幾度となく映画化・ドラマ化されている「白い巨塔」は「忠臣蔵」のようなもので、製作決定が報じられると、誰がどの役柄を演じるのか、非常に気になる。
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この物語の配役にはいくつかルール(設定)がある。
〇財前五郎助教授と里見脩二助教授は同期。つまり、同年代の俳優であることが必要。
〇財前の上司で定年退官間近の東教授は舞台となっている浪速大学(大阪)ではなく東都大学(東京)卒で、浪速大学ではいわゆる外様教授であるというコンプレックスを抱いている。
また、財前が自分の後任となるのを阻止するため、母校の船尾教授に相談し、「移入教授」を画策している。
〇里見の妻三千代と東教授の一人娘佐枝子は女子大の同級生。
〇財前の愛人の花森ケイ子は女子医大を中退した経歴を持つインテリのホステス。
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1966年に製作された田宮二郎主演の映画は、里見が田村高廣。ライバルとして不足がないキャスティングだ。ケイ子は小川真由美、東佐枝子は藤村志保。
78年製作の、やはり田宮二郎主演のドラマ版は里見が山本学で、東佐枝子が島田陽子。後年、山本がクイズ番組に出演して、私が「白い巨塔」で島田さんと共演した際に一番困ったことは?という質問を出したところ、回答者が「背が足りなかった」と即答して会場に爆笑の渦が起こってしまったのだが、それが正解だった。
里見三千代は上村香子、ケイ子は妖花太地喜和子だ。
生田悦子が演じた財前の妻杏子もよかった。関西のおおらかな奥様を気持ちよさそうに演じていた。
90年のテレビ朝日製作のスペシャルドラマは主演が村上弘明。おお、気仙沼高校を卒業して浪速大学に進学したのか、というのは冗談です。里見三千代は石井めぐみ、ケイ子は池上季実子、東佐枝子は紺野美沙子。ちなみに東教授はリーの父こと二谷英明だった。
大ヒットしたフジテレビ製作の2003年版ドラマは財前が唐沢寿明、里見が江口洋介。この二人のキャスティング、逆でも通用するかな。
財前夫人の若村真由美がケイ子の黒木瞳に絡む諸場面はサスペンスかホラードラマに近かった。里見三千代は水野真紀、東佐枝子は矢田亜希子。ここでは大学の先輩後輩となっている。
このバージョンでは、芸能界きってのインテリ石坂浩二演じる東教授の負けっぷりに感心した。よくあそこまで演じたものだ。
最後は昨年2019年の岡田准一主演のドラマ。里見が松山ケンイチ、財前夫人が夏帆、里見夫人が徳永えり、ケイ子は沢尻エリカ、東佐枝子にいたっては二十歳を過ぎたばかりの飯豊まりえ、とぐっと若返っている。いい配役だが、岡田と松山はまだ教授昇進にはやや年齢が足りないのと、夏帆と沢尻が逆でも面白いかも、と思った。
けれども、このバージョンで最も驚いたのは、財前側にも東側にも属さず、少数集団ながら教授選のキャスティングボードを握ろうと暗躍する狡猾な野坂教授役を、女性の市川実日子に振り当てたことだ。「シン・ゴジラ」効果か。なにせこの役はこれまで加藤武、小松方正、中尾彬といったギトギトの男優が演じていたから。
2019年版。椎名桔平(右端)の船尾教授もよかった。
2003年版。
石坂浩二(東教授)、高畑淳子(東教授夫人)、中原丈雄(船尾教授)、矢田亜希子(東佐枝子)