ひさしぶりにスーツを作った。
一度でもオーダーメイド、あるいはイージーオーダーを経験したことがある方ならわかるだろうが、とにかく決めることがたくさんある。
まずは生地。次にアメリカン・トラッドやブリティッシュ、またはイタリアンなどのおおよそのスタイル選択。それから、裏地、襟、ポケットの形、前ボタンの数、ボタン糸の色、袖、ネームの様式と糸の色、パンツのタック、ポケットのフラップ、裾の幅と形、ベルトレスにすると帯の幅、などなど。
全部自分で決めなければならない。あるいは採寸者に問われるので全部答えなければならない。
そうしないと気に合ったスーツは完成しない。
それが面倒な方は吊るし(既製品)を買うのがいい。
以前書いたように大男の僕でも既製品にサイズはある。
日本だとAB8、アメリカは42レギュラー、フランス・イタリアは52。
車は購入したそのままで乗り続けるのが好みなのだが、スーツは生活のスパイスとして、少し遊びを入れて作ってきた。
それからこれはあまり大きな声では言えないのだけれど、若いころにオーダーで失敗して以来、必ず(別の生地で)二着作ることにしている。もしものための、滑り止めに近い感覚だ。
今回は心持ち青色が入ったモスグリーンと、ライトグレー地に薄いベージュの格子柄の二着で、前者の生地は大同毛織のミリオンテックス、後者がカルヴァン・パリ・ブランドのものだ。
3週間ほどで届いた品物は、箱を開け、薄葉紙を開いて上着の肩をそっとつまんで取り出す。
映画「さらば青春の光」で主人公ジミーがブライトンへ着て行くためにオーダーしたスーツをそうしたように。
誰が見ているわけでもないのに、素早く、けれども、大げさに腕を袖に通すと、やはり着心地がいい。段返り三つボタンの第二ボタンだけとめて、両裾を引き伸ばせば、馬子にも衣裳、ひとかどの男の出来上がりだ。
57分17秒から。