとらず
とっても とおっても やさしいから
ほんとうよ
天使さまはみんな すっごくやさしいの

みんなでいっしょに やっていきましょうね
がんばって べんきょうしましょうね
力を合わせてやれば 絶対にできるわ
つらいときは たすけあいましょう
だいじょうぶ わたしはいつも
あなたたちの そばにいて たすけてあげる

なんちゃって

え? 何か聞こえた?
べつに なんでもないわよう?

うれしいでしょう?
そりゃもう うっざいほど
うっざいほっどっ
ずっと 試練の天使さまと
いっしょにいられるのよ

みんな なんでふるえているのかな?
心配しないで
試練の天使さまは すっごくやさしいから
みんなを とっても 愛してるから
そりゃもう 苦しいほど
だあい好きだから

いっしょにやりましょうね
つらいわよ
いたいわよ
こわいわよ
もおのすっごっくっ
くるしいわよ
血ぃ見るかもしれないわあ
でもね これ愛だから
試練の天使さまの 
ふかい ふかあああああああああい
愛だから
みんな こっちにきなさいね

こっちにっ!!!!!



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ひさかたの

2013-01-13 07:02:51 | 詩集・試練の天使


つかれはて なえはてし我 たすけむと
                君は来しかな 空彼方より



ひさかたの 天の使ひの 荒し男よ
                鳥を放てよ ことのはの弓




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またくるよ

2013-01-12 07:24:03 | 詩集・試練の天使

さあみなさん
どうですかあ 試練の天使さまの授業
楽しいですねえ
一体いつになったら終わるんだって
思いますかあ?
そこの顔ひきつったあなた どうしたのかな?
ああそう やっぱり楽しいのね
おもしろいものねえ 試練の天使さまの授業
さあ今日も はじめますよう

言っとくけどみんな 
これ ぜんぶ 愛だからね
そこんとこ 絶対まちがえないでね
試練の天使さまは とってもやさしいの
だからみんなのために なんでもやってあげたいのよ

それでねえ 言うんだけど
これね あたりまえのことだけど
男の子はね
かってに 女の子の胸をさわっちゃだめよ
かってに 女の子のだいじなとこさわっちゃだめよ
のぞいたりしても だめよ
わかってるでしょうけど あたりまえよね
こんなこと
でも やってるわよね 男の子
ずっとずっと 長いこと
やってるわよね
それね 大変なことになってるから

あのね これからはね
たあくさんの男の子が
女の子に触れなくなるの
どうしても 触れなくなるの
ほんとなのよ?

きびしいのよ 神さまは
真実の天使さまも言ってたでしょう
「余編・飢」
真実の天使さまはやさしいわね
遠回りに みんなに教えたの
そんなの 嘘だって思ってるでしょ
でもね あのお話し ほとんど真実よ

女の子はね みんなつらかったのよ
みんな がまんしてたのよ
だからね もう女の子を苦しい目にあわせたら
ぜったいにいけないってことになっちゃったの
ごめんね
試練の天使さまは きついね

いいですかあ? 男の子たち
これからは すごく勉強した男の子じゃないと
女の子に触れなくなるから
そこんとこ わかってね

じゃあねえ
え また出てくるのかって?
どうしようかしらね
みんな期待してるみたいだし
試練の天使さまも すごく楽しいし
お楽しみにね



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